「部下がうつうつとしていて、やる気がないように見える」
「仕事に集中できていないのか、ミスやトラブルが多発している」
ただでさえ人手不足の職場において、そんな「モチベーションやパフォーマンスが低い部下」の存在は深刻だ。そんな部下を「いきいきと主体的に働いて、成果を上げる部下」に変えるには、どうしたらいいのか?
若手社員から中堅・管理職・人事・経営者まで、多様なビジネスパーソンの問題と向き合ってきた産業医であり、『マネジメントはがんばらないほどうまくいく うつうつ部下をいきいき部下に変える世界一シンプルな方法』の著者・三宅琢氏に解説してもらった。
「当事者不在型マネジメント」の恐怖
「部下はこうあるべきだ」
「うちの社員なら仕事はこうやるのが当然だ」
といった「型」は、企業によっていつの間にか出来上がっているものです。
けれども、マネジメントを上司の考える「型」にはめ込んでいくやり方で進めていると、必ずしっくりこない部分が出てきます。「マネジメントされる側」のことをしっかり見ずに、強引に引っ張っていくばかりでは、いずれほころびが出ます。それは、結果的に上司の仕事を増やすことにつながります。
・当事者不在のまま、「これでやれ」と押しつける
・その結果を見て「こいつは向いていない」と勝手に判断する
こんなふうに、一度も当人の意見を聞くことなく、どんどん上司だけで進めてしまうとすれば、マネジメントが簡単になったように見えても、メンタル不調の増加・モチベーションの低下・辞める人の増加などによって、「やらなくてもよかった仕事」が増えていくことになるのです。
部下に「教わりに行く」ことの大切さ
現代の職場において、モチベーションの高い部下を育てるには、「当事者ときちんと向き合うマネジメント」が求められます。
「向き合うと言っても、どうしていいかわからない」と思う方もいるかもしれませんが、難しく考える必要はありません。わからないなら、教えてもらえばいいのです。
わからないことを、わからないままにしておくことは、厳しくいえば職務怠慢です。でも「部下をどうしていいかわからない」と嘆く前に、当人に教えてもらいに行けばよいのです。
まずは本人の見解を聞く
たとえば、最近ミスが増えている部下をどうにかしたいときには、部下本人に、「ミスが最近増えているけど、どうすれば改善できると思う?」と、聞いてみてはどうでしょうか。
部下本人の考えを聞かず、上司の個人的な見解を一方的に伝えるだけでは、あまり意味がありません。部下はしょせん他人。どんなに仕事の知識や経験が豊富な上司でも、部下のことについては何一つわかっていないといっても過言ではないのです。
部下が困っていることの原因や改善方法の手がかりをいちばん持っているのは、部下本人です。まずは自身でしっかり考えてもらって、それを聞いてみないことには、適切なアドバイスはできません。
「なぜ?」よりも「どうしたら?」
このとき注意していただきたいのは、同じ「部下本人に聞く」にしても、「なぜミスばっかりしているのか?」といったように「なぜ?」を聞かないことです。
もし、なぜミスするのかがわかっていて、改善方法が見つかっていたら、同じミスを繰り返したりしないはず。「なぜ」(Why)ミスをするのか聞くよりも、「どうしたら」(How)うまくいくと思うかを聞いたほうが、よほど効果的なのです。
どうすれば問題が少しでもよくなるのか、まず本人に考えてもらう。その上で上司は、上司としての視点を持って、「一緒に」解決策を考えるとよいでしょう。
「選択肢」を与える
そして解決策を考えたら、それらをいくつかの「選択肢」に絞り込み、どれを実行していくか、部下本人に選んでもらうことをおすすめします。
なぜか? 「自分で決めたこと」を遂行していくのですから、主体性を持ちやすく、モチベーションも責任感も自然に高まるからです。
選択肢は、どれも「上司として責任を持って部下にやってほしい内容」に絞り、部下が自分の意思で選んだことを意識させることが大切です。
「確認作業」を忘れない
上司が部下から教わり、選択肢を絞り込み、部下自身の裁量権で選択して実行してもらう。このように、「部下本人の納得感」を重視することは、いまの職場ではとても大切なことだと考えます。
そして忘れないでほしいのが、最後に「確認作業」をすること。
どんな仕事でも、最後に一通り目を通して、間違いがないかどうか確認すれば、ミスを防げますね。これと同じで、マネジメントにおいても、「確認」は非常に重要なステップです。
「大丈夫?」「わかった?」というセリフに意味はない
このとき、「大丈夫?」「わかった?」といった声かけで満足している人も多いのですが、実はこれにはほとんど意味がありません。
というのも、「大丈夫?」と尋ねられても、正直に答える人ばかりではないからです。もし「部下は全員、私には正直で、心を開いてくれている」と思っているとしても、そう思っているのはご自身だけだった、となりかねません。
結局、人の心の中は、確かめようがないのです。「大丈夫?」と声をかけて、「大丈夫です」と返事がきても「ダメです」と返事がきても、それだけでは、どっちも「本当の気持ちかどうか」はわからないということです。
当人の言葉で言語化してもらう
ときには、ダメなのに、ムリをして「大丈夫です」と返事をする人もいます。一方で、やってやれなくもないけど、ラクがしたいので「ダメです」と返事をする人もいます。
だからこそ、こうした無意味な問いかけはやめて、当人に当人の言葉で言語化してもらうことが、仕事の上では最善の確認作業になります。
× 「わかった?」
↓
〇 「自分の言葉で言ってみて」
× 「大丈夫?」
↓
〇 「いま、私(上司)としては、○○○○ということだと認識したけど、ほかに言い忘れたことある? 伝え切れていないところはある?」
言い方はいろいろあるでしょうが、とにかく、その人に考えてもらい、言葉にしてもらわなければ、確認したくてもできないのです。
認識をしっかりとすり合わせる
その上で、あなたが思っていたのと違う点があれば、それについて再度、話をするべきでしょう。
「じゃあ、いま話し合って決めたプロジェクトAの進め方について、自分の言葉で言ってみて」
「はい。2週間後ぐらいまでに、3つの案件をまとめて報告します」
「あれ、僕はもう少し早く報告もらうつもりだったけど。それに、まとめてじゃなくてもいいんだよ」
「あ、そうですか。じゃ、来週から、わかった案件から随時、報告します」
「はい。それでお願いします」
このように、認識をはっきりさせていかなければ、お互いにちゃんと理解しているかどうかは確認できません。職場での上司としての声掛けにおいて「わかった?」「はい」では、まったく不十分なのです。
■ 三宅 琢(みやけ・たく)
医学博士、眼科医、産業医・産業衛生専攻医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社 Studio Gift Hands代表取締役、公益社団法人 NEXT VISION 理事、東京大学政策ビジョンセンター客員研究員。
産業医・労働衛生コンサルタントとして、IT系企業から大手アパレル企業まで数多くの職場環境に関するコンサルタント業務を行う。
三宅氏の著書:
『マネジメントはがんばらないほどうまくいく うつうつ部下をいきいき部下に変える世界一シンプルな方法』
三宅 琢