はじめに
通信環境や交通網の発達により情報や物の流れが活発になるとともに、多くの人が気軽に国境を越えての移動が可能となりました。こういった流れに同調するかのように、多くの企業が国際企業から、多国籍企業、そしてグローバル企業へと変化をしつつあります。この記事では、グローバルという言葉にスポットをあて、グローバル企業とはどのようなものかについて、ご紹介していきます。
目次
1. グローバルの意味、そのメリット・デメリットを検証
2. グローバルとインターナショナルの意味の違いは?
3. グローバル企業、国際企業を経て、多国籍企業へ、その違いは?
4. 求められる多様性、グローバル経営とは何か?
5. グローバル人事とは、その目指す姿は?
6. グローバル人材に求められること、教育環境などの課題
7. グローバル化の期待と課題とは?
1. グローバルの意味、そのメリット・デメリットを検証
グローバルは直訳すると、「全世界の」という他に「広範囲の」、「包括的な」という意味があります。すなわちグローバル化とは、「世界規模で地域を超えた結びつきが強まること」を指しているといえます。
1989年11月のベルリンの壁の崩壊により、社会主義圏が崩れてから、各国の企業は自国の国境を越えて自由に活動していくことができるようになりました。つまり、国境に縛られることなく、製品や人材、資本が自由に行き来できるようになったことで、グローバル化が一気に進むようになったのです。
グローバル化のメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 生産性の向上
生産コストの安い国に生産拠点を移すことができます。 - 新たな雇用
生産拠点を移した国において、新たな雇用を生むことができます。 - 交流の活性化
これまでとは違う場所で生産活動を行うことで、新しい技術や文化が生まれることが期待できます。
一方、グローバル化にはこんなデメリットもあるといわれています。
- 経済の空洞化
生産拠点を海外に移すことで、自国内での雇用の損失や資金の移動、税収が減るといった問題が起こります。 - コミュニケーション問題
企業内には、多くの国から人材が集まることになりますが、言語が違うことによるコミュニケーション問題が発生しやすいといえます。ひどくなると業務に支障が出ることもあります。 - 文化面での衝突
企業の通勤圏である地域には、様々な国籍の人が居住することになりますが、生活習慣の違う国の人が地域社会に入り込むことによる住民とのトラブルが懸念されます。
2. グローバルとインターナショナルの意味の違いは?
「グローバル」と似ている言葉に「インターナショナル」という言葉があります。このふたつは、いったい何が違うのでしょうか?
インターナショナルは直訳すると「国際的な」という意味になります。グローバルと何が違うの?という感じもしますが、以下の英訳の例を見ると、その違いがわかりやすいかもしれません。
- 地球温暖化→Global Warming(グローバル・ウォーミング)
- 旅客機の国際線→International Flight(インターナショナル・フライト)
前者は地球全体を包括的に指していますが、後者は2国間以上の事柄であるものの、必ず除外される国があるために、「地球全体の」という意味とはならないという違いがあります。
これまでの経済は、経済圏とよばれる、ある程度距離が近い地域やこれまでの結びつきがある限られたエリアでのみ、マーケットが形成されていました。しかし東ヨーロッパの社会主義経済圏が崩壊した以降、マーケットは拡大し続け、西側経済圏だけではなくアジアや中国といった地域も含んだ、全世界的な経済圏が形成されつつあります。これまでは、通常2国間で行われていた貿易協定も、複数の国が関わるものが、当たり前となってきました。つまりグローバル経済とは、経済が、西側や中東、アジア、アメリカというこれまではインターナショナルでしかなかった枠組みから、地球規模の経済へと発展しているということを表しているといえるでしょう。
3. グローバル企業、国際企業を経て、多国籍企業へ、その違いは?
次に「グローバル企業」「国際企業」「多国籍企業」の違いについてみてみましょう。実は、2006年に当時のIBMのCEOであった、サミュエル・パルミサーノ氏により、その違いは明確にGIE(Global Integrated Enterprise)という形で定義づけられています。
国際企業
19世紀における企業の国際モデルが基本。ビジネスの機能の大半は本国で行い、販売製造の一部のみを別の国で行うというスタイルの企業を指します。
多国籍企業
20世紀に入って登場してきた企業のスタイル。一部の各国共通の機能のみを本国で実施して、それ以外は実際に販売や製造を行う国の実勢にあわせた機能をもたせるというスタイルの企業です。海外拠点が本国に依存することなく、ある程度自立した状態で企業運営を行うようになっていることが最大の特徴といえるでしょう。
グローバル企業
21世紀型の企業国際化により、本国を含めた全世界全ての拠点を1つの企業として組織化された企業を指します。これは、多国籍企業をより発展させた形の企業で、各国の拠点で得られた情報、開発された技術といったものはすべて世界中の拠点で共有されるようになっており、ひとつの拠点内だけの限られたものにはならないようにしているというスタイルの企業となります。世界中に拠点があるというだけではなく、情報・技術・人材の最適化を世界規模で図ることができるという点が最たる特徴といえます。
4. 求められる多様性、グローバル経営とは何か?
