「中国半導体の投資ラッシュはますます加速するばかりだ。2018年についても中国半導体ファンドは1500億~2000億元という巨額の融資枠設定を決めている。米中貿易摩擦が激化していることは不安要因ではあるが、この半導体投資の流れはもう止められない」

 こう語るのは、電子デバイス産業新聞上海支局の黒政典善支局長だ。中国の国家資本主義ともいわれる補助金の大量バラマキによる産業育成は、太陽電池、LED、液晶という分野に展開され、その矛先はいよいよ半導体に向かってきた。そしてまた、米中の経済摩擦が進展し、半導体や先端半導体装置の対中輸出がストップまたは大きくトーンダウンすれば、中国の国家成長戦略にも大きな歪みが出る。そのことが、「何としても半導体を国産化しなければ」という中国政府の思いにつながっていったのであろう。

中国半導体はまだ周回遅れなのが実情だが……

 ところで、中国半導体といえば300mmの先端工場ラッシュが常に話題となるが、本当のところ現時点での量産レベルの微細化水準は28/14nmを開発中という段階で、世界最先端が7nmレベルまで踏み込んでいることを思えば、まだまだ周回遅れという状況なのだ。最先端プロセスの半導体を中国で作っているのはすべて外資系であり、サムスンの西安工場、インテルの大連工場、TSMCの南京工場などが代表格。今後も彼らは中国投資は激増すると言っているだけに、巨大な半導体市場および生産拠点の中国集中はこれからも続くことだろう。

 一方、国産勢の期待を担うYMTC(長江ストレージ)の武漢工場は順調に立ち上がっていると聞くが、こちらもサムスン、東芝といったトップ水準のナノプロセスによる3D-NANDフラッシュメモリー量産には、まだまだ時間がかかるとみる向きが多い。最近では、液晶ディスプレーで世界一にのし上がったBOEが半導体前工程、後工程の内製化を計画しているといわれているが、こちらの方はまだ具体的プランがアナウンスされていない。

補助金狙いで創出される中国半導体ブーム

 「最近になっての顕著な動きは、何と300mmウエハーのレガシープロセス拡大ということだ。国家主導の先端半導体に加え地方政府の補助金を狙ったレガシー半導体工場の案件が増加している。中国のローカル企業は、本音としては技術リスクの少ない200mmウエハー工場の投資をしたいが、200mmでは補助金がもらえないという事情がある。そこで考えたことは、300mmで90nmというレガシープロセスを拡張していくという路線だ」(黒政支局長)

 この話を聞いて、筆者は「またも補助金。結局は技術よりお金か」とため息をついていたが、生きていくためには仕方がないのかもという感想も一方ではあった。すなわち、300mmレガシープロセスで充分行けると思われるIoT向け半導体に特化するというのもひとつの妙案なのだ。

 例えばローエンドのCMOSイメージセンサー、パワー半導体、公共ICカード、スマートメーターIC、IoT用通信向けIC、デジタルサイネージの駆動用IC、さらには指紋センサーなどは300mmレガシーで充分に量産できる。そしてまた、公共用途の半導体については外国勢に作らせないという中国政府の方針もあるだけに、この作戦はもしかしたら大当たりするかもしれない。

 具体的には国産半導体筆頭格のSMICをはじめ、武漢のXMC、上海のHuali、重慶のAOS、長沙の鴻海、広州のCanSemi、青島のSIEn、准安のHiDM、無錫の華虹、厦門のShilanといった半導体メーカーが、レガシー300mmの工場拡張に乗り出してくるだろう。これらの工場のレガシー比率は現状で10%くらいであるが、2022年ごろには40%まで引き上がり、月産で20万枚規模を超えるウエハーキャパシティーを構築してくることになる。これもまたもうひとつの半導体ブームなのだとすれば、やはり中国は抜け目がないといえるかもしれない。

(泉谷渉)

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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
 30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。

産業タイムズ社 社長 泉谷 渉