はじめに
最近、「ホスピタリティ」という言葉をよく耳にするようになりました。サービス業などの分野では特に重視されているこの「ホスピタリティ」。一体どのようなことを指しているのでしょうか?
「ホスピタリティ」について知っておきたいことをまとめてみました。
目次
1. 仕事の上でのホスピタリティとは?
2. 仕事の上でのホスピタリティとサービスはどう違う?
3. 仕事の上でサービスがホスピタリティに変わっていく段階
4. どのような仕事をするのがホスピタリティ業界?
5. 仕事におけるホスピタリティマネジメントとは?
6. サービス業以外の仕事ではホスピタリティ精神は必要ないのか?
7. 仕事にホスピタリティを取り入れて気持ちよく働こう
1. 仕事の上でのホスピタリティとは?
ホスピタリティの元々の意味は、「思いやり」とか「おもてなし」です。それが転じて、思いやりやおもてなしの心を持って相手に接することを表すようになりました。
仕事の上で「ホスピタリティ」というと、相手の気持ちや望みなどをいち早く読み取って心からのおもてなしをするという意味になります。相手の様子を見て困っていることを助けたり、ニーズを先読みして喜ばせてあげたりする気持ちのことです。
そのような相手に対する気遣いが自然にできるかどうかは、普段の生活の中で自分がどう過ごしているかということが大きく関わってきます。仕事の時にだけ急に思いやりの心を持って、お客様をおもてなししようとしても、なかなかうまくはいかないからです。反対に普段の生活の中から身近な人を思いやり、大切にしていく姿勢があれば、仕事の場でも自然にホスピタリティにつながっていくのではないでしょうか。
ホスピタリティにより、単に仕事上の関係やお金のやりとりだけではない深い心地良さが、提供されるサービスに加わり、お客様の中にサービスを提供する人や企業に対する信頼や喜び、安心感が生まれていきます。また、サービスを提供した人や企業にも、お客様との間に気持ちの良い関係を築くことができたことに深い喜びが生まれ、お客様に喜んでいただけたことで自分も喜びを感じ、仕事にやりがいを感じるのです。そしてそれはさらに深いホスピタリティへとつながるモチベーションになっていくのです。
つまり、本来の意味に近い、仕事におけるホスピタリティとは「仕事に従事するために持たなければいけないもの」ではなく、「仕事に従事することで自然に湧いてくる気持ち」といえるかもしれません。
2. 仕事の上でのホスピタリティとサービスはどう違う?
サービス業といえば小売業や美容や観光、アミューズメントなど、物だけでなく無形の財を提供する非製造業全般をさします。サービス業で提供されるサービスは多種多様ですが、形の残らないもの、という捉え方をするのが一般的のようです。
「ホスピタリティ」と「サービス」は語源も違います。
「サービス」は、ラテン語の「Servus(奴隷)」という言葉に由来しています。「奉仕する」とか「仕える」という意味を持ち、サービスを受ける人が主人、サービスを提供する人が従者ということで主従関係もはっきりしています。また、サービスには提供したものに対して対価が発生するという特徴があります。
一方「ホスピタリティ」の語源は、ラテン語の「Hospics(客人の保護者)」という言葉に由来しています。巡礼の旅の途中で、疲れたり空腹やのどの渇きを覚えたりした旅人に、現地の人たちが無償で宿や食べ物を提供したり、病気になった時の手当てをしたりということが「ホスピタリティ」の語源になっています。提供者であるホストが客人であるゲストに喜びを提供し、それに対してゲストが喜ぶことが提供者であるホストの喜びにもなるということです。
つまり、ホスピタリティはサービスとは違い、命じられた仕事として行うものではなく、相手に対価を求める行為でもありません。純粋に相手を思いやり、もてなし、喜びを与えることに重きを置いているのです。
よく仕事をする上での「ホスピタリティ精神を持つ」などという言い方をしますが、これは単に対価に見合ったサービスの提供をするという意味合いではなく、お客様の立場に立って物事を考え、さらに深いニーズに応えてお客様を喜ばせるという意味になります。
3. 仕事の上でサービスがホスピタリティに変わっていく段階
お客様が支払った対価に対して当然しなければならないことをするのがサービスの基本です。
例えば、お店ではお客様が商品を購入したら、スタッフは会計の済んだ商品を丁寧に扱い、袋に入れるなど持ち帰りやすい状態にしてお渡しします。レストランでは、お客様から注文をいただいたら、お客様が食べやすいようにテーブルセッティングを行い、料理をお出しします。これはどのお客様に対しても、等しく行われることです。
そこでスタッフが、お客様に対する気くばりが含まれたプラスアルファの行動をとったとき、お客様はどう感じるでしょうか?
