2024年7月3日に厚生労働省より財政検証結果が発表され、年金への関心が高まっています。
筆者は年金事務所で相談員をしていますが、増えている相談内容の1つが「年金の受給開始時期」に関するものです。
年金はいつから受給開始するのがいいのか、多くの人が悩んでいます。
本記事では、老齢年金の繰上げ受給と繰下げ受給について解説します。
受給開始時期について検討している人は参考にしてください。
1. 繰上げ受給の年金額
年金の支給開始時期を65歳より早めることを「繰上げ受給」といい、遅らせることを「繰下げ受給」といいます。
1.1 繰上げ受給をした場合の年金額の計算方法
繰上げ受給によって受給開始時期を1か月早めると、年金額は次の通り減額します。
- 1962年4月2日以降生まれの人:0.4%
- 1962年4月1日以前生まれの人:0.5%
1962年4月2日以降生まれの人が60歳で受給開始すると、65歳受給と比較して年金額は24%(=0.4%×60か月)減ります。
1.2 繰上げ受給の減額率の早見表(昭和37年4月2日以降生まれ)
- 60歳0ヶ月:24.0%
- 61歳0ヶ月:19.2%
- 62歳0ヶ月:14.4%
- 63歳0ヶ月:9.6%
- 64歳0ヶ月:4.8%
上記のとおり、繰上げ受給を利用すると年金受給額は減ります。
続いて繰下げ受給を行った場合を見ていきましょう。
2. 繰下げ受給の年金額
繰下げ受給すると年金額は増額します。
2.1 繰下げ受給をした場合の年金額の計算方法
1か月あたりの増額は次の通りです。
- 全年齢共通:0.7%
繰下げして75歳に受給開始すると、65歳受給と比較して年金額は84%(=0.7%×120か月)増額します。
2.2 繰下げ受給の減額率の早見表
- 66歳0ヶ月:8.4%
- 67歳0ヶ月:16.8%
- 68歳0ヶ月:25.2%
- 69歳0ヶ月:33.6%
- 70歳0ヶ月:42.0%
- 71歳0ヶ月:50.4%
- 72歳0ヶ月:58.8%
- 73歳0ヶ月:67.2%
- 74歳0ヶ月:75.6%
- 75歳0ヶ月:84.0%
3. 厚生年金の見込みが15万円の人の年金額は「繰下げ・繰上げ」でいくらになるか
65歳受給の年金見込額が15万円の場合、繰上げ受給や繰下げ受給によって年金額は次の通り増減します。
3.1 受給開始年齢ごとの年金額
- 60歳開始(繰上げ受給):11万4000円
- 65歳開始(本来受給):15万0000円
- 70歳開始(繰下げ受給):21万3000円
- 75歳開始(繰下げ受給):27万6000円
受給開始を遅くするほど年金額は増えますが、年金を受け取る期間は短くなります。
繰上げ受給したときと繰下げ受給したときの年金額の計算について解説してきましたが、次章では、いつから受給開始するのがいいのか、考え方を紹介します。
また、注意が必要な繰下げ受給のデメリットについても解説しますので、確認しておきましょう。
4. 年金の受給開始年齢と総受給額
受給開始年齢を決めるとき、判断基準の1つとなるのが死亡するまでの総受給額です。
総受給額は死亡時期によって異なるため、事前に総受給額がいくらになるかはわかりません。
しかし、死亡時期を想定して総受給額を確認することで、受給開始年齢を決めやすくなります。
死亡年齢を想定して、受給開始年齢ごとの総受給額をシミュレーションしてみましょう。
65歳年金開始時の年金額を15万円とします。
4.1 60歳(繰上げ)
- 75歳で死亡:総額2052万円
- 80歳で死亡:総額2736万円
- 85歳で死亡:総額3420万円
- 90歳で死亡:総額4104万円
- 95歳で死亡:総額4788万円
4.2 65歳(本来受給)
- 75歳で死亡:総額1800万円
- 80歳で死亡:総額2700万円
- 85歳で死亡:総額3600万円
- 90歳で死亡:総額4500万円
- 95歳で死亡:総額5400万円
4.3 70歳(繰下げ)
