マイクロLEDディスプレーの事業化に向けた動きが世界的に加速している。マイクロLEDとは微小なLEDチップを指し、これを画素として利用し、高密度に敷き詰めてディスプレーを作るという技術で、ポスト有機ELを担う次世代ディスプレーとして期待されている。実用化にあたっての技術課題はまだまだ多いが、事業化に向けた資金の流入と参入企業の増加によって、商品化への取り組みが加速しそうだ。
サムスンや鴻海が事業化を準備
液晶テレビ世界最大手である韓国のサムスン電子は、2018年初頭に米ラスベガスで開催された世界最大の家電見本市「CES」で、146インチの4KマイクロLEDテレビ「The Wall」を初公開した。具体的な発売時期や価格などには言及していないが、商品化に向けて、中国LED最大手の三安光電と協業すると発表。両社の合意に基づき、サムスンは前受金として三安に1億6830万ドルを支払い、三安は今後3年にわたってサムスンにLEDチップを供給する。
世界最大のEMS(電子機器の受託製造)企業である台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)は、傘下のLED組立企業Advanced Optoelectronic Technology、投資会社のCyberNet Venture Capital、シャープとともに、マイクロLEDを開発している米eLuxに出資し、マイクロLEDの事業化を共同で進めることに合意済みだ。出資に際して、シャープはマイクロLED製造技術に関する特許21件を現物出資した。
フランスのLEDメーカーAlediaは、総額3000万ユーロのシリーズC資金調達が完了したと発表した。既存株主であるIKEAのベンチャーキャピタル、Braemarエナジーベンチャーズ、Demeterらに加え、新たな投資家として半導体大手インテル傘下の投資企業インテル・キャピタルが加わった。Alediaは調達した資金でマイクロLEDチップの製造装置の取得などを進める。
マイクロLEDディスプレーを開発しているカナダのベンチャー企業VueRealは、アジアと北米の金融機関からシリーズA投資として1050万ドルを調達した。また、半導体製造装置大手の米ビーコ・インスツルメンツと共同開発を進めることも明らかにした。調達した資金で開発チームを増員し、マイクロLEDの特性を評価するセンターを建設する。
アップルやFacebookも開発中
マイクロLEDディスプレーが注目を集めるようになったのは、14年にアップルがマイクロLEDスタートアップの米LuxVue Technologyを買収したことに始まる。これが「アップルはマイクロLEDをアップルウオッチの画面に採用しようとしている」といった憶測を呼んだ。現在も自社で研究開発を続けているようだ。
また、Facebookが14年に傘下に収めたVR機器メーカーのOculusは、16年にマイクロLEDを開発するアイルランドのスタートアップInfiniLEDを買収したことを明らかにしている。Oculusが商品化しているVRヘッドセットに将来はマイクロLEDディスプレーを搭載したい意向ではないかとみられている。
こうした流れを受け、台湾はマイクロLEDの事業化に向けた国家プロジェクトや開発コンソーシアムを立ち上げ、国を挙げていち早く産業化に持ち込む取り組みを進めている。台湾最大の産業技術研究開発機構であるITRI(財団法人工業技術研究院)が中心となり、産業化の核となるベンチャー企業の設立準備や、海外企業との開発連携に注力しており、18~19年に第1号商品のリリースを目指している。
唯一の商品化事例はソニー
現在、世界で唯一のマイクロLEDディスプレーは、ソニーが商品化している。100インチを超える超大型LEDビデオウォール「CLEDIS(クレディス)」であり、マイクロLEDチップを高密度に実装したユニットを複数タイリングし、任意のサイズのディスプレーを組み上げることができる。
CLEDISは工業用デザインやシミュレーションといった実務用途、企業やホテルの受付といった高品位の空間演出を必要とする半屋内用途を中心に販売しているが、その技術の源流となったのは、12年のCESに展示した55インチのフルHDディスプレー「Crystal LED Display」である。
世界で相次ぐ事業化への動きを見て、先駆者であるソニーが今後どのような技術・商品展開を見せるのかも大いに楽しみだ。
(津村明宏)
電子デバイス産業新聞 編集長 津村 明宏