- 商品が壊れやすいものだったので、安全に持ち帰ることができるよう緩衝材を使って包装した。
- プレゼント用とのことだったので、値札を取り、通常より豪華なギフト用の包装をした。
- 雨の日だったので、商品が濡れないよう、紙袋にビニールをかけてお渡しした。
- お子様連れのお客様だったので、取り分け用の皿をお付けしてお料理を提供した。
- 食事に訪れたお客様が、その日に誕生日を迎えたこがとわかったので、お料理にプラスして、お祝いの気持ちを込めたケーキを無料で提供した。
このような気遣いを受けた場合、多くのお客様は、お店のサービスにとても満足し、またここに来たいと思うのではないでしょうか。サービスがホスピタリティに変わるには、お店やスタッフが誰にでも等しく行うサービスにプラスして、ひとりひとりのお客様にあった気配りや思いやりを示し、お客様の満足や感動を得ることが必要といえるでしょう。
仕事をする上で、ひとりひとりのお客様が本当は何を望んでいるのかを真剣に考え、それらに精一杯応えようとする姿勢は、お客様の大きな満足につながり、そしてサービスを提供する企業の利益にもつながっていきます。
4. どのような仕事をするのがホスピタリティ業界?
ホスピタリティは、一般的には「サービスに対する付加価値」と表現されますが、その付加価値を特に求められる業界のことを「ホスピタリティ業界」とよびます。ホスピタリティ業界で働く人には、おもてなしの心である「ホスピタリティ精神」が強く求められます。
では、ホスピタリティ業界には、どのようなものがあるのでしょうか。
観光、旅行(ツーリズム)業界
観光や旅行は、参加するお客様にとって、大切な思い出作りの機会でもあります。多くのお客様は、単純に観光地へ出かけて有名なところを見て回ることだけを目的とせず、ふだんとは違った非日常感も味わいたいと希望します。このため、サービスを提供する企業やスタッフは、お客様ひとりひとりの思い出作りのために、ホスピタリティ精神をもって対応することを求められます。
ホテル(宿泊)業界
ホテルを利用するお客様は、宿泊を目的とした人ばかりではありません。「日常から離れてリラックスしたい。」「いつもと違う体験をしたい。」というお客様もたくさんいます。このため、お客様に心から満足してもらうために、ホスピタリティ精神が欠かせない業界といえるでしょう。
レストラン(外食)業界
レストランは単に料理を作って提供するだけの場ではありません。「食」を通して、食べる喜び、祝う喜び、集う喜びなど、お客様の喜びを作り出す場所でもあります。最高の料理とサービスとともに、心地よい空間と雰囲気を提供するホスピタリティ精神が求められるようです。
ウェディング業界
多くの人にとって、一生に一回きりの人生の晴れ舞台を演出する業界です。カップルの人生の門出と新たな家庭の誕生をともに祝い、喜びを分かち合うためには、入念な準備が必要とされます。また、カップルのこれからの人生に向き合うためにも、ホスピタリティ精神が非常に大切な業界であるといわれています。
5. 仕事におけるホスピタリティマネジメントとは?