では、グローバル経営とはどのようなことを指すのでしょうか?
海外に進出して拠点を増やし、国際的に経営を行うことをグローバル経営と理解している人も多いようですが、実はそのように単純なものではありません。例えば、インターネットの世界では全世界共通のプラットホームで端末からネットにアクセスしますが、個々の端末を見てみると、その端末を使う人が使っている言語を使って、入力なり検索なりが行われています。グローバル企業における経営も同じで、世界基準で共通化しなくてはいけない部分と、拠点が置かれているエリアの特性に合わせた経営を両立する必要があるのです。
世界経済は急速にグローバル化が進んでおり、常に世界のどこかでマーケットは動きを見せているという状態となっています。例えば、取り扱っている商品やサービスについて、日本でのマーケットが縮小傾向にあったとしても、アジア圏という大きな市場に目を向けたときに、中国や韓国、台湾といったところでは、マーケットの拡大の余地がまだまだある、ということがあります。つまり、本国だけでの情報収集やマーケット特性だけを見ていたのでは、波に乗り遅れ、新たに獲得できる利益を取り逃がしてしまうということも十分に考えられます。
このため、グローバル企業には、各拠点のコントロールを円滑にして、経営を地域ごとに包括的に制御することで、ビジネスチャンスを逃さない経営体制が求められることになります。つまり、グローバル経営とは、グローバルな観点での共通化と地域実勢に合わせたローカリゼーション化を企業内部で確立することであるといえるのではないでしょうか。
5. グローバル人事とは、その目指す姿は?
グローバル企業においては、国際競争力を高めるために、優秀な人材を確保する人事戦略が必要とされます。これが、グローバル人事とよばれるものです。
グローバル人事では、本国やどこの拠点の出身者であるかにかかわらず、自社の従業員の能力を適正に評価することが求められます。このため、全世界に広がっている拠点すべての従業員の情報を一元管理し、一定の基準に従って成果や役割を公正に判断するシステムが必要となるケースが多いようです。
グローバル人事を実現するためのシステム作りの過程においては、まず経営陣トップがグローバル人事に感心を持つことと、強い意思をもってシステム作りに取り組む姿勢が必要となります。そのためには、グローバル人事経験者を外部から積極的に招聘して、人事担当にあたってもらうなどの工夫も必要となるでしょう。
6. グローバル人材に求められること、教育環境などの課題
グローバル人材とは、自国のアイデンティティを持ちつつも、なお国際的に広い視野や能力を持った人材を指します。このように聞くと、海外での在住経験や留学経験がある人材が該当するようにも思われますが、実際には、海外経験よりも「成果を生み出せる人材」をグローバル人材としてとらえている企業が多いようです。つまり海外など、普段自分が過ごしている環境と異なる場所においても、その時々の状況を的確に理解して、様々な相手と良好な関係を築き、成果を出すことができる人材が、強く求められているということなのでしょう。
なお、こういったグローバル人材を育てるためには、以下の3つのポイントが重要とされています。
- 適正
異文化への関心、大きな変化への対応力、性格やキャラクターなど。ほとんどがその人自身が持って生まれたものであり、教育や経験で変えることが難しい部分となります。 - 能力
主にビジネススキルとよばれるものです。 - 知識
語学や自社の経営に関する知識がこれに該当します。
少し前までは、「適正」こそが、グローバル人材の採用の最重要ポイントとされてきました。しかし、適性をもった人材だけを探したのでは、なかなか企業が必要とする人数を集めることが難しいことから、最近では、教育や業務の中で伸ばすことができる「能力」「知識」に着目し、採用後の教育によって、これらを必要とされるレベルまで引き上げ、グローバル人材に育て上げるという手法をとることが一般的となっているようです。
なお、グローバル人材となるために最も必要とされる語学力については、採用後の教育だけで引き延ばすには限りがあります。このため、学校教育における英語教育の質の向上など、社会環境の整備も大切になってくるのではないでしょうか。
7. グローバル化の期待と課題とは?
急速に進む企業のグローバル化ですが、新たな市場の開拓などが期待される反面、多くの課題があるとされています。特に日本企業において課題となるのは、「多様性への対応」といえるでしょう。
例えば、グローバル企業では、人種や性別、考え方など多様な人材を活かす「ダイバーシティ」の考え方が一般的となりますが、従来の日本型の企業には、大多数の人とは異なる少数意見を述べることや、目上の人に対して異なる意見を言うことはよくないとされる風潮があります。また、雇用を安定させることで経済を成長させるのに大きな役割を果たした年功序列の昇進システムが健在である企業も数多く存在しています。グローバル化に対応するには、このような日本型の企業体質を変えてゆく必要があるわけです。
おわりに
いかがでしたでしょうか。急速に進む企業のグローバル化ですが、経営陣の意識改革や方向転換、人材の確保など、まだまだ様々な課題があります。このような流れをしっかりと理解することが、これからの企業で活躍できるビジネスパーソンとして成長してゆく一歩となるのかもしれません。
LIMO編集部