1世帯あたりの平均貯蓄は1812万円。これは、5月に総務省が発表した調査報告です。もしかしたら、自分の家庭の貯蓄金額を思い浮かべてギャップを感じた方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
年代別の貯蓄額を見ると、直近10年間で経済的な余裕を失いつつある30代の姿が見えてきました。
シニア世代の平均貯蓄額は2000万円超!
調査によれば、1世帯(2人以上)の平均貯蓄額は、10年間で132万円アップしています。
平均貯蓄額を押し上げているのは、60代以上のリタイア世代。60~69歳の貯蓄額は2382万円で、70歳以上は2385万円となっています。
全ての企業に制度が整っているわけではありませんが、正社員として長く企業に勤めたシニア世代には、「退職金」というまとまった収入があります。
経団連の「退職金・年金に関する実態調査結果」(2017年6月発表)による標準者退職金(注)を見ると、「管理・事務・技術労働者(総合職)」の60歳大学卒の退職金額は2374.2万円、高校卒は2047.7万円です。
自分の生活を自分で守るため、現役時代の蓄えや退職金、年金をもとに、「人生100年時代」に備えているシニア世代の姿が見えてきます。
注:標準者退職金とは、学校卒業後直ちに入社し、その後標準的に昇進・昇格した者を対象に算出した退職金のこと
40歳未満の負債額は過去10年で365万円増加!
一方で、40歳未満の1世帯(2人以上)あたりの平均貯蓄額は602万円と、シニア世代の4分の1程度。過去10年で貯蓄額には大きな変化はありませんが、特筆すべきがこの世代の負債額の増加。
40歳未満に限っては、負債現在高の平均が1123万円と貯蓄額を大きく上回り、10年間で365万円も上昇しているのです。
つまり、貯蓄から負債を引いた「純貯蓄額」は、40歳未満でマイナス521万円と大きな赤字。マイホームやマイカーを持ち、子どもに十分な教育を受けさせて……という一昔前の「型」を実現させるには、大きな「負債」を背負う覚悟を伴います。
少子高齢化に伴い、社会保険料はジワジワと値上がりを続けるほか、子育て中の家庭において子どもにかかる教育費が増大。また、平成23年~24年度に16歳未満の子どもの扶養控除が廃止され、負担が大きく増えた家庭もあります。
シニア世代のような確約された生涯賃金や豊かな退職金を望めず、30代にして老後の不安を抱える層は少なくありません。
「勝ち逃げ世代のくせに…」不遇が生む憎しみ
昨年12月、NHKの『クローズアップ現代』で「アラフォークライシス」が取りあげられたことがきっかけで、30代~40代が経験してきた不遇に注目が集まっています。
就職氷河期によって新卒の就職活動で正社員の職を得られなかった男女は、その後キャリアのリカバリーが難しく、また結婚や出産で労働市場からいったん離脱した女性も再び安定した職に就きにくい状況に追いやられます。
卒業後のファーストステップや、恋愛・結婚での立ち回り方で「持つもの」と「持たざるもの」が運命づけられてしまう状況に、絶望の声も聞こえてきます。
「日本の近未来を予見する」とも評論されたイギリスの若きコラムニスト、オーウェン・ジョーンズ氏の著書『チャヴ 弱者を敵視する社会』(海と月社)の中では、イギリス国内で進む階級化や分断があぶりだされ、大きな話題となりました。
労働者が自分より少しだけ恵まれている者に対して抱くねたみ、働いても豊かにならない層が貧困層をバッシングする風潮、分断による「憎悪」が政治に利用されること、そして鬱積した感情が政治を過去に回帰させること。
本来ならば、不満を抱く者同士が団結して政治や社会の仕組みに対して真剣に考えるべきものが、すでに「団結」という価値観が失われ、生活から「考える余裕」が奪われていくという実態は、今の日本の姿と重なります。
日本では「持たない」若年世代による「持っている」シニア世代に対する嫌悪感も広がりつつあります。ジョーンズ氏は、怒りを向けるべき対象は社会の構造だとしていますが、目の前の生活に精一杯の若年層の声なき声が政治に反映される方法を探るべきなのかもしれません。
【参考】
「家計調査報告(貯蓄・負債編)-平成29年(2017年)平均結果-(二人以上の世帯)」(総務省統計局)
『チャヴ 弱者を敵視する社会』(海と月社・2017年)
北川 和子