行動は地盤を固めてから
このとき私が意識的に行ったことは、現場である店舗とのコミュニケーションでした。実際上でも、店舗の現状を知り、現場を自分の目で見て体感しなければ、みんながよくなるための提案をし、納得してもらうことはできません。しっかり地盤を固めてからでないと、提案が受け入れられることは難しいだろうと考えました。
幸いなことに、メガネスーパーには「キャラバン」という活動がありました。同社再生の原動力となった社長が始めたもので、毎週末に、社長とその直属メンバーが40名くらいの集団で店舗を回る活動です。
週末ごとに全国300店舗のうちの10店舗ぐらいを回りますが、単に店舗に行くだけではなく、1店舗あたり2時間ほどの時間をかけて、店舗の内装や棚割りを変えたり、チラシを近隣にポスティングしたりするのです。私はよほどの用事がない限りは、自ら手を挙げて「キャラバン」に毎週参加しました。
「信頼の残高」を貯める
キャラバン参加の効果は、「現場の理解」というメリットだけにとどまりません。店舗改装やポスティングは、それなりに大変な肉体労働です。夏であれば太陽がじりじりと照る中、冬であれば手がかじかむ中でも、一軒一軒に丁寧にチラシを投函し、店舗の窓ふきやポップの貼り付けなどをしなければいけません。
そうした労働が終わった後には、店舗で懇親会を行うのですが、一緒に仕事をした後なので、まさに「同じ釜の飯」を食べる仲となります。そのため、少しずつではありますが、「この人の話なら、聞いてみるか」という「信頼の残高」が蓄積されていきました。
こうした取り組みを通じて、カード会社A社との提携は、店舗への浸透スピードも速く、また運用も定着したことで、経営陣、店舗、そして提携先にも嬉しい結果をもたらすことができました。
まとめにかえて
上記の話は一例ですが、転職したばかりの時期は、結果が出るまで1年かかるような大型の案件にいきなり取り組むよりも、2週間でひとつ終わるくらいの短い案件で次々に成果を出したほうが、早く信頼を得ることができます。それを繰り返し続けることで「信頼の残高」が貯まっていきます。これを「クイックウィン」と呼びます。
半年、1年かけないと成果がわからないプロジェクトにおいては、その間、自分の評価は定まりません。でも2週間で終わる仕事で成果を出せば、2週間で評価されます。たとえばそうした観点で、社内の「人がやりたがらない仕事」「放置されている仕事」を率先して行うのは、新しい職場ですぐにできて、なおかつ早くチームになじむための鉄則といえます。
このように「信頼の残高」を積んでいくことで、短期間で信頼を高めることができれば、それだけ早く提案ができるようになり、承認もされやすくなります。それがあなたのもう一段の飛躍につながるはずです。
■村井庸介(むらい・ようすけ)
慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、株式会社野村総合研究所に入社。その後、リクルート、グリー、日本アイ・ビー・エムなどで、法人営業・戦略企画・人事の仕事を経て、メガネスーパーの企業再生に従事し黒字化に貢献。2017年よりSmart Contract株式会社CSO(Chief Strategy Officer)などを務める。
村井 庸介