ホスピタリティマネジメントは「思いやりの心」や「おもてなしの心」をマネジメント(管理)するということです。しかし、そもそもホスピタリティとは、求められて提供するものではなく、自然に湧いてくる気持ちから生まれる行動です。こうしなさいと指示をされたからといって、できるようになるものではありません。
では、ホスピタリティマネジメントでは、いったい何を管理するのでしょうか?
スタッフが、目先のことや自分のことをだけでなく、お客様に思いやりとおもてなしの心を持って接するようになるためには、次のような条件が必要です。
- 職場が働きやすい環境であること
- ひとりひとりのスタッフが大切にされている環境であること。
- スタッフが生きがいを持ち一生懸命に仕事に取り組むことができる環境であること。
このような環境を整えることで、スタッフのやる気を引き出し、そのための最大限のサポートをしていくことこそが、ホスピタリティマネジメントなのです。
スタッフが笑顔で気持ちよく働くことで、職場全体のモチベーションがあがり、気持ちの良い空間が生まれます。そしてそれは、最終的にお客様に対するおもてなしの心、ホスピタリティ精神へとつながるのです。
6. サービス業以外の仕事ではホスピタリティ精神は必要ないのか?
主にサービス業からなるホスピタリティ業界では、ホスピタリティ精神が必要になることを説明しました。では、その他の業界ではホスピタリティ精神は必要ないのでしょうか?
実はそうではありません。というのも、どのような仕事であっても、単に商品を作って提供するというだけでは、お客様の満足を十分に高めることはできないからです。
例えば、農業に携わる人は、消費者と直接会うことはまずありません。しかし、育てた作物は最終的に消費者の元に届きます。このため、農業に携わる人は、実際に作物を手にとって食べる人のこと想像しながら、美味しいと思ってもらうことができるように、作物を育てようとします。この、食べる人のことを思う気持ちも、ホスピタリティ精神であるということができます。
食べる人のことを思い、毎日手をかけて育て上げた農産物は、多くの消費者に喜ばれ、「よいものを買った。」「また買いたい。」と思ってもらうことができるでしょう。その結果、その農産物はよく売れ、作った人の利益に結びつきます。
ホスピタリティ精神が必要になるのは特定の業界だけではありません。すべての仕事の根本にあるのはホスピタリティ精神で、それが回り回って自分にも利益として返ってくるものなのかもしれません。
7. 仕事にホスピタリティを取り入れて気持ちよく働こう
どのような仕事であっても、その根底にあるのはホスピタリティ精神なのかもしれないという話をしました。しかし、先ほども述べたように、「さあやるぞ。」と思っても、ホスピタリティ精神が、突然自分の中に芽生えてくるわけではありません。
というのも、日常の何気ないことの積み重ねの上にホスピタリティ精神は息づいているからです。つまり、自分の家族や職場の人間関係をよくしていくこと、相手に対して思いやりの気持ちを持って行動していくことで、ホスピタリティ精神は、自分の中に徐々に根付いていくのです。
普段の仕事の中で、ちょっと相手のことを思いやる気持ちを持つという習慣をつけることがホスピタリティの1歩です。自分がやっていることが相手にどう影響を与えるのか、相手の気持ちや状態はどうなのか、と常に考えていくことが、より良いサービスを提供し、相手に喜んでもらうことに結びつきます。そして、そのように、相手のことを考えて行動することこそがホスピタリティ精神へとつながってゆくのです。
相手のことを考えることが自分の喜びになる、そんな生き方、働き方が身につくことで、次第に質の高いホスピタリティを作り出していくことができるようになるのではないでしょうか。
おわりに
ホスピタリティ精神は、なにか特別なことをしようとする気持ちという意味ではありません。相手のことを自分のことのように大切に考えるという生き方や姿勢になります。ホスピタリティ精神に則った仕事は気持ちよく周りとの関係を築き、気持ちの良いサービスを生み出し、結果としてサービスを提供する企業の高い利益に結びつきます。どのような業種で働くにしても、ホスピタリティ精神は大切なものといえるのではないでしょうか。
LIMO編集部