長生き保険は、ドル建てにすると平均寿命で元がとれるように見えるが、それは日本人のゼロ金利ボケによる錯覚だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

終身年金保険が最近流行っている模様

終身保険というのは、自分が他界した時に妻子等に保険金が渡される、という保険です。解約しない限り、他界するまで保障が続くという意味で終身保険と呼ばれているわけです。

似たような名前ですが、全く異なるものとして、終身年金保険というものが最近流行っているようです。これは、一定の金額を払い込むと、生きている間はずっと決まった金額の年金を受け取れる、というものです。トンチン保険とも呼ばれているようです。

平均寿命まで生きることを前提にした年金にしておくと、早死にした人は払い込んだ金額より少なく受け取り、長生きした人は払い込んだ金額より多く受け取り、契約者の期待値としては損得なく、保険会社も損得ない、というのが基本的なコンセプトとなっています。

「早死にしたら払い込んだ金額より少なくしか受け取れなくて損をしてしまう」のはその通りですが、それで何が困るかというと、特に困ることはありません。早死にしたおかげで老後の生活費が少なく済んだのですから(笑)。

反対に、長生きしてしまったら大変です。そうです。長生きは、素晴らしいことではありますが、老後資金のことだけを考えるとリスクなのです。そこで、長生きをした時に終身年金が受け取れるというのは、大きな安心材料なのです。これぞまさに「皆で金を出し合って、困った人が受け取る」という保険の本質ですね。

最近、長生きのリスクを気にする人が増えたのか、終身年金が増えているようです。各自が老後に備えるようになったのは、頼もしいことですね。

保険会社のコストと利益はどうなった?

保険が、皆から金を集めて困った人に金を渡すという商品であるとすると、早死にした人の損と長生きした人の得が同じになる、というのが基本コンセプトですが、大きな問題として、保険会社のコストと利益が差し引かれるわけです。

したがって、平均寿命より何年も長生きをしないと「元が取れない」のが長生き保険の実情です。保険会社の人の給料や宣伝費等々を客が負担しているわけですから、考えてみれば当然のことですね。

しかし、ドル(米ドル。以下同様)建ての契約にした途端、「平均寿命あたりまで生きていれば元がとれる」という契約が登場するのです。なぜ、そんなことが可能なのでしょうか。まさか、保険会社のコスト等は円建ての契約者だけが負担している、などということがあるのでしょうか? 大丈夫です。ご安心ください。

からくりは、金利にあります。円の金利はほとんどゼロですが、ドルの金利は10年国債で2%から3%といったところです。この差がモノを言うのです。

60歳で契約し、全額をドルで払い込みます。70歳から毎月の年金を受け取り始めるとします。平均寿命まで生きた場合の受取額が払い込み額と同額であれば、普通の日本人は「元がとれた」と考えますが、保険会社はそうは考えません。

60歳の時に顧客から100ドルを受け取り、米国の長期国債を購入すると金利が毎年 2.5%受け取れるとすると、顧客が70歳になった時には受け取った100ドルが125ドルに増えています。その中から25ドルを費用と利益としてポケットに入れ、残った100ドルを顧客に支払えば良いのです。

しかも、71歳以降も一気に支払うわけではないので、支払う直前までは長期国債で運用しておくことができますから、ポケットに入る金額はさらに大きくなっていくはずです。

ドルは金利を生むが、ドルが円より得なわけではない

年金保険の話から頭を切り替えましょう。読者が100ドル分の円を持っているとして、それで米国債を買うと10年で125ドルになります。読者が100ドル分の円を持っているとして、それで日本国債を買うと10年経過しても増えません。それなら、読者が持っている円をドルに変えて米ドル国債を買いますか?

実は、プロたちは「日本国債を買っても米国債を買っても、利益の期待値は同じだ」と考えています。どちらが儲かるかは五分五分だ、というわけですね。国際金融の世界では、金利が高い通貨はその分だけ値下がりする可能性が高い、と言われていますので。

話を戻します。「円で払い込むと、平均寿命より長生きしなければ元がとれないのに、ドルで払い込むと平均寿命で元がとれるなら、ドルで払い込んだ方が得だ」と考える読者も多いでしょうが、それはそうとは限りません。上記の日本国債と米国債の話と同じことです。少しわかりにくいかもしれませんが。

「100円は10年経っても100円だ」というのは日本の常識であって、世界では「100ドルは10年経てば125ドルになる」というのが常識なのです。要するに、本稿でご理解いただきたいのは、日本の常識は世界の非常識だ、ということですね(笑)。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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塚崎 公義