今の就活には問題があるが、学歴フィルター自体はある意味合理的だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。
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採用活動が最盛期を迎えていますが、「学歴フィルターによって人気企業を受けさせてもらえない」という低偏差値大学の学生の不満も聞こえてきます。学生の不満はもっともですが、企業の視点から考えると、学歴フィルターがやむを得ない選択肢であることが見えてきます。
就活生も採用担当者も疲弊する現在の就活
筆者が就職活動をした昭和55年当時、就活は4年生の10月1日が解禁で、数日間で数社を受けて内定が出るという短期決戦でした。
数社しか受けないわりには、内定が出た学生が多かったですね。短期決戦だとわかっているので、学生が高望みをせず、身の丈にあった企業を受験したからでしょう。内定が出なかった学生は第2ラウンドに進むわけですが、それでも比較的短期間で決まっていました。
今は、就職活動が数カ月にも及ぶため、学生が数十社を受け、企業側も募集人数の数十倍の学生の相手をするわけです。結局は1人1社しか入社できないので、お互いに膨大な無駄を強いられているわけです。「入試と異なり受験料が無料だから、記念受験をしよう」と考える学生も多いようで、人気企業では募集人数の100倍以上が受けにくるそうです。
昔のように「4年生の10月解禁で抜け駆けなし」ができれば良いのでしょうが、今は時代が違うので、難しいでしょうね。そうであっても、学生が「高望みをしても無駄だから、身の丈にあった所だけ受けよう」と思えば良いのです。
しかし、それもなかなか難しいようです。学生が「受験料は無料だが、記念受験をせずにバイトをすれば数千円は稼げる」という「機会費用」を意識してくれれば良いのですが(笑)。
人気企業は全員と面接をすることが困難
募集人数の100倍以上の学生が受けにくるような人気企業は、全員と面接することができませんから、何らかの方法で「足切り」をする必要があります。そうなると、最もよく使われるのが「学力テスト」ですね。「最低限の読み書きができないと、一流のビジネスパーソンにはなれないから」と言われてしまえば、学生としても受けざるを得ません。
しかし、学力テストは費用がかかります。そこで、学歴フィルターが使われるわけです。学力テストを実施する代わりに「4年前の学力テスト」の成績を使う、というわけですね。
問題は、「当社は学歴フィルターを使っていますから、低偏差値大学の学生は当社を受けても無駄です」という公式発表をしている会社は少なく、こっそりと低偏差値大学の学生をブロックしている会社が多そうなことです。
まあ、学生の側もすべての企業に「御社が第一志望です」と答えているのでしょうから、腹を立てずに「就職活動は本音と建前の使い分けを学ぶ機会だ」と割り切ることですね(笑)。
難関大学の学生が優秀なビジネスパーソンになるのか
「難関大学の学生が優秀なビジネスパーソンになるとは限らない」という声が一部の読者から聞こえてきそうですね。ただ、重要なことは「なるとは限らない」けれども、なる可能性は低偏差値大学の学生よりは高い、ということです。
したがって、全員に会うことができない以上、くじ引きよりもマシな足切り方法として大学の偏差値を用いるのは合理的だ、ということです。
一つには、読み書き等の能力の問題です。入学試験は4年前の能力ですから、低偏差値大学の学生が4年間勉強して実力が逆転しているかもしれませんが、その可能性は高くないでしょう。大学に入ってから真剣に勉強するような真面目な学生であれば、高校時代にも真剣に勉強して難関大学に合格していた可能性が高いからです。
もちろん、例外はいるでしょうが、あくまでも本稿では「企業が足切りの条件として考えた場合に、例外の学生は多くないと考えることが合理的か」という話をしているので、あしからず。
今一つは、難関大学の学生のほうが「目的に向かって努力することができる人物である可能性」が高いということです。難関大学に入学すれば人気企業に入社できる可能性が高いことを知りながら努力をしなかった学生と、努力をして難関大学に合格した学生がいれば、後者を採用する方が合理的でしょう。入社後も「頑張るべき時に頑張る能力」は必要だからです。
新卒一括採用が問題だ、という意見もあるが・・・
日本企業は新卒一括採用で終身雇用です。それが問題なのだ、と言う人もいます。これは大きな問題なので、本稿の範囲は超えますが、筆者としては日本的経営にもメリットは多いと考えていますので、賛成できません。
加えて、一社だけで新卒採用をやめても、他社が一括採用で終身雇用だと、なかなか難しいでしょう。「新卒を採用せず、他社からの転職だけで必要人数を採用する」のは、容易ではないからです。全社が一斉に終身雇用をやめれば良いのかも知れませんが、それは政府と経団連が10年かけて相談してもらう話ですね。
なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。
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塚崎 公義