本記事の3つのポイント
- 国内半導体大手のルネサス エレクトロニクスが山口工場の閉鎖および滋賀工場の一部ラインの集約を発表した。ルネサスは以前から6インチラインの集約の方向性を示しており、今回の決定はその一環
- 同社は事業建て直しのため、これまでも国内製造拠点の統廃合を進めてきた。今回の決定により、6インチラインは高崎工場を残すのみとなった。一方で後工程拠点は顧客要求の影響もあり、閉鎖方針から一転して操業継続の方針転換も
- 生産拠点の統廃合、人員削減などの大規模リストラを進める一方、再建にめどが立ったことで今後は再度売上高の上昇も求められる。なかでもマイコンに並ぶ主力事業・製品の育成が急務
国内半導体大手のルネサス エレクトロニクスは2018年6月、製造子会社のルネサス セミコンダクタマニュファクチャリングの山口工場(山口県宇部市)について、今後2~3年をめどに閉鎖することを決めた。また、滋賀工場(滋賀県)のシリコンラインについても集約することを決定した。
ルネサスは自社の6インチラインに関し、生産性・経済性の問題から閉鎖・集約対象と位置づけており、他企業への譲渡を含めて検討を進めてきた。その結果、山口工場および滋賀工場の一部において合理的かつ安定的な製品供給を継続する運営が困難になると判断。今回の決定に至った。なお、滋賀工場の化合物ラインについては生産を継続する予定。
対象拠点で生産していた製品はEOL(End of Life=生産終了)となるほか、一部製品については同社グループの他拠点への生産移管や外部リソースを活用して生産を継続していく。
閉鎖が決まった山口工場は従来、前・後工程の一貫生産ラインとして展開していたが、後工程は13年に閉鎖。滋賀工場は6/8インチの前工程ラインであったが、8インチに関しては15年にロームへの売却を発表。今回、6インチの集約を発表したことで化合物ラインを残すのみとなった。
なお、両工場ともに閉鎖・集約の方針は決まったが、今後も譲渡先の確保に向けて協議を行っていくとしている。18年5月末に閉鎖した高知工場(高知県香南市)についても、譲渡先の確保に努めていく方針。
工場統廃合、人員削減などで再建進む
ルネサスは東日本大震災による被災影響を契機に、業績が大幅に悪化。官民ファンドの産業革新機構からの出資を受け入れ、実質国有化されるかたちとなっていた。13年8月に発表された生産構造改革の発表以降、国内の製造拠点の閉鎖・集約・売却を次々と進めてきた。
さらに、大規模な人員削減も実施したことで、固定費の大幅削減を図り、14年度に10年の会社発足以来、初めて最終黒字化を達成。売上高はピークに比べれば2割以上減少したが、収益性は確実に高まった。17年通年(暦年)ベースでも営業利益率(Non-GAAPベース)は16.4%を達成しており、2桁台を常に達成できる事業構造に変貌を遂げた。
16年には米アナログ半導体の有力メーカーであるIntersil(インターシル)の買収を発表(17年2月買収完了)。近年ではトップライン(売上高)の拡大にも積極的な姿勢を見せ始めている。
先端プロセスは外部リソースを積極活用
一連の再建策で大きな役割を果たしてきたのが、冒頭の国内製造拠点の統廃合だ。12年に国内拠点の縮小方針を発表してから、実に7年目に入っているが、残るは高崎工場の6インチラインの対応を残すのみとなっており、最終段階を迎えたと言ってよい。
前工程は今後、那珂工場、西条工場、川尻工場を国内主力拠点として残し、40nm以降の先端プロセスに関してはTSMCをはじめとする海外ファンドリーを活用した外部委託に頼ることになる。
同社とTSMCは40nm以降、車載マイコンの協業を本格化。マイコンとしては最先端の28nmプロセスを採用したマイコンもTSMCに委託するかたちで、18年からサンプル出荷を開始。20年ごろをめどに本格量産に移行したい考えだ。
前工程は外部リソースを柔軟に活用した生産戦略を敷く一方、後工程に関しては13年のプラン発表時に比べれば、外部委託重視から自社拠点での生産比重を高める姿勢を強めている印象だ。
