貿易による国際分業推進、外国人労働者受け入れ反対の立場から、久留米大学商学部の塚崎公義教授は、農産物の輸入制限の撤廃を訴えています。
日本の農業に外国人労働者を受け入れる必要はあるのか?
政府は、新たな在留資格を創設して、外国人労働者の受け入れ枠を拡げる方針です。政府関係者によると、農業、介護、建設、宿泊、造船の5業種が想定されているようですが、今回は農業に注目することとしましょう。
日本は、自動車等の生産は諸外国と比べても大変得意だと言えますが、農業はお世辞にも得意とは言えません。日本の農家の能力が乏しいとか努力が足りないとか言うつもりは全くありませんが、狭い土地を必死に耕している日本の農家と、広大な土地を用いて飛行機から種子や肥料を撒いている米国の農家を比べれば、勝負にならないことは明らかです。
そうであれば、日本で大量の自動車等を作って世界中に輸出して外貨を稼ぎ、その外貨で農産物を輸入するべきでしょう。経済学では「比較優位に基づく国際分業」などと呼びますが、個々人であっても国と国の間であっても、各自が得意なものを作って交換すれば良いわけです。
現在、日本はコメの輸入に極めて高い関税を課しています。これは、関税を課さないと外国から安いコメが輸入されて日本の農家が作ったコメが売れずに農家が困るからだ、ということで設けられた関税です。それ以外にも、政府は我々の税金を使って農業関係の各種補助金を支払って農家を保護しています。
つまり、我々は農家を保護するために高いコメを食べ、高い税金を支払っているわけです。ちなみに本稿において「我々」とは農業関連の仕事をしていない一般国民という意味で、筆者はこれに含まれます。
そのこと自体の是非に関しては議論があるでしょうが、「農家を守るために我々が応分の負担をするのはやむを得ない」というのは常識的な意見なのでしょうね。「応分の負担」がどの程度かというのは、人によってだいぶ意見が異なるのでしょうが。
しかし、守るべきだった農家が高齢化によって引退し、農業が労働力不足に陥っているというのであれば、我々が高いコメを食べたり高い税金を払ったりする必要はありません。コメの輸入を自由化すれば良いのです。何のために狭い農地に外国人に来てもらって農業をやってもらうのでしょうか。全く理解不能です。
「農業を保護して食糧安全保障を確保する」は本当か?
「食料安全保障の観点から農業は保護する必要がある」と主張する人がいますが、食料の安全保障が脅かされる可能性はあるのでしょうか。世界の食料輸出国は米国など、日本の友好国が多く、しかも海上輸送路の安全も問題ありません。米国が「日本には食料は売らない」と言ってくることは考えられないでしょう。
仮に世界的な食料の大凶作が訪れたとした場合、食料価格が高騰するでしょうから、貧しい途上国は十分な食料が確保できずに苦しむかもしれませんが、日本は「背に腹は代えられない」ということで高い代金を支払って食料を確保するでしょう。その意味では、先進国である日本にとっては飢えの問題ではなくゼニの問題ですから、安全保障上の脅威とは言えませんね。
日本の食料事情に関して筆者が最も懸念するのは、石油ショックが発生して国内のトラクターが動かなくなる場合です。石油ショックは、食料に比べて遥かにリスクが高いと考えておく必要があるでしょう。主な輸出国であるアラブ諸国は、過去に石油ショックを引き起こした「実績」がありますし、輸送路という面でもホルムズ海峡等々が閉鎖されるリスクがあるわけですから。
その場合でも、米国のトラクターは動くでしょうし、米国から高い値段で食料を買ってくることはできるでしょうから、日本人が飢えの問題に直面することはなさそうですが、「海外から来ていただいた農業労働者」は日本の食料安全保障に何も貢献しそうにありません(笑)。
日本の若者にはチャンスを!
「先祖伝来の土地を手放さず、死ぬまで農業をやりたい」という高齢者に対しては、農業対策ではなく、社会保障予算等で対応しましょう。「引退してくだされば、年金を3倍お支払いしますから、ぜひ引退してください」といった「割増退職金」で引退を促すのです。
それでも農業を続ける場合には、「コメは政府が買い上げますが、価格は国際価格です。それで農家が赤字になるのであれば、差額の赤字分は税金で穴埋めしますから、お申し出ください」といった対策が求められます。おそらく10年も経てば大多数の農家は高齢化で引退するでしょうから、政府が必要な穴埋め額は、それほど大きくならないでしょう。
大都市近郊の農家が野菜を作っている部分については、コメとは別に考えましょう。高い値段で新鮮な野菜を売ることにすれば、利益が期待できるので日本人の若者が農業を始めるでしょう。外国人が安い野菜を作ってしまうと日本人の若者のチャンスを潰すことになってしまうので、これも避けたいですね。
なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。
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塚崎 公義