はじめに

グローバル化の波により、海外への事業展開に乗り出す企業が増えつつあります。「うちは国内にしか支社や支店がないから。」と思っていたら、上司に呼び出されて、突然海外勤務を命じられる・・・なんてことも、考えられなくはありません。いざ海外勤務、となったときのために、海外勤務のメリットやデメリット、必要な準備について理解しておきましょう。

目次

1. ビジネスパーソンの海外勤務とは?
2. 海外勤務をするメリットは?
3. 海外勤務をするデメリットは?
4. 海外勤務に行く人はどんな観点で選ばれる?
5. 海外勤務に行くのは出世に役立つ?
6. 海外勤務に行きたくないなら断ることができる?
7. 海外勤務に行く前に必要な準備は?

1. ビジネスパーソンの海外勤務とは?

ひとくちに海外勤務といっても、企業によってどのような形をとるのかは様々です。一般的なケースに沿って説明してみましょう。

日本の企業に所属したまま海外支店に勤務

部署の異動を伴う場合もありますが、基本的に雇用については、国内勤務のそれと大きな違いはありません。給与については手当が付く場合があるものの、勤続年数などはそのままカウントされます。業務については、日本国内で行っていた仕事をそのまま海外で行うというケースもあるようです。

現地法人に所属する

実質的には子会社に採用してもらうことになりますので、転職と同じ扱いになるということが一般的です。業務内容や給与体系なども異なることが多く、業務については現地法人の就業規則に従って働くことになります。

駐在員事務所に転勤する

駐在員事務所とは、現地での情報収集、広告や宣伝、物品の購入や保管のために設けられるものです。収益を伴う活動は行うことができません。このため、上記の2つとはやや位置付けが異なります。待遇的には海外支店に勤務の扱いであることが多いものの、業務については、国内で行っていた仕事とは全然違う、ということも珍しくありません。

2. 海外勤務をするメリットは?

海外勤務をするメリットには様々なものがあります。

語学力が向上する

現地の言語を使って仕事をすることになるため、語学力の向上が期待できます。現場の運営体制は企業によって異なり、スタッフのほとんどが日本人ということもあるようですが、多くの場合、現地の人も一緒に働くことになるので、英語なり現地の言語を使ってコミュニケーションを取ることになるからです。場合によっては、現地の他企業との取引や交渉も必要になりますから、必然的に営業や宣伝広告のために現地語を使う機会も多くなります。

人脈が広がる

仕事を通して、一緒に働く日本人スタッフや、現地人スタッフとのつながりを深めることができますから、国内勤務に比べて、広い人脈を得ることが期待できます。国内にいたときにはコンタクトを取ることがなかった部署との連絡を取る機会も多くなりますから、社内のネットワークが自然に広がるということもあるでしょう。また。将来的にその人脈を仕事に活かすことができるかもしれません。

視野が広がる

異なる文化の中に身を置くことで、広い視野を持つことが期待できます。例えば、現地で売りたい商品があった場合、日本では当然と考えてきたマーケティング戦略を取ってもほとんど通用しなかったけれど、現地の人の考え方や行動パターンを分析していくことで適切な戦略を見出すことができたという事例もあります。つまり、所変われば品変わるということわざを、身をもって実感することができるのです。

3. 海外勤務をするデメリットは?

海外勤務には、メリットもあれば、当然デメリットもあります。

言語や文化の障壁

メリットとして、「語学力の向上」「視野が広がる」という点をあげましたが、基礎の語学力が不足している、現地の文化が理解できないというような場合、逆にコミュニケーションがとれず、仕事が進まないといった事態が起こることが考えられます。このように言葉や文化の壁が乗り越えられず、国内勤務に戻らざるを得ないというケースもあるようです。

生活の不便さ

日本国内では当たり前にできることが、海外ではできないということが多々あります。例えば食事。食材や味付けが自分にあわない、となると何を食べるかで悩むことになります。また、日常会話程度は問題なくできても、病院などで怪我や病気の症状を説明しなくてはいけない場合など、特別な時の意思疎通に苦労する、というのもよくある話です。病気や怪我をした後の保険手続きにおいても、書類の依頼などで手間取るといったことがあるかもしれません。

家族と離れる

長期間であれば、家族全員での海外移住が認められることもありますが、一年程度など、比較的期間が短い海外勤務では、日本に家族を残していかなくてはいけないというケースもあります。たとえ家族全員での移住が認められていたとしても、子供が学校に通っていて転校が難しい場合は、単身での海外勤務を選択せざるをえなくなります。また、介護中の親がいる場合、海外勤務を引き受けることで、海外赴任中に面倒を見ることができなくなるという問題も発生する可能性があります。

4. 海外勤務に行く人はどんな観点で選ばれる?

