米国と中国は、ともに妥協できない全面対決へ

日米等は貿易摩擦、米中は経済戦争(上)

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日米貿易摩擦等と米中の対立は本質的に異なる、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は捉えています。

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ケンカには2通りあります。戦う気はないのに「殴るぞ」と脅して相手の持ち物を奪い取る場合と、相手を倒すつもりで本気で戦う場合です。日米等の貿易摩擦は前者、米中経済戦争は後者に似ている、と言えそうです。

日欧等との貿易摩擦は、妥協を引き出すための「ハッタリ」

就任以来、自由貿易の崇高な理念を無視してアメリカファーストを押し通し、世界中で摩擦を引き起こしているトランプ大統領ですが、日欧等との貿易摩擦と対中経済戦争は、本質的に異なるものなので、しっかり区別して考える必要があります。

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日欧等との貿易摩擦は、昔ながらの貿易摩擦です。日本は、昔から日米貿易摩擦に苦しめられてきましたから、その延長線上で捉えれば良い話です。商売人としてのトランプ大統領の交渉術が加わっているため、「ハッタリ外交」的なところもありますが、最終的には相手の妥協を引き出して手打ちをすることが目的であり、本格的な貿易戦争で関税引き上げ合戦を繰り広げたりするつもりはないでしょう。

トランプ大統領の要求水準は不明だが

あとは、トランプ大統領が狙っている「妥協」が、本当に米国にとって大きな利益をもたらし、相手国にとって大きな損害となるようなものなのか、という点でしょう。本当のアメリカファーストを求めすぎると、交渉が決裂して関税引き上げ合戦になってしまう可能性もありますから、商売人として「落としどころ」をどこに定めるか、腕の見せどころといったところでしょうか。

西側諸国に対するトランプ大統領の姿勢はアメリカファーストですが、内容としては、自由貿易体制への挑戦のように見えても、米国が輸入を減らすことよりも相手国に米国製品を買わせて世界貿易を拡大させようという意図である場合も多いと思われ、全体としては自由貿易体制への悪影響とは言えないようにも見えます。

今ひとつ重要なことは、トランプ大統領は日欧と本気で争っている余裕はない、ということです。後述のように中国と全面的な経済戦争を戦おうとしているとすれば、日欧と協力して「中国を封じ込める」ことが必要だからです。これも、筆者がトランプ大統領のアメリカファーストを余り心配していない理由の一つです。

ちなみに、欧州連合(EU)のユンケル欧州委員長がトランプ大統領との会談で、「中国の貿易慣行を巡る対処で米国を後押ししていく」との意志を明示した、と伝えられています。

もしかすると、これが米欧貿易摩擦というハッタリ戦略を採用したトランプ大統領の一番の狙いだったのかもしれませんね。「俺と組んで中国と戦え。嫌なら関税を課すぞ!」ということで。そうだとすると対日要求も・・・。

中国との経済戦争は、条件交渉ではない可能性が大

一方で、中国に対する米国の姿勢を見ていると、条件交渉をして米国の利益に資するように中国に妥協を迫ろうという気配が感じられません。単に中国の経済が困れば良い、といったイメージです。

「中国から米国が輸入しているものに関税をかけて、米国の国内生産を増やそう」ということであれば、品目を慎重に選ぶべきでしょうが、トランプ大統領は中国からの全輸入品に順次関税を課していく、とも述べていて、米国内で生産できないものも中国から輸入しない方針のようです。そんなことをすれば、米国の輸入者が高い物を買わされることにもなりかねません。

そして当然、中国は対米輸入品に報復関税を課しますから、米国の輸出業者の中には打撃を被るところも出てくるはずです。自由貿易は双方のメリットというのは経済学の基本ですから、自由貿易を制限することで米国もデメリットを被ることは当然なのです。

しかし、それでも米国は中国との貿易を制限しようとしています。それは、中国が覇権を目指していることに強い危機感を持つようになったからです。習近平氏は故鄧小平氏の韜光養晦(とうこうようかい:能力を隠しつつ力を蓄える)路線を放棄し、「中華民族の偉大なる復興」「中国製造2025」などによって覇権を目指す姿勢を鮮明にしています。

そして実際、中国の経済もハイテク技術も急速に発展しつつあり、軍事力も急激に増強されつつあり、将来は中国に覇権を握られると危惧する米国人は増えています。同時に、中国が不正な手段で米国のハイテク技術を入手している、といった認識も米国内に広がりつつあります。

そうなると米国は、短期的な損得ではなく、「中国を叩き潰すためなら自分も被害を被るのは仕方ない」と考えるようになります。「肉を切らせて骨を断つ」というわけですね。

問題は、対中強行姿勢はトランプ大統領個人のものではなさそうだ、ということです。中国企業ZTEへの制裁解除をトランプ大統領が決めたにもかかわらず、上院が制裁解除を撤回する条項を含む法案を可決したことには大いに注目すべきでしょう。

もしもそれが米国の強い意志だとすると、全面戦争は避けられないでしょう。すでに欧州の協力は取り付けました。日本も協力を要請されれば断れないでしょう。加えて、唐突にロシアや北朝鮮と和解したことさえも、小異を捨てて「対中包囲網」という大同につく、という大戦略の一端なのかもしれません。

中国も、本心はどうであれ、メンツの国ですから、売られたケンカは買わざるを得ないでしょう。米国への国民感情も悪化していくでしょうから、政府としても引き返せなくなるかもしれません。米と欧を分断して「米国はひどい国だから、欧州と中国で自由貿易を守るために仲良くしよう」という戦略も、今となってはもう使えませんし。

全面戦争になれば、米国が圧勝するはずです。だからこそ、米国は全面戦争を仕掛けているのですから。今後の展開には、要注目です。米国が圧勝すると考える理由は以下の(下)で。

関連記事:『米中経済戦争で米国は「肉を切らせて骨を断つ 日米等は貿易摩擦、米中は経済戦争(下)」

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塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ。
現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と関係なく個人として行なっているため、現職は経済評論家と表記したものである。
(近著)
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