同社の主力製品である車載マイコンは品質重視の観点から、顧客であるOEM/ティア1企業が外部のOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly & Test)企業の活用を容易に認めてくれない。特に日系企業は伝統的にその傾向が強い。
ルネサスも当初、製造固定費低減のため、OSATの積極活用に舵を切っていたが、こういった「顧客の声」が壁となり、一部方針転換を図っている。
熊本錦工場は閉鎖対象から一転操業継続へ
その象徴的な事例が熊本錦工場(熊本県球磨郡)の操業継続だ。ルネサスは16年8月に譲渡および集約を検討していた後工程生産拠点の熊本錦工場の操業を、当面継続すると発表した。もともと同工場は整理対象となっていた後工程拠点であったが、当時は熊本地震に伴う顧客側での在庫積み上げ需要が非常に旺盛だったことに加え、「車載用マイコンは品質面から容易に外部委託できない」(柴田英利CFO)といった事情もあり、従来の方針を撤回した。
設備投資金額からも後工程の自社拠点回帰は見て取れる。10年の発足以降、設備投資は年間200億~300億円程度と極端に抑えてきたが、15年度から投資水準が大きく回復。15年度618億円、16年度728億円、17年度785億円と従来の2倍以上の金額を投じてきた。設備投資のメーンが後工程向けで、特にテスト工程に多くの金額を充ててきた。設備投資をこれまで絞ってきたことから、足元の需要に追いつくための、やや後追いの設備投資に加え、海外後工程拠点を中心にテスト工程の拡充を図った。
マイコンに並ぶ主力製品の育成急務
生産拠点の統廃合、人員削減、事業売却といった大型リストラを経て、ルネサスは収益構造を大きく改善させた。国内大手半導体メーカーの一角としては、今一度トップラインの上昇に挑んでほしいところだ。
インターシル買収といったM&Aをてこに拡大を図る手段に加え、製品ポートフォリオではマイコンに並ぶ主力製品の育成が急務だ。CASE(Connected Autonomous Shared Electric)といった言葉に代表されるように、自動車業界では電動化や自動運転化といった、いくつもの変化の波が押し寄せている。
こうしたなかで、自動車業界では今後需要拡大が期待される半導体デバイスとして、パワーデバイスやコグニィティブ(認識)用プロセッサー、センサーの名前が挙がる。ルネサスのマイコンは基本的に生産台数依存なところが強く、1台あたりの搭載点数増加などのメリットが働きにくい。
ルネサスは年明け以降、車載マイコンを中心に顧客側の在庫調整に直面している。独インフィニオンなどのパワーデバイス主力の半導体メーカーが自動車向けで好調をキープしているのと対象的だ。
ルネサスが主戦場とする車載用半導体業界は現在、NXPセミコンダクターズが首位を走る。従来ルネサスは同分野でトップの地位にあったが、現在はインフィニオンにも抜かれ3位に後退している(17年ベース、Strategy Analytics調べ)。首位奪還に向けた同社の次なる一手に注目したい。
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉雅巳
まとめにかえて
ルネサスの歴史は日本の半導体産業の歴史そのものです。海外勢の攻勢、ITバブル崩壊、リーマンショック、東日本大震災を乗り越えて、ルネサスはここまで立ち直ってきました。また、大株主であり国有化を主導した官民ファンド、産業革新機構の数少ない投資の成功例でもあります。昨今の車載用半導体の需要拡大の波にやや乗り切れていないところは気がかりですが、少なくとも、過去の低収益体質からは完全に脱した印象です。「CASE」という言葉に凝縮されるように、今後の車載用半導体分野には多くの成長機会があります。その果実を得ることできるのか、今後のルネサスの一挙手一投足に注目です。
電子デバイス産業新聞