- 75歳で死亡:総額1278万円
- 80歳で死亡:総額2556万円
- 85歳で死亡:総額3834万円
- 90歳で死亡:総額5112万円
- 95歳で死亡:総額6390万円
4.4 75歳(繰下げ)
- 80歳で死亡:総額1656万円
- 85歳で死亡:総額3312万円
- 90歳で死亡:総額4968万円
- 95歳で死亡:総額6624万円
5. タイプ別「受給開始年齢」の考え方
いつから受給開始するのがいいのかは、一人ひとりの考え方によって異なります。
また、慎重に検討してもいつ死亡するかわからないため、結果的に損をする(=総受給額が少なくなる)こともあるでしょう。
ここでは、タイプ別に受給開始年齢の考え方を紹介します。
5.1 健康に自信のない人や年金制度に不安を感じている人は60歳受給開始
健康に自信のない人とは、あまり長生きできないと考えている人のことです。
大きな病気を抱えている、不摂生な生活をしている、家族がみんな早く亡くなっている、などのケースが考えられます。
前述の「死亡年齢別の総受給額」のシミュレーションより、80歳までに亡くなった場合、総受給額は60歳に受給開始したケースが最も多くなります。
早く亡くなった場合、早く受給開始した方が得だということです。
また、これから年金の支給水準が下がる、年金制度は行き詰まる、など年金制度に不安を感じている人は、もらえるものは早目にもらっておくという考え方もあるでしょう。
5.2 長生きしたときの老後資金に不安を感じている人は70歳受給開始
長生きして老後資金が底をつき、生活できなくなるのが老後破綻です。
早く亡くなれば老後資金は少なくて済みますが、長生きするほど多くの老後資金が必要です。
長生きリスクに備えるには、85歳以降の総受給額が多くなる70歳受給開始をおすすめします。
5.3 人生100年時代に備えるなら75歳受給開始
95歳以降に死亡した場合、75歳受給開始の総受給額が最も多くなります。
人生100年時代といわれるようになり、平均寿命を大幅に上回って長生きすることを想定すれば、年金額(65歳受給開始の1.84倍)が多くて安心です。
ただし、85歳までに亡くなった場合、総受給額は最も少なくなります。
5.4 大半の人は65歳受給
早死リスクを考えると繰上げ受給、長生きリスクを考えると繰下げ受給がよさそうですが、どちらのリスクが高いかわからないという人も多いでしょう。
参考材料として、年金受給者の状況を確認しておきましょう。
厚生労働省の「令和4年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、老齢厚生年金受給者の繰上げ・繰下げ受給状況は次の通りです。
- 繰上げ受給:0.7%
- 本来受給(65歳開始):97.9%
- 繰下げ受給:2.1%
老後生活に不安を感じて繰下げ受給する人の割合は増えてきていますが、大半の人は65歳からの年金受給を選択しています。
6. 加給年金が支給される場合、繰下げ受給には要注意
繰下げ受給を検討する場合、老齢厚生年金に加給年金が加算されるかどうかに注意しましょう。
繰下げ受給すると、受給開始までの加給年金がもらえなくなるからです。
加給年金とは、厚生年金に20年以上加入していた人で所定の条件を満たす配偶者や子どもがいる場合、老齢厚生年金に加算される年金です。
条件を満たす配偶者がいれば加算額は年額40万8100円(2024年度)と高額であるため、繰下げ受給は慎重に検討しましょう。
7. まとめにかえて
繰上げ受給や繰下げ受給によって受給開始年齢は60歳から75歳までの間で自由に選択できます。
受給開始年齢を検討するときは、死亡するまでの総受給額に着目しましょう。
早く亡くなると繰上げ受給、長生きすると繰下げ受給の方が総受給額が多くなります。
老後資金や老後の家計収支見通しを基にライフプランを作成し、自分の生活にあった受給開始年齢を選択しましょう。
参考資料
西岡 秀泰