「中国が2025年にエコカー700万台の販売目標を打ち出し、そのほとんどがEV(電気自動車)と大きく報道されている。そしてまた、10年後には世界の全自動車出荷台数の20~30%はEVになるとまで言っている人たちがいる。全く考えられない。EVシフトを推し進める際に最も大きな問題になるのは電力不足だからだ」

 こう語るのは世界的な半導体アナリストとして知られるIHSグローバルの南川明氏だ。南川氏によれば、2025年以降に世界の電力需給には大問題が発生するという。一つにはデータセンターが消費する電力が世界の8%を占めるほどに増大する。そしてまた、世界の電力の55%はモーターに消費されており、エンジンではなくモーターで動くEVはこれを加速してしまうと主張するのだ。

大量の電力を消費するEVはエコなのか

 たしかに、時ならぬEVブームで本屋に行けばEVを絶賛する本が10冊以上並んでいる。だが、筆者は拙著『自動車世界戦争』(東洋経済新報社刊)において、南川氏と同様にEVシフトの問題点を多く指摘し、とりわけ大容量バッテリーによる充電が多くの不具合を引き起こす懸念を指摘した。

 なにしろ、中国政府は2019年に国内で販売する自動車台数の10%をEV中心とする新エネルギー車にすることを自動車メーカーに義務付ける法律を発表した。フランスとイギリスは2040年までにガソリン車・ディーゼル車の販売を禁止する方針を明らかにした。はてさて、それが本当に実行可能かどうかは大変に疑わしい。

 南川氏は日本の自動車8000万台がEVになれば原発3基分の電力が必要だと主張してきたが、最近になり、EVの充電においても世界の電力の15%を消費することも懸念している。問題はシンプルなのだ。EVは自ら電気を作って走るわけではない。これに必要な電力は発電所で作られるわけであり、ただでさえ電力需給問題が加速している状況下でEVがひたすらもてはやされる現状はいかがなものかと思われる。

 EVの場合、一般家庭の充電環境は200V/15Aであるが、要するに3kW/hが限界となる。この環境でEVの大容量バッテリーをフル充電するには8時間以上はかかってしまう。急速充電器を使えばもっと早く充電できるという意見もあるが、これまたおかしな論理だ。エコだと言われるEVのバッテリーを充電するための充電器そのものが大量の電気を消費していくからだ。

 また、世界では10億台の産業用モーターが動いているが、この70%にインバーターがついておらず、とてつもない電力を消費する。照明もまた世界の電力の17%を消費する。こうなれば日本勢が得意とするパワー半導体の急速普及が絶対条件として必要になってくるのだ。IGBTの世界チャンピオンである三菱電機、SiCパワーデバイスで世界トップを目指すローム、車載のパワー半導体に強い富士電機、さらにはサンケン電気、新電元工業などそうそうたる日本のパワー半導体メーカーにビッグチャンスがやってくる。

電力不足だけではないEVの抱える問題点

 それはさておき、コストと使い勝手を考えれば、やはり当面のエコカーの主流は48Vのマイルドハイブリッドカーにならざるを得ないだろう。日本国内で言っても4000万台がEVにシフトすれば、普通給電を使ったとしても日本の総電力の30%を消費してしまうのだ。

 ヨーロッパでは自動車保有者の50%が駐車場を持っておらず、EV充電の環境が整っていない。さらにリチウムイオン電池の充放電を数年間繰り返せば老朽化は著しく、言われているほどの走行距離は全く出ない。一方で急速充電器には大電流が流れるため、電磁波が多く発生するという環境、健康問題も出てくるだろう。

 こうしたことを総合的に分析すれば、2030年段階になってもEVの普及率は10%以下と考えるのが妥当だろう。ガソリンエンジン制御技術を全く持たず、ハイブリッド車を作れない中国がひたすらEVと叫んでいるが、ここには多くの問題が横たわっている。

(泉谷渉)

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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
 30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。

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産業タイムズ社 社長 泉谷 渉