人生100年時代のいま、シニア世代の「仕事」に対する意識が変わりつつあります。
日本老年学会・日本老年医学会「「高齢者に関する定義検討ワーキンググループ」報告書」によれば、現在の高齢者は10~20年前に比べ、身体機能が5~10年若返っているそうです。
実際に周りから聞こえる話の中にも、継続雇用や地域活動など何らかの形で社会との関わりを持つシニア層が増えているように感じます。
しかし、現行の年金制度には、就労する60歳以上の厚生年金受給者が一定以上の賃金を得ると年金額を支給停止する「在職老齢年金制度」があることをご存知でしょうか。
将来の受給見込み額が減少傾向にあり、老後資産の積み増しのため「長く働くこと」を選択せざるを得ない状況も考えられる中、デメリットとなりうる在職老齢年金制度。
今回はその概要と注意点について確認していきましょう。
1. 「在職老齢年金」とは?
在職老齢年金とは、老齢厚生年金を受給しながら働いて収入を得る場合に、一定額を超えると年金の一部または全額が支給停止となる制度です。
【在職老齢年金が適用されるケース】
- 老齢厚生年金を受給する70歳未満の人が厚生年金保険に加入して働く場合
- 70歳以上の人が厚生年金保険の適用事業所で働く場合
では、働いてどのくらいの収入を得た場合に年金が支給停止となるのか。確認していきましょう。
1.1 在職老齢年金の計算式
- 基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-支給停止調整額)÷2
上記は在職老齢年金の計算式です。
老齢厚生年金の「基本月額」と、給与や賞与の額(総報酬月額相当額)に応じて、年金の一部または全額が支給停止となることがわかります。
- 基本月額:加給年金額を除いた老齢厚生(退職共済)年金(報酬比例部分)の月額
- 総報酬月額相当額:とは、その月の標準報酬月額に、その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割ったものを加えた額
基本月額と総報酬月額相当額の合計が支給停止調整額を超える場合に、年金が支給停止となるのです。
では、この「支給停止調整額」はいくらなのか。2024年度の支給停止調整額は、50万円です。
1.2 【2024年度】在職老齢年金の支給停止調整額は「50万円」に引き上げ
2024年度の支給停止調整額は50万円。前年度の48万円から2万円引き上げとなりました。
【写真全4枚中1枚目】在職老齢年金の仕組み・支給停止調整額。後半の写真では厚生年金保険(第1号)の平均額も紹介1/4
出所:厚生労働省「令和6年度の年金額改定についてお知らせします」をもとにLIMO編集部作成
支給停止調整額の引き上げにより、年金が支給停止となるボーダーラインが高くなります。老齢厚生年金を受給しながら働きたいシニアにとって良い方向に改定されました。
次章では、より具体的にイメージできるよう「在職老齢年金で年金がカットされるケース・されないケース」を見ていきましょう。
2. 在職老齢年金で年金がカットされるケース・されないケース
在職老齢年金で年金がカットされる・されないケースを、具体例を用いてみていきます。
2.1 在職老齢年金で年金がカットされないケース
- 年金の基本月額:10万円
- 総報酬月額相当額:25万円
基本月額+総報酬月額相当額=35万円
2024年度の支給停止調整額となる50万円を下回っているため、年金はカットされません。
2.2 在職老齢年金で年金がカットされるケース
- 年金の基本月額:15万円
- 総報酬月額相当額:45万円
この場合、基本月額+総報酬月額相当額=60万円
2024年度の支給調整額となる50万円を10万円上回っているため、10万円の2分の1となる5万円が支給停止となります。
※老齢基礎年金は受給できます。
※税金等を控除する前の額で計算されます。
年金だけでは生活できないから、と働く人もいるでしょう。
しかし、一定額を超えると年金がカットされる在職老齢年金という制度に疑問を抱く人も少なくないはず。
たしかに、老齢厚生年金を受給しながら厚生年金保険に加入し収入を得る間は、在職老齢年金により年金がカットされる可能性がありますが、厚生年金保険に加入し続けるというメリットがあることも理解しておきましょう。
老齢厚生年金は、厚生年金加入期間が長ければ長いほど、また、その期間中の収入が高ければ高いほど(上限あり)、高くなる仕組みです。
在職老齢年金により年金がカットされることと、厚生年金保険への加入期間が長くなることの両面から、年金を受給しながら働くことのメリット・デメリットを考えてみると良いでしょう。
次章では、実際に支給されている年金額の平均を紹介します。参考にご覧ください。
3. 厚生年金の平均受給額「月額」いくら?
