半導体製造装置メーカー国内最大手の東京エレクトロンが2018年度(19年3月期)業績予想を発表した。DRAM、NANDフラッシュといったメモリー製品の旺盛な投資を背景に引き続き業績拡大を見込んでおり、半導体製造装置業界は18年も良好な事業環境が続くことを印象づけた。一方で、海外の同業メーカーとは市場見通しに若干の乖離もあり、5月末に発表される新中期経営計画も含めて今後の市場見通しに注目が集まっている。
18年度はDRAM投資が貢献し24%の増収予想
18年度通期業績予想は、売上高が前年度比24%増の1兆4000億円、営業利益が同30%増の3660億円を計画する。主力のSPE(半導体製造装置)部門は、売上高で同22%増の1兆2880億円を計画。同部門における新規装置のアプリケーション別構成比はDRAMが33%、NVM(Non Volatile Memory)が35%、ファンドリーが11%、ロジックその他が20%を見込む。前年度との比較ではDRAMの構成比が上昇(9ポイント増)しており、金額ベースでは前年度比74%増の大きな伸びとなりそうだ。
売上高予想の前提となるWFE(Wafer Fab Equipment)市場の18年(暦年)見通しは、前年比15%増の580億ドル規模。アプリケーション別ではDRAMが同60%増、NVMが横ばい、ロジック/ファンドリーも横ばいを見込んでいる。決算期の違いは3カ月分あるものの、市場成長率以上の売り上げ拡大を見込んでおり、シェアの上昇につなげていきたい考えだ。
製品別の市場シェアでは、17年は注力分野であるエッチング装置で前年に比べて3ポイント上昇し、26%を獲得した。3D-NAND向けも一部で寄与しているものの、最も牽引材料となったのはDRAM向けだとしている。同社はもともと、HARC(High Aspect Ratio Contact)工程で高シェアをキープしており、17年後半から盛り上がったDRAM投資がシェア上昇に貢献した。
また、洗浄装置についても前年から6ポイント上昇し25%を獲得した。特に17年は3D-NAND向けバッチ洗浄装置がシェア拡大に貢献した。成膜装置に関しては前年と変わらず36%だったが、このうちALD(Atomic Layer Deposition=原子層堆積)は2ポイント上昇の31%となり、トップシェアとなった。ALDはプロセスの微細化に伴い、今後市場拡大が期待されるセグメントの1つだ。
山梨と岩手で新棟建設、成膜装置など増産
中長期的な市場拡大が見込めるなか、同社では製造子会社である東京エレクトロン テクノロジーソリューションズの山梨(藤井)事業所(山梨県韮崎市)および東北事業所(岩手県奥州市)に、それぞれ新棟を建設する。主力製品の1つである成膜装置などの増産を行う。
山梨事業所の新棟は2019年1月の着工、竣工は20年4月を予定する。東北事業所は18年10月に着工、19年9月に1期工事が完了、20年12月に2期工事が完了する予定。新棟それぞれの建設費用は約130億円を見込んでいる。山梨は枚葉成膜装置、東北は熱処理成膜装置の増産に充てる。
東京エレクトロン テクノロジーソリューションズは、17年7月に東京エレクトロン山梨、東京エレクトロン東北が合併し設立された製造子会社。山梨、東北ともに成膜装置の開発・製造を行っていたことから、合併後は成膜技術の融合などを進めている。また、生産面でも生産スペースの共有化を実施。生産効率が高まったことで以前に比べて生産量を2倍に引き上げることができているという。
東京エレクトロンでは先端技術開発および増産対応への積極投資を図るべく、18年度の設備投資金額として前年度比12%増の510億円を計画。2期連続で高水準の投資を行っており、今回の山梨、東北の新棟建設のほか、エッチング装置を開発・製造する東京エレクトロン宮城㈱(宮城県黒川郡)でも新物流棟および新開発棟の建設を進めている。新物流棟は18年1月に竣工しており、19年までにエッチング装置の生産能力を倍増させる計画だ。
同業の米Lam Researchの予想とは若干の乖離
半導体業界では、足元でDRAM投資がサムスン電子を中心に活発に展開されている。また、3D-NANDも主要5社(サムスン、東芝&WD、マイクロン、インテル、SKハイニックス)に、中国の長江ストレージも加わり、新工場の建設ラッシュとなっている。
こうした事業環境をもとに考えれば、東京エレクトロンの業績予想は納得できる。ただ、同業の米Lam Researchの業績予想とは若干の乖離が生まれており、この差については疑問の余地が残る。
東京エレクトロンはSPE部門の18年度新規売上高見通しを上期5040億円、下期5140億円とし、下期にやや偏ったかたちとなっている。内訳を見るとDRAMが引き続き高水準を予想している。業界内ではDRAM投資(装置出荷ベース)は、18年夏場~秋ごろがピークとされているが、同社予想は下期(18年10月~19年3月)も高水準で続くことを示唆している。
これに対し、Lamの予想は18年(暦年)装置出荷高が上期50%台前半、下期40%台後半と「上期偏重」の構成となっており、東京エレクトロンの予想はやや強気に映るのだ。出荷高ベースと売上高ベース(東京エレクトロンは据付基準)の違い、および決算期の違いはあるものの、10月以降もDRAM投資が続くと見通す東京エレクトロンの予想は、業界内にある「DRAM投資は上期(4~9月)で一服」という見方を覆すものであった。
東京エレクトロンは18年5月29日に新たな中期経営計画を発表する。15年に河合利樹社長をトップとする新体制に移行した直後、現中計を公表したが、予想を上回る半導体製造装置市場の拡大に伴い、目標を前倒しで達成。今回新たに公表される中期計画は、半導体製造装置市場の今後の将来性を占ううえで大きな指標となりそうだ。同社がどういった売り上げ計画、市場見通しを発表するか、ぜひ注目していきたい。
(稲葉雅巳)
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