皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。
いよいよ梅雨の足音が近づき、ジメジメ感がやってきたように思います。私が使っている温湿度計では、早くも熱中症に注意との表示が出ることがあります。特に、ご高齢の方は、早めの水分補給にご留意ください。
さて、今回の記事のポイントは、以下の通りです。
- イタリアの政治情勢は、通貨ユーロ、および欧州の債券市場に影響を及ぼしている一方、恐怖指数と呼ばれることもあるVIX指数は落ち着いた動きであり、市場全体がリスク・オフ(リスク回避的)局面になっているとは言いがたい。
- 欧州を巡る問題は、①本当にイタリアのユーロ離脱を市場は懸念する必要があるか、②今回の動きを含めて、欧州地域の経済成長が減速する可能性があるかの、2種類の視点から考えることが重要であると思われる。
- イタリアのユーロ離脱への動きを懸念する報道などもあるが、イタリアにおいては、政治の不安定さは今に始まったことではないし、直ちにイタリアのユーロ離脱を本当に心配する状況になる可能性は低いと考える。
- 一方で、欧州の経済成長については、以前『そうはいっても、経済成長の見通しが大事! OECD発表の景気先行指数を考える』でご紹介したように、既に、成長鈍化への懸念があった。この懸念が顕在化するかは、世界の投資環境を考える上では重要であると思われる(なお、筆者は過度な懸念は必要ないと考えている)。
欧州を巡る動きが各種メディアの紙面を賑わせています。市場の動きとしては、ユーロ/円レートは127円72銭と、4月末比で4円33銭のユーロ安・円高となっています(執筆時点)。
これ以外にも、細かい数字は省きますが、(4月末比で考えた場合)イタリアの10年国債利回りが上昇(価格は下落)する一方、ドイツの10年国債利回りが低下(価格は上昇)し、イタリアのドイツに対する同利回り格差(対独スプレッド)が拡大しています。
ただし、恐怖指数とも呼ばれることもあり、リスク・オフ(リスク回避的)局面で数字が跳ね上がる傾向のあるVIX指数は、4月末15.93に対して、13.46(6月1日時点)であり、現時点でリスク・オフとは評価できないと思われます。
メディアを賑わせている中心的なニュースは、もちろん皆さんがご承知のとおり、イタリアの政治情勢を巡る動きです(1日には、ポピュリズム(大衆迎合主義)政党といわれることもある「五つ星運動」と「同盟」が推薦したジュセッペ・コンテ氏が新首相に就任、なお、スペインでも首相が交代)。
しかし、イタリアにおける政治の不安定さは今に始まったことではありませんし、直ちにイタリアのユーロ離脱を本当に心配する状況になる可能性は低いのではないかと考えています(ギリシャですら、ユーロを離脱しませんでした。英国とは異なり、統一通貨ユーロを採用している国が、通貨を変更することは容易ではありません)。
それにも関わらず、欧州の不安定感が増していると感じる理由としては、欧州の経済成長の先行きに対しての不安感があると考えます。
4月17日公開の『そうはいっても、経済成長の見通しが大事! OECD発表の景気先行指数を考える』でご紹介したように、OECD(経済協力開発機構)の2月のニュースレターでは「安定した成長」とされた欧州地域が、同4月では「成長モメンタムが弱まる兆候」とされ(寒波の影響であるとの評価もある)、欧州地域の経済成長の先行きには注目が集まっていたと考えています。
このような状況の中、IHSマークイットが23日に公表した5月のユーロ圏PMI(購買担当者指数)総合の速報値は54.1と、 18カ月ぶりの低いものとなりました(市場予想(ブルームバーグ)を下回り、ネガティブ・サプライズ)。
しかし、欧州の景気が本当に悪くなるかについては、検討が必要だと考えています。
たとえば、先ほどご紹介したPMIは確かに悪い数字ですが、 IHSマークイットのニュースレターのコメントには、祝日が多かったことなどが影響した可能性が指摘されています。
また、図表1の通り、当社の欧州地域のマクロサプライズ・インデックス(MSE欧州総合指数と呼んでいます)がいまだマイナスながらも上昇傾向になり、ネガティブ・サプライズが多かった局面を脱しつつあると評価できることも、お伝えしたいと考えます。
欧州経済の先行きについては、今後ともご報告させていただきます。
(2018年6月4日 8:30頃執筆)
【当資料で使用している指数についての留意事項】
VIX指数はシカゴ・オプション取引所が算出する指数です。
柏原 延行