ふるわない最近の韓国経済
「サムスン、SKハイニックスの大活躍がありながらも、韓国経済の先行きの不安感は去らない。はっきりいって、世界のIoT革命の流れに乗り遅れているとの感がある。ITの世界では、スマホも半導体も有機ELも韓国はモノにしてきた。いや先行した。もっともっと我々は原点に立ち返り勉強しなければならない」
これは韓国で国務大臣を務めたことのある要人の発言である。3月14日に開催されたソウルにおけるIoTカンファレンスにおける席上のことだった。筆者はこのカンファレンスで「IoT大革命の新産業に対する期待~日本はロボット、センサーで復活する」というタイトルで90分におよび講演をやらせていただいた。出席者は政財界における大物といわれる人たち、そして日本、中国、韓国の一流のジャーナリストたちであった。
政府要人が不安げに前記のような発言をしたのには多くの理由がある。まず第一にここ最近の韓国経済は総体として全くふるわないのだ。かつては日本の低空飛行を尻目に、5%前後の経済成長が当たり前であった韓国だが、2016年のGDP成長率は2.8%に下がり、2017年は予想以上の3.1%だったものの、未来は明るいとは言い難い。
ちなみに、弊社ソウル支局の嚴支局長はこう語っている。「大失敗といわれた平昌オリンピックもチケットの85%は売り切れで、海外からの評価も良くまずは成功といえる。しかし最近のソウルの街を歩いてもまず若者たちに元気がない。大学を出ても、実質的に就職にこぎつけるのはせいぜい全卒業生の30%くらいだ。低成長期突入で消費が冷え込み、雇用も最悪となっており、もはやヤケ酒でもあおるしかウサの晴らし所がない」
「半導体王国=韓国」が実現、大手2社で生産額約10兆円
しかし、韓国経済が厳しい中にあって半導体企業の活躍には目を見張るものがある。サムスン電子は25年間にわたって半導体の世界チャンピオンベルトを巻いていたインテルの牙城を突破し、ついに念願の世界一の座についた。2017年通期の半導体売上は何と前年比52.6%増の612億1500万ドルを達成した。これに続くSKハイニックスは伸び率ではサムスンを上回り、79.0%増の263億900万ドルで世界ランク第3位に躍進した。2017年の半導体はメモリーが突出して伸び、前年比60%増となったが、ともにメモリーを大得意とするサムスン、SKが急伸したのも当然の結果といえる。
サムスン、SKの半導体生産額を合わせれば約10兆円となり、世界全体の半導体の2割にもなるわけで、まさに「半導体王国=韓国」が実現したのだ。しかし、こうした状況にもかかわらず、このソウルカンファレンスに参加した人たちの表情は厳しかった。それはすなわち、半導体メモリーの一本足打法でどこまで行けるかとの懸念の色が強まってきたからだ。2017年における韓国の輸出総額は5500億ドル、このうち959億ドルが半導体であり実に全体の17%を占めるに至っている。考えようによっては歪な産業構造になりつつあるのだ。
「日本の半導体は大きく後退したが、世界トップのシェアを持つソニーのCMOSイメージセンサーをはじめ、日本企業はIoT時代に必要なセンサーを多数持っている。また同じくIoTの主役となるロボットについても日本は世界で断トツの国である。センサーやロボットにおいて韓国企業が進出できる分野はどこにあるのか。可能性について教えていただきたい。日本の秀でているところは先見性だと思っている」
こうした感想、質問が相次いで出されたこのカンファレンスにおいて、筆者が感じたのは「やはり、韓国はいつも日本を見ているのだな」ということであった。そしてまた、サムスンやSKハイニックスに2兆円以上の部品、材料、装置を提供しているのが我が国であり、ますます日本と韓国は切っても切れない関係に入ったのだと思わざるを得なかった。
(泉谷渉)
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■泉谷 渉(いずみや わたる)略歴
30年以上にわたって第一線を走ってきた国内最古参の半導体記者であり、現在は電子デバイス産業新聞を発行する産業タイムズ社社長。著書には『半導体業界ハンドブック』、『素材は国家なり』(長谷川慶太郎氏との共著)、『ニッポンの環境エネルギー力』(以上、東洋経済新報社)、『これが半導体の全貌だ』(かんき出版)、『心から感動する会社』(亜紀書房)などがある。一般社団法人日本電子デバイス産業協会 理事 副会長 企画委員長。全国各地を講演と取材で飛びまわる毎日が続く。
産業タイムズ社 社長 泉谷 渉