凸版印刷、大日本印刷(DNP)は言わずと知れた印刷業界の大手2社だ。この印刷2強が半導体材料で重要な部材を手がけているのはご存知だろうか。半導体製造に欠かせない、フォトマスクと呼ばれる回路形成のための「原版」を両社とも生産しており、このフォトマスク市場では大きな存在感を示している。
インテル、サムスンなど半導体大手は内製志向強く
フォトマスクは半導体チップの回路をシリコンウエハー上へ転写する際に用いる回路原版であり、リソグラフィー(露光)工程の重要部材だ。2社は印刷技術で使った微細加工技術を応用し、長年半導体用フォトマスクを手がけている。両社ともフォトマスクに限らず、エレクトロニクス分野で多くの事業を進めており、リードフレームや液晶用カラーフィルターなどの製品を展開している。
電子デバイス産業新聞の調べによれば、2017年の半導体用フォトマスク市場は、前年比7.5%増の3433億円(16年は1ドル=109円、17年は同112円で試算)となり、5年連続でプラス成長を果たした。メモリー分野の好調に加え、ロジック/ファンドリー向けも17年後半から回復し、特に外販マスクメーカーの業績を下支えした。
特に2000年代に入ってから、フォトマスク業界では大きな事業環境の変化が起きている。具体的には顧客である半導体メーカー自身がフォトマスクを内製しているのだ。
しかも、内製を志向する企業がインテルやサムスン電子、TSMCといった大手企業ばかりで、外販フォトマスクメーカーにとっては、この内製市場の拡大が大きな悩みの種となっている。内製市場は17年ベースで63%にまで拡大しており、凸版やDNPといった外販メーカーのシェアは徐々に低下している。
それでも、17年は両社ともにプラス成長を果たした。外販メーカーにとって主要顧客の台湾UMCや米Global Foundriesは不振に陥っているが、これをカバーしてくれたのが内製メーンの半導体メーカーからの発注(オーバーフロー分)とみられている。特に韓国サムスン電子はDRAMやNANDフラッシュなどメモリー分野の好調により、自社のフォトマスク製造キャパシティーが逼迫。ロジック/ファンドリーといった非メモリー向けフォトマスクが外部に出てくるかたちとなった。
外販3社は中国での現地生産を強化
ただ、17年の好調は一過性のものと見なければならず、内製市場拡大という根本的な問題は解決していない。生き残りを賭けてフォトマスクメーカーが現在取り組んでいるのが、中国市場の開拓だ。
周知のとおり、中国は自国の半導体産業発展のため、中央政府ならびに地方政府が半導体産業ファンドを設立し、現地の半導体メーカーに資金を注入している。特に最近ではDRAMやNANDといったメモリーの国産化プロジェクトが立ち上がっており、①YMTC(長江存儲科技、湖北省武漢市)の3D-NAND ②イノトロン(睿力集成電路、安徽省合肥市)のDRAM ③JHICC(晋華集成電路、福建省泉州市)のDRAMの主要3案件が進行中だ。
このプロジェクトも基本的にはフォトマスク内製を目指すものの、現在の技術力では難しく、当面は外販マスクメーカーの力に頼らざるを得ない状況だ。また、メモリー国産化プロジェクト以外にも中国国内に建設される半導体工場はいくつかあり、フォトマスクの潜在需要は予想以上に高いといえる。
このため、日本の2社に米専業メーカーのPhotronicsを加えた外販マスクメーカー3社は、いずれも中国国内での現地生産に力を入れており、先端プロセス対応などの設備投資を進めている。DNPはPhotronicsと合弁で福建省厦門市に新工場を建設。凸版印刷も上海工場で先端投資を行うなど対応を強化している。
(稲葉雅巳)
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