企業側から見ると、海外勤務の人選はかなり難しいことのようです。ただ、事業方針によって現地でどのような役割を果たす人材を送り込みたいかといった判断基準がありますから、選ぶ基準は会社によって大きく異なることになります。

基本的には英語、もしくは現地の言語に長けており、現地の人と円滑にコミュニケーションを取ることができる能力を兼ね備えている人材が選ばれる可能性が高いといえます。ただ、やや語学力で劣っていても現地の文化をよく理解している人材の場合、多少言語力に不安な部分があっても、うまく順応できるだろうという理由で抜擢されることも十分に考えられます。また、現地で働く技術者など、専門職を補充する目的の場合には、言語力や順応性以外に、スキルの高さが最優先されるということもあるでしょう。

一方、海外勤務には、優秀な人を抜擢して海外経験を積ませるという目的を持っている場合も少なくありません。このような場合には、海外経験を積ませるための短期勤務という手がとられることがほとんどのようです。

とどのつまり、基本的には、状況に応じて最適な人材が選ばれて海外に送り込まれる、ということなのでしょう。

5. 海外勤務に行くのは出世に役立つ?

企業のグローバル化が進んできた影響により、海外勤務の経験を持っている人材は引く手あまたなのでは、と考える人も多いでしょう。人よりも早く出世できるのでは、と期待を抱く人もいるかもしれません。しかし、海外勤務に対する認識や方針は、企業によって異なりますから、これは一概にはいえません。

例えば、若手の社員に海外勤務の経験を積ませ、その中から優秀な人材を抜擢しようというようなエリート育成を目的としたものであれば、将来的な出世が期待できます。しかし、現地での戦力となる人材を送り込むという目的の場合、現地の業務が軌道にのるまでは、日本に戻ってくることすらできない場合もあります。最終的には、出世をして国内勤務に落ち着きたいと希望している人は、思うような出世ができないこともあるので注意しましょう。ただ、海外で実力を認められて、そこで出世をする人もいます。海外にずっといてもいいという人であれば、出世の可能性は高いかもしれません。

もし、出世につながらなかったとしても、一般的には海外勤務をした経験はプラスの評価とされることが多いといえます。たとえ、社内評価が高くなかったとしても他社では注目されるキャリアになることも十分に考えられます。キャリアアップのための転職を考えたときには、アピールポイントとしても良いのではないでしょうか。

6. 海外勤務に行きたくないなら断ることができる?

海外勤務を命じられたものの、行きたくないから断りたいという場合もあります。

企業に勤めている場合、原則として社員は異動辞令を断わることはできません。このため、たとえ気が進まなくても甘んじて受けなければならないのですが、以下に該当する場合は、断ることができるケースもあるようです。

  • 就業規則に海外勤務に関する内容が含まれていない。
  • 就業規則に当人の理由によって移動辞令を断わることができる旨の記載がある。

ただし、後者の場合は「自分がいなければ育児や介護がままならない」「海外では治療を継続することが難しい持病がある」など、客観的に見て海外勤務を断念せざるをえない事情があることを示すことが条件となるでしょう。

なお、内示がでた段階で上司に相談をするのであれば、穏便に海外勤務を断ることも可能かもしれませんが、正式な異動辞令がでているのに頑なに拒否をしてしまうと、最悪解雇という危険もあるので注意しましょう。また、企業にとどまることができても、出世を見越したキャリア形成のために海外勤務をさせようという企業の方針による異動辞令であった場合、断ることで出世が遠のく可能性もあります。

海外勤務を断りたいという場合は、そのあたりの兼ね合いもよく考えて、断る努力をしてみるかどうかを判断したほうがよいでしょう。

7. 海外勤務に行く前に必要な準備は?

海外勤務が決まったら速やかに準備を始めるのがおすすめです。行く前に終えておかなければならない手続きが多いからです。

パスポートとビザの手配は発行までに期間がかかる場合が多いため、できるだけ早く手続きを始めましょう。海外勤務をするときの住まいを自分で手配する場合には現地や国内の不動産会社に相談をしておくことも必要です。引っ越しの手続きも合わせて進めていきましょう。

子供を連れていく場合には転校の手続きが必要です。飛行機の手配や海外旅行保険の契約も重要なので早めに旅行会社や保険代理店に相談しましょう。

公的手続きも数多くあります。水道やガス、電気やインターネット、携帯電話などの解約や契約の切り替えを行いましょう。1年以上の滞在になる場合には海外転出届を市区町村の役所に提出する必要があります。銀行やクレジットカードなども手続きしなければならない場合が多いので、確認を取っておきましょう。

このような準備に加えて、海外勤務に行く前には現地の下調べもしておくことが大切です。現地の地図を手に入れ、文化や習慣などについて情報を集めておきましょう。会社では英語が通じても街中では通じないという国も多々あります。最低限のやり取りができる程度の現地の言葉も学んでおいたほうが安心です。

おわりに

海外勤務は、国内ではなかなか経験できないキャリアを積むことができ、ビジネスパーソンとしてだけではなく、ひとりの人間としての大きな成長につながる可能性があるという点で、非常に魅力的といえます。しかし、国内での転勤に比べ、準備にはかなりの労力が必要になります。簡単には帰ってくることができないということから、育児や介護などといった家庭事情が絡んで、なかなか快く承諾できないという場合もあるでしょう。

ただし、会社命令による海外勤務は、原則として断ることができないものです。できるだけ潔く受け入れて、前向きに取り組みましょう。海外勤務を言い渡される人は、企業側が優秀な人材と認めて抜擢されていることが多いものです。引き受けることで、将来的にワンランク上の立場になることも期待できるのではないでしょうか。

LIMO編集部