半導体製造プロセスにおいてEUV(極端紫外線)リソグラフィーが、いよいよ2018年末~19年にかけて量産ラインで適用されることになりそうだ。台湾TSMCが先陣を切るかたちで、ロジック分野に適用される見通しだが、装置・材料分野に目を移せば、日系メーカーにも恩恵を受ける企業が多く存在する。
TSMCは7nm+で導入
次世代リソ技術として長らく期待されていたEUVだが、多くの課題を抱え、量産工程への導入は度々見送られてきた経緯がある。しかし、ここ最近は技術的な改善が進み、量産導入に向けた機運が高まっている。
最も大きな課題となっていた、光源の出力不足によるスループットの低さについては、実際に露光装置を手がけるASML(オランダ)が時間あたり125枚以上を達成した(注:18年2月に開催されたSPIE Advanced Lithographyでは140枚に向上したとアナウンス)。
ここまでEUVの導入を急ぐのは、やはりプロセスコストの上昇が大きく影響する。現行技術のArF液浸露光ではマルチプルパターニング(多重露光)など、いわゆる「足し算」を行うことで微細パターンを形成していた。しかし、コストの上昇が大きな問題となっており、これをいかに減らしていくかが求められていた。
TSMCは18年から最先端の量産プロセスが7nmに突入する。同世代は2種類あり、EUVは7nm+に適用されることになる。EUVを使わない7nmはすでに17年4~6月期からリスク生産を開始しており、18年初頭から量産に移行する。7nm+は18年下期からリスク生産を開始し、本格的な量産は19年初頭となる見込み。
「世界で唯一」の装置を製品化したレーザーテック
EUVリソが量産工程に導入されることで、関連する装置・材料メーカーの業績拡大が期待される。まず当然のことながら最も影響を受けるのは露光装置だ。EUVに関してはASMLが独占的な地位を確保しており、18年以降、EUV露光装置の出荷台数は大きく増える見通し。
同社は17年第4四半期(10~12月)にEUV露光装置を新たに10台受注しており、これにより17年12月末の受注残台数は過去最高の28台まで増加した。ちなみに18年は通年で22台の出荷を計画している。
ただ、海外企業ばかりではない。露光装置はASMLが独占するものの、露光工程で「原版」の役割を担うマスク/ブランクス分野において、日系企業のポジションは総じて高い。そのうちレーザーテックは、EUVマスクブランクス向け欠陥検査装置を手がけており、EUV向けに事業拡大が期待される企業の1社だ。
マスクブランクスとは、半導体露光工程で「原版」の役目を担うフォトマスクの母材。パターンを形成してフォトマスクとして仕上げる前の欠陥検査は非常に重要だが、これまでEUV用マスクブランクスの欠陥を検出する装置が事実上なく、大きな課題になっていた。
これに対し、レーザーテックは17年に世界で唯一EUV光源を使って、ブランクスの欠陥検査を行える装置「ABICS」を製品化した。すでに同社はABICSを2台受注しているほか、17年9月に半導体関連で約160億円の大型受注を獲得したと発表。「半導体関連」ということ以外、詳細は一切明らかにされていないが、このなかにマスクブランクス検査装置をはじめとするEUV関連装置が含まれている可能性も十分にありそうだ。同社の年間売上高は210億円(18年6月期予想)であることを考えると、この受注高が持つ意味は非常に大きいことがわかる。
HOYAがブランクス大手、旭硝子も事業拡大に意欲
また、このマスクブランクス検査装置を使って、実際にマスクブランクスを供給する企業も日系メーカーで構成されている。
筆頭はHOYAであり、半導体用マスクブランクス事業の17年度第3四半期(17年4~12月)売上高は前年同期比8%増を達成。うち、EUV用ブランクスが占める割合は15%程度であり、EUV用に限れば30%以上の伸びを記録している。
また、旭硝子もEUV露光用フォトマスクブランクスの供給体制を、グループ会社であるAGCエレクトロニクスで18年から大幅に増強することを決定。生産能力は明らかにされていないが、18年に売上高ベースで17年比倍増させるべく能力を増強。20年に一連の設備投資が完了する見込みで、20年時点での売上高は17年比で8倍まで拡大させていきたい考えだ。
このほかにも、マスクをコンタミネーション(ゴミ)から守る保護膜の役割を担うペリクルなどもあり、ここも日系優位の市場となっている。EUVが量産工程で適用され、実際に稼働すれば、今後は装置だけでなく、材料分野にも影響が及ぶことになる。同分野ではフォトレジストなどへの影響が見込まれており、EUV用レジストでは東京応化工業や信越化学工業が顧客からの認定取得で他社をリードする。
本格導入が期待されるEUVだが、「実際の現場で思ったようなスループットが出ていない」といった声も聞こえてくる。TSMCが採用する7nm世代でもEUVを使った7nm+より、EUVを使わない7nmの採用デバイス数の方が多いもようで、やはりEUV実用化に向けた「産みの苦しみ」は想像以上に多くあるようだ。
(稲葉雅巳)
電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉 雅巳