青色・白色LEDを世界に先駆けて事業化し、LED業界の拡大を長年牽引してきた日亜化学工業。その売上高首位の座にドイツのオスラム オプトセミコンダクターズがひたひたと迫っている。

 2012年に日亜はドル換算でオスラムの2倍以上の売上高、金額にして17億ドル以上の差があったが、その後の日亜の伸び悩みとオスラムの急伸により、17年にはわずか5億ドルにまで差が縮まった。液晶パネル用バックライトや一般照明といった、これまでLED市場の拡大を牽引してきた用途が徐々に成熟化するなか、今後の事業拡大は自動車用やマイクロLEDといった新規分野での競争力が左右しそうだ。

日亜、17年は3年ぶりに増収

 青色・白色LEDの事業化で先んじた日亜はもともと液晶バックライト用に強く、その後は一般照明向けの市場拡大を成長の原動力としてきた。青色や白色市場ではめっぽう強いが、一方で近年のバックライト用、一般照明用LEDの価格急落が売り上げ伸び悩みの一因となった。

 17年業績において、LEDや半導体レーザー(LD)を手がける光半導体事業の売上高は前年比3%増の2758億円(内部売上高を含む)となり、3年ぶりに増収を記録した。液晶パネルのバックライト分野では、タブレットやノートパソコン向けが健闘したものの、スマートフォン向けでは自発光の有機ELパネルの搭載が進んだことで、出荷量、売上高ともに前年実績を下回った。

 しかし、車載分野が出荷量、売上高ともに伸び、LED事業全体で3年ぶりの増収になったという。LDもプロジェクター用光源への採用拡大や産業用に堅調だった。光半導体事業には249億円の設備投資を実施した。

 一方、オスラム オプトセミコンダクターズは、バックライト用では日亜に及ばないが、青や白に限らず、赤や緑といった可視光領域のチップをすべて自社で製造できることに加え、センサーとして近年需要が大きく伸びている赤外LEDも強く、欧州の自動車市場で大きな存在感を放っている。

 17年の売上高(暦年)は前年比16%増の17億720万ユーロだった。売上高の内訳は公表していないが、4~6月期はスマートフォンの虹彩認証向けの赤外LEDと車載照明用、7~9月期はスマートフォンや一般照明など全セグメント、10~12月期は一般照明用がそれぞれ増収の牽引役になった。17年の設備投資額は前年比2倍の5.6億ユーロと大幅に増加したが、この背景にはマレーシアに新設し、17年11月に稼働を始めたクリム新工場への投資増がある。

日亜はLD強化、オスラムは用途拡大に注力

 今後のさらなる成長に向けて、両社はそれぞれ新たな方向性を打ち出している。

 日亜は現在、本社工場内にLDの生産棟を新設中だ。19年1月末に竣工する予定で、20年までに総額220億円を投資し、20年にはLDの生産量を現在の3倍に引き上げる。これによってプロジェクターや産業用のLD光源需要を獲得することに加え、将来的には自動車用にLDヘッドライトを実現していく考えとみられる。また、先ごろバックライト用の顧客である液晶パネルメーカー、ジャパンディスプレイの第三者割当増資に応じ、50億円を出資することを明らかにした。

 オスラムは、17年7月に自動車用安全運転支援システムのLiDARを開発しているカナダのLeddarTechに出資し、株式の25.1%を取得した。LeddarTechは赤外線を用いたLiDARシステムを開発している。また、先ごろLEDのマイクロトランスファー・プリンティング技術を持つアイルランドのX-Celeprintと技術・特許ライセンス契約を結んだと発表。この技術をマイクロLEDディスプレーやRFID、スマートカード、フレキシブルデバイスといった様々な用途に活用していく考えだろう。

両社のクロスライセンス契約を拡大へ

 日亜とオスラムは3月、光半導体に関する特許の協力関係拡大について交渉を開始することに合意した。02年と10年に特許のクロスライセンス契約に合意し、窒化物半導体、青色・緑色・白色LEDおよびLDに関する特許の共有を進めてきたが、この関係をさらに深める。今後、登録済みの約2000件の特許を含む約7000件の特許についてクロスライセンス交渉を開始するという。

 この交渉によって、両社が手がける事業領域が今後どのように変化していくのか、とても興味深い。青色・白色LEDの実現、その後のバックライト、一般照明用途の拡大で大きく成長したLED市場は、新たなフェーズに突入しつつあるといえそうだ。

(津村明宏)

電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