米中経済戦争で米国は「肉を切らせて骨を断つ」

日米等は貿易摩擦、米中は経済戦争(下)

米国は、中国との覇権争いを制するため、「肉を切らせて骨を断つ」つもりだろう、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

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拙稿『米国と中国は、ともに妥協できない全面対決へ』で記したように、日米貿易摩擦等におけるトランプ大統領の「アメリカファースト」の本質は古典的な貿易摩擦であって、他国と米国の「ゼロサムゲーム」において米国が儲けよう、というものです。したがって、日本や欧州等は米国にどんな「手土産」を持参すれば良いかを考えれば良いわけです。

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しかし、米中経済戦争は本質が異なります。20年後、30年後に予想される米中の覇権争いを意識した米国が、今のうちに中国を潰しておこうと考えて仕掛けているのが米中貿易戦争なのです。戦争ですから、当然に双方が痛みを負いますが、それでも「肉を切らせて骨を断とう」と米国は考えている模様なのです。

そうだとすると、当然ながら米国には勝算があるはずです。今回は、米国が圧勝しそうだと考える理由について考えてみましょう。

中国の輸出が圧倒的に多いので、中国の方が被害が大きい

米中貿易は、中国の輸出額が圧倒的に大きくなっています。一方で、経済規模は米国の方が大きいですから、「中国の対米輸出が止まった場合の中国経済への影響」は「米国の対中輸出が止まった場合の米国経済への影響」よりも遥かに深刻です。

「中国は日本などから仕入れている部品を組み立てて米国に輸出しているだけだから、輸出が止まっても輸出金額から想像されるほどは困らない」という面はありますが、それでも影響は甚大に違いありません。

しかも、米国は対中輸入を制限したら、それを自分で作ることができます。「単に中国の方が給料が安いから中国製品を買っているだけだ」という物も多いからです。「米国人消費者が高いものを買わされて損をする」と言われますが、米国の消費者から米国政府に所得が移転するだけですから、国内的には±ゼロです。

「増税分だけ景気が悪くなる」ことは間違いありませんが、そこは幸か不幸か同じタイミングで法人税等が減税されているので、それによる景気刺激効果で相殺されると期待しましょう。

しかし一方で、中国は対米輸入を報復的に制限したとしても、自分では作れません。自分で作れるくらいなら、わざわざ給料の高い米国人が作った物を輸入しているはずがありませんから。

中国が大豆の輸入先を米国からブラジルに変えたとします。ブラジル産大豆が値上がりし、米国産大豆が値下がりするでしょう。しかし、その効果は一時的です。いままでブラジル産の大豆を輸入していた国が米国産の大豆を輸入するようになるからです。

まあ、この点については逆も真なりで、米国が中国製鉄鋼の輸入をアセアン等(固有名詞には意味がなく、中国以外の途上国の総称。以下同様)からの輸入にかえても、日本等がアセアン等から輸入している鉄鋼を中国からの輸入に切り替えてしまえば中国もそれほど困りません。鉄鋼の方が大豆よりは製品差別化がある分だけ中国の打撃が大きそうですが。

中国にとって今ひとつ深刻なのは、「米国製の部品が輸入できないと中国では作れない物」がかなり多そうだ、ということです。さらに言えば、米国の部品会社が部品を販売する際に「この部品を使って作った製品は中国には売るな」と条件をつければ、中国は大変困ったことになりかねません。

ちなみに、上記の「米国」を「日米欧」に置き換えれば、効果は抜群です。その意味では、米国は日欧と結束して対中封じ込めを行なって効果を高めたいと考えるはずですね。これが、米国が日欧との貿易摩擦に本腰を入れないだろうと筆者が期待している一つの理由です。

在中国の米系企業が出ていく可能性も

米中の貿易戦争が長引くと皆が思えば、米国企業の中国進出は止まるでしょうし、もしかすると在中国の米国企業子会社が帰国(あるいはアセアン等に移転)してしまうかも知れません。

中国経済は、外資系企業によって発展してきた経緯がありますから、地場企業が育ってきた今でも、外資系企業が抜け出てしまうことの影響は決して小さくないはずです。

米国経済は、中国からの輸入品が関税で値上がりすることで一時的には混乱するでしょうが、在中国の米系企業がアセアンに移転することなどで、数年経てば何事もなかったかのように落ち着くかもしれません。

米国資本がアセアン等へ流出すると、中国では大量の雇用が失われて景気が悪化しますから、景気対策が必要となります。財政出動も行われるでしょうが、金融も緩和されるかも知れません。

人民元安が資本流出を促し、止まらなくなる可能性も

金融が緩和されると、内外金利差を求めて海外投資が増加し、人民元が安くなるかもし知れません。それは、一面では中国製品の輸出競争力を高めて米国の関税の影響を緩和するわけですが、悪くすると資本逃避をもたらしかねない「諸刃の剣」なのです。

人民元が値下がりすると、「人民元がこれ以上値下がりする前に資金を米ドルに替えておこう」という動きが活発化し、人民元安と資本流出のスパイラルが止まらなくなるかもしれませんから。

もちろん、資本流出規制はかけるのでしょうが、「上に政策あれば下に対策あり」の国ですから、「米国留学中の息子から金メッキしたゴミを100万ドルで輸入する」といった取引が激増するのでしょうね。

中国企業に米ドル使用を禁止する手も

劇薬ですから、さすがに乱用はされないと思いますが、最後は中国企業に米ドルの使用を禁止する、という選択肢もあります。さらには「中国企業と取引した企業は米銀との取引を禁止する」といったことさえも可能です。

もちろん、すべての中国企業ではなく、米国企業から技術を盗み出したことが明らかな、極めて悪質な中国企業に限って、ということでしょうが。

中国経済が混乱すれば政治面の権力闘争が活発化

中国の国内ではすでに習近平氏への批判が出ているとの噂もありますが、経済や金融が混乱すれば、そうした動きが活発化し、中国の政界が派閥争いに明け暮れるようになるかもしれません。

権力闘争は政治家以外を巻き込んで「反対派閥とその仲間たちの不正摘発」の嵐が吹き荒れるかもしれません。

そうなると、中国人の富裕層や知識層が海外への逃避を始めるかもしれません。そうなると、中国の没落が本格的に進みかねません。中国人の富裕層や知識層が大量に米国等に流れれば、中国が覇権を目指すことは不可能となるでしょう。

そこまで米国が狙っているのか否かはわかりませんが、極端な場合に何が起こり得るのか、という頭の体操は、今のうちからしておいても良さそうです。

関連記事:『米国と中国は、ともに妥協できない全面対決へ 日米等は貿易摩擦、米中は経済戦争(上)

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塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ。
現在は久留米大学商学部教授であるが、当サイトへの寄稿は勤務先と関係なく個人として行なっているため、現職は経済評論家と表記したものである。
(近著)
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