2017年の米国の対中貿易赤字額が3752億ドルなのに対し、対日赤字は688億ドルと大きな差があります。ただし、これは2国間で直接取引された金額であり、中間税を含めると状況はやや異なる可能性があります。

経済協力開発機構(OECD)は中間財を考慮した統計を作成しており、付加価値貿易と呼ばれています。たとえば、日本が中国に70で輸出した中間財を中国が最終財として米国に100で輸出した場合、日本から米国への輸出が70、中国から米国への輸出が30と考えます。

通常の貿易統計では日本から中国への輸出が70、中国から米国への輸出が100と記録され、日本から中国へ輸出された中間財は2回カウントされることになります。

OECDは輸出に占める国内での付加価値の割合を算出しており、2014年の数字を見ると、米国は84.78%、日本は81.8%、中国70.7%、メキシコ66.5%などなっています。たとえば、中国からの輸出のうち約3割は海外から輸入された付加価値であることを示しています。
 
しばしば指摘されているように、iPhoneは中国で組み立てられて米国に輸出されています。中国での付加価値は全体の10%以下であり、3割以上が日本の付加価値といわれています。

こうした付加価値貿易の観点から見ると、米中貿易戦争は2つの点で日本に逆風となりそうです。

まず、中国への関税は間接的に日本への関税でもあるということです。中国の輸出の3割を海外に依存しており、iPhoneに至っては9割以上と推測されているからです。

2016年の日本からの中国への輸出は1139億ドルと米国の1304億ドルに次いで国別では第2位のお得意様です。中国への輸出の一部は米国へと再輸出されていると考えられますので、日本への打撃も小さくない恐れがあります。

また、第一弾(500億ドル相当)の関税では消費者への影響が大きいスマホやパソコンなどは対象外とされましたが、第二弾(1000億ドル相当)では含まれてくるかもしれませんので、打撃はさらに大きくなるかもしれません。

次に、日本の貿易黒字がクローズアップされる恐れがあります。日本からの輸出品は海外からの調達に依存している割合が低く、中国やメキシコの輸出品は海外依存度が高いということは、中間財を含めて捉え直すと米国の対日赤字は2国間での数字よりも大きいことを匂わせています。

すなわち、日本は中国やメキシコを隠れ蓑にして米国に輸出している疑いがあるわけです。たとえば、トランプ大統領はメキシコから自動車関連の輸出が増えていることに強い不満を表明していますが、その部品がどこから来ているのかを調べた結果、不満が日本へ飛び火しないとも限らないでしょう。

FTAでの為替条項、円高圧力を要警戒へ

トランプ政権は3月27日、韓国との米韓自由貿易協定(FTA)の見直しで合意に達したと発表していますが、その際に通貨安誘導を禁止する「為替条項」を盛り込みました。

米政府高官によると、為替条項は(1)競争的な通貨切り下げを禁じる、(2)金融政策の透明性と説明責任を約束する、といった内容となっています。

トランプ大統領は日米FTAの締結を強く求めており、その際に為替条項が盛り込まれることも想定内になったといえるでしょう。為替条項が盛り込まれれば、少なくとも円安にはなりにくくなりそうです。また、日銀は金融政策について米国への説明責任という厄介な役割を担うことになるのかもしれません。

米中貿易戦争のベースとなっているのは中国の対米貿易黒字です。当然、日本の貿易黒字もターゲットであり、日本の自動車などへの追加関税のほか、円高圧力を強める可能性も排除できませんので、ドル円は1ドル=100へと向かうシナリオも現実味を帯びてきたのかもしれません。

LIMO編集部