巨大産業である宇宙関連ビジネス

宇宙に関係するビジネスというと皆様はどのようにお感じでしょうか。身近な話ではないので、ピンとこないという方も多いと思いますが、世界の宇宙産業は既に38兆円程度(3391億米ドル。1ドル112円換算。出所:Satellite Industry Association (SIA)。2016年末時点)もあり、グローバルで見ると非常に大きな産業となっています。

また、その宇宙産業ですが、主な内訳をみると人工衛星サービスが14兆円(1277億米ドル)や地上設備が13兆円(1134億米ドル)と大きく占め、人工衛星を活用したサービスとそれらを利用するために必要な地上設備であるハードウェアを中心として構成されています。

人工衛星サービスといってもイメージがわきにくいかもしれません。具体的な例でいえば、テレビや電話、航空や船舶などにも利用されますし、身近なところでは気象や農業、災害対策に利用されます。また、地上設備では、衛星放送などに必要な機器、ネットワーク設備などです。

宇宙ビジネスが再拡大している3つの背景

では、なぜ今、宇宙ビジネスが大きく立ち上がりつつあるのでしょうか。その背景は3つあります。

一つは、宇宙事業そのものが「政府」から「民間」へ移りつつあり、宇宙事業そのもののハードルが下がってきたことがあります。例えば、米国では宇宙への物資輸送を民間委託していますが、民間企業の参入により効率的な研究・開発や、再利用ロケットの開発など新たなイノベーションへの取り組みが促進されています。

二つ目には、テクノロジーの進化により、様々な宇宙関連分野におけるコスト低下がもたらされているという点があげられます。前述の再利用ロケットの開発は、ロケット打ち上げコストを大幅に低下させることを目指しています。また、人工衛星を構成する各種半導体部品の高性能化、機械学習を用いた設計と3D印刷製造技術がもたらした部品の小型化・軽量化により、小型衛星を多数打ち上げ、協調動作をさせることによって地球全土をカバーする「衛星コンステレーション」の仕組みが普及してきています。

最後の、そして最大のポイントとして、私たちの身の回りで起こる沢山の技術革新により、インフラとしての宇宙に対する需要そのものが増加していることがあげられます。急速に広がるIoTを用いたビジネスに加え、近い将来市場投入が見込まれる自動運転車やドローンを用いたさまざまなビジネスにおいても、今まで以上に人工衛星の活用が欠かせません。

また、前述の衛星コンステレーションのように、1日に地球を何周もする低軌道衛星から撮影した高精度の画像データを人工知能で分析し、世界中の石油備蓄量の予測や火災等の災害状況の把握、大規模農業における作物の生育状況確認や漁業における魚群探知など、今まで入手ができなかった地球上のデータを活かしたサービスも出現し始めています。

なぜ起業家は宇宙を目指すのか?

宇宙関連ビジネスは、数多くの著名起業家たちが参入していることでも知られており、特にテクノロジー企業やウェブサービス企業創業者が目立ちます。なぜ彼らは宇宙を目指すのでしょうか? 各自独自の野望があるのだとは思いますが、例えば「インターネット」という文脈から彼らの宇宙ビジネス参入を考えると、一つのヒントが見えてきます。

米大手ベンチャーキャピタルのKPCBの「Internet Trends 2018」によれば、グローバルのインターネットユーザー数は2017年に30億人半ばに達し、普及率は49%に及んでいますが、近年成長率の鈍化が指摘されています。これから先、現在インターネットを利用していない国・地域に対するカバレッジの拡大には、いままでとは異なるアプローチである人工衛星の活用が必要となってくるでしょう。

また、前述のように今まで困難だった地上のデータを衛星経由で入手することにより、今まで存在しなかったような新たなサービスを目にする日も近いかもしれません。AlphabetやFacebookなどの大手インターネット関連企業、テクノロジー関連企業の創業者たちがこぞって宇宙や空を用いた通信事業に参入し始めているのも自然な流れなのかもしれません。

実は、既に私たちは1日当たり平均して何らかの形で36回も人工衛星と交信しているといわれています。1日の始まりに、今日の天気を確認する人は多いと思います。また、スマホを使って地図情報やゲーム等でGPSを活用する場合もあるでしょうし、飛行機での移動中にメールのやりとりをしているかもしれません。自宅では海外のスポーツを衛星中継で観ているかもしれませんし、間接的な利用ではありますが、普段食卓に並ぶ野菜は、衛星を用いた精密農法で栽培されたものかもしれません。

このように、既に人工衛星は私たちの生活に無くてはならない必須インフラであり、今後、前述のような新たなイノベーションの普及により、さらに宇宙の重要性は増していきます。

人工衛星はLEO(Low Earth Orbit)に注目

ここまで、宇宙ビジネスが広がってきた背景や人工衛星ビジネスでどのような事業が恩恵を受けるのかを見ていきました。ここではあらためて、どのような人工衛星が現在盛んに宇宙に飛ばされているのかを見ていきたいと思います。

一口に人工衛星といっても地球からの高度によって呼び方が異なります。これまで一般的によく知られている人工衛星は静止軌道人工衛星(Geostationary Orbit、略称GEO)といって、赤道上3万6000キロメートルを地球と同じ速度で移動し、地球からは常に同じ位置に見える人工衛星です。地球との距離が長く遅延が起こるため、双方向通信には向かないものの、ブロードキャストには適しています。

一方で、現在数多く打ち上げられているのが地球低軌道衛星(Low Earth Orbit、略称LEO)です。LEOは地表から約2000キロメートル以下を飛ぶとされています。地球の自転よりも速いスピードで周回、低高度で数時間ごとに同一地点上を通過します。地上の観測データ収集や衛星通信などに活用されます。

GEOやLEO以外にも、その間に位置する中軌道人工衛星と呼ばれるMEO(Middle Earth Orbit)があり、双方向ネットワークやGPSなどに用いられていたりするものもあります。

LEOが人工衛星産業のすそ野拡大をけん引

現在稼働中の人工衛星は約1700。そのうち890機は2013年以降に打ち上げられたものです。今後の人工衛星の打ち上げ計画数は指数関数的に伸びていく見通しです。そしてそのうちのほとんどがLEOといわれています。一言で人工衛星産業といっても、大きく分けて製造者、オペレーター、打ち上げ事業者等様々なプレーヤーが存在します。また、それらプレーヤーをサポートする多様な基幹技術も産業の拡大により恩恵を受けることでしょう。今後のLEOを中心とした人工衛星産業を始めとする宇宙ビジネスからは目が離せません。

(本稿は、日興アセットマネジメントが運用するファンドにおける保有・非保有および将来の銘柄の組入れまたは売却を示唆・保証するものでもありません。本稿で述べられている見解は筆者個人のものであり、所属する組織の見解を示すものではありません)

千葉 直史