今や世界最強の韓国メモリー産業と言えば、誰もが思い浮かべるのが世界チャンピオンとなったサムスン電子のことであろう。だが、世界3位に位置するSKハイニックスのことも忘れてはいけない。DRAMおよびNANDフラッシュメモリーを武器とするSKハイニックスの2018年4~6月期の純利益率は42%となっており、純利益は何と前年同期比75%増の4329億円に達しているのだ。

 波に乗るSKハイニックスはここにきて、世界的な半導体投資抑制の機運があるにもかかわらず、京畿道利川市に3500億円を投じる半導体新工場建設をアナウンスした。この工場の敷地面積は5万3000㎡。2018年末に着工し、2020年10月の完成稼働を目指す。AIをはじめとする第4次産業革命で高まるメモリー需要に対応するのが最大の狙いと言われている。

EUV露光装置を大量に導入

 確かに首位を行くサムスンの設備投資が数カ月スライドするとの情報が流れ、これだけで世界の設備投資ダウンの記事を書きまくる記者も多い。そしてまた半導体ブームも終焉を迎えたと変に喜ぶアナリストもかなりいるのだ。

 しかしSKハイニックスは、そうした風潮を打ち払うように積極果敢な新工場計画を打ち出したわけであり、今のところ新世代技術と言われるEUV露光装置を大量に導入すると言われている。ちなみに、EUV露光をほぼ独占的に生産するオランダのASMLは、2020年には70~80台のEUV露光を出荷する必要があると内部的には予想しており、現在のArF液浸露光を凌駕する台数ベースになっていくとしているのだ。

 SKハイニックスの設備投資は全くとどまるところを知らない。2017年からは年間1兆円を突破しており、この水準をずっと維持していくというのであるから、まさに驚きである。現状においても、世界最大規模の半導体工場M14を新設中であり、2018年下期には清州の新工場も立ち上がる。さらに加えて中国の無錫にもクリーンルーム拡張を断行中であり、そして今回の利川新工場と投資ラッシュが続くのだ。

NAND比率引き上げへ、中国はやはり脅威

 それ以上に驚きであるのはSKハイニックスの売り上げ推移だ。2015年当時1兆7000億円程度であった売り上げは2016年にほぼ倍増の3兆円となり、2017年はさらに伸びて4兆2000億円の水準となり、世界ランキングはサムスン、インテルに次ぐ3位に食い込んできた。

 もともとこの会社は、あまり業績がよくなかった現代(ヒュンダイ)とLGの半導体を統合したハイニックスをSKグループが買収したことに始まる。2012年当時は227億円の赤字を出し、まあここ数年でこの会社は終わりでしょう、という噂は常に飛び交っていた。ところが、である。崔泰源会長というある種天才的な経営手腕を持つ男が登場してから、完全にと言っていいほど生まれ変わった。

 SKハイニックスの主力製品は何といってもメモリーであるが、DRAMについての世界シェアはサムスン電子の48.5%に次ぐ27%であり、NANDフラッシュメモリーについてはサムスン電子、東芝、ウエスタンデジタル、マイクロンに次ぐ第5位(世界シェア10.7%)となっている。これからの課題は強みを持つDRAMを強化する一方で、いかにNANDフラッシュメモリーの比率を引き上げていくかということにあるだろう。よく知られているように同社は日本の東芝と深い交流を持ち、かつ新会社としてスタートを切った東芝メモリにも出資をしている。いわば反サムスン連合を築こうとする運動論も出てきているのだと言ってよい。

 それにしても中国の韓国半導体企業狩りは激化する一方であり、SKやサムスンもこの動きにはひたすら怯えている。最近の例で言えば、中国半導体メーカーに転職すれば、年俸は5倍、外国人向けの高級マンションをあてがわれ、小学生のこどもの国際学校の学費を5年間支援するという破格な条件まで出されている。サムスン電子の元副社長が17年11月に中国のSMICに入社したが、この移籍で彼は10億円を手にしたと言われている。札束でビンタして言うことを聞かせる中国企業の人材引き抜きは、世界の頂点にいる韓国メモリー産業に暗い影を落としつつある。

(泉谷渉)

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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
 30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