2023年12月25日に厚生労働省より発表された「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より、現シニア世代の厚生年金の平均受給額(月額)を見ていきます。
3.1 厚生年金保険(第1号)受給額の平均
- 〈全体〉平均年金月額:14万3973円
- 〈男性〉平均年金月額:16万3875円
- 〈女性〉平均年金月額:10万4878円
※国民年金の金額を含む
上図は男女別に受給額ごとの人数を示しています。
次に、男女全体の受給額ごとの人数を見てみましょう。
3.2 厚生年金の受給月額ごとの人数(男女全体)
- 1万円未満:6万1358人
- 1万円以上~2万円未満:1万5728人
- 2万円以上~3万円未満:5万4921人
- 3万円以上~4万円未満:9万5172人
- 4万円以上~5万円未満:10万2402人
- 5万円以上~6万円未満:15万2773人
- 6万円以上~7万円未満:41万1749人
- 7万円以上~8万円未満:68万7473人
- 8万円以上~9万円未満:92万8511人
- 9万円以上~10万円未満:112万3972人
- 10万円以上~11万円未満:112万7493人
- 11万円以上~12万円未満:103万4254人
- 12万円以上~13万円未満:94万5662人
- 13万円以上~14万円未満:92万5503人
- 14万円以上~15万円未満:95万3156人
- 15万円以上~16万円未満:99万4044人
- 16万円以上~17万円未満:104万730人
- 17万円以上~18万円未満:105万8410人
- 18万円以上~19万円未満:101万554人
- 19万円以上~20万円未満:90万9998人
- 20万円以上~21万円未満:75万9086人
- 21万円以上~22万円未満:56万9206人
- 22万円以上~23万円未満:38万3582人
- 23万円以上~24万円未満:25万3529人
- 24万円以上~25万円未満:16万6281人
- 25万円以上~26万円未満:10万2291人
- 26万円以上~27万円未満:5万9766人
- 27万円以上~28万円未満:3万3463人
- 28万円以上~29万円未満:1万5793人
- 29万円以上~30万円未満:7351人
- 30万円以上~:1万2490人
厚生年金(国民年金を含む)を月額10万円以上~11万円未満受け取る人が最も多いことがわかります。
また、このデータからは「1万円未満~30万円以上」と、個人差が大きいこともわかりました。
厚生年金の受給額における個人差は、働き方の違いです。働き方が老後の年金収入に大きく影響することを理解しておくと、将来の年金生活を見据えたキャリアプラン・ライフプランを考えやすくなるでしょう。
4. 将来の年金にどう備えるか
前述のとおり、在職老齢年金は働き続けながら受け取れるため、年金だけでは老後の生活が心配な方や、より豊かな生活を送りたい方にとって大きなメリットになりますが、支給停止調整額には注意が必要です。
将来のマネープランを考える際は、在職老齢年金制度を利用した場合の年金受給額も計算に入れておくと、より正確に老後資金の見通しを立てやすくなるでしょう。
また、別の対策法を知っておくことも重要です。低金利の今、資産運用を取り入れる方も増えています。
投資=運用はもちろんリスクを伴う手段になりますが、時間を味方につけることでリスクを軽減させる効果もあります。
選択肢は多いに越したことはありません。リタイア時期をいつに設定するのか、年金受給見込みがいくらになるのか、今のうちにプラン設計・整理をしてみるのもいいでしょう。
5. まとめにかえて
今回は意外と知らない「在職老齢年金」についてフォーカスしてみました。
現役時代はもちろん、シニア層の「働き方」も多様化する現代、情報難民とならないために日頃から政策や各種制度にアンテナを張ることは大切です。
また将来的な確約がないからこそ、さまざまなパターンを想定し早めの備えを意識してみてはいかがでしょうか。



