久留米大学商学部の塚崎公義教授が卒業式で学生に説いた社会人の心得をご紹介します。
養われる立場から1人前の大人へ
卒業おめでとう。これで晴れて社会人だ。高校の卒業式では、「大学は楽しいところだ」という祝辞を述べれば良いのだろうが、大学の卒業式では「楽しかった大学時代が終わり、厳しい社会に出て行くことを祝う」わけだから、祝辞なのか慰めの言葉なのかわからない、難しい立場で話をする私の苦しさをわかってほしい(笑)。
というのは冗談だ。保護者に養ってもらっていた半人前の存在から、独り立ちした大人になるのだ。雛が巣立って自分で餌を捕りに行くのだ。これを祝わずしてどうする。こんなメデタイことはない。人生の門出を大いに祝おう。
人生は3つの局面に大別される。最初は養ってもらう期間。次は働いて稼ぐ期間。最後は蓄えを取り崩して行く期間だ。働いて稼いだ金は、自分自身の生活のためにも使うが、税金や年金を支払うなどして上の世代や下の世代を養い、自分自身の老後の蓄えもするわけだ。
非常に大雑把だが、人生100年のうち50年働くとすると、働いている間は自分の生活費の2倍を稼ぐことになる、という計算だ。
自分を磨くことで将来が拓けるし、保険にもなる
就職したら、与えられた仕事をしっかりやることだ。「終身雇用の時代ではないから」といった理由で「どうせ転職するのだから」などと考えてはいけない。
転職採用は、即戦力の募集であるから、「前の職場で何をやっていたか」を見られるのである。職場での評判も探られると思った方が良い。つまり、今の職場で真面目に働いて実績を残しておくことが、将来の転職を容易にするのだ。
与えられた仕事をしっかりやることは、保険にもなる。会社が傾いてリストラが必要になった時に、最初に対象になるのは仕事のできない社員だ。そして、万が一会社が倒産した場合には、ライバル会社が倒産企業の元社員の中から優秀な人だけを拾って行くことになる。その時に拾われるか否かは、大きな違いだ。
その際に物を言うのも、社内の評判だ。日頃から真面目に働いていることが、万が一の時に自分の身を守る「保険」になるのだ。
社畜は辛いが、組織の力は大
門出に相応しくない話だが、社会人生活は、学生生活とは全く違う。苦しいこと、辛いことはもちろんだが、理不尽なことが多い。
意味不明で意地悪な上司、ワガママな客、等々の要求を全部聞いていたら、頭がおかしくなりそうなこともあろう。どうして会社って、こんなに理不尽なのだろう、と思うこともあろうが、一方で会社組織というのは非常にありがたい存在であることも忘れないようにしよう。
筆者が銀行の新入社員だった時に、先輩から「お前の給料は、半分はヤケ酒を飲むためにあるのだ」と言われた。すごく納得したので、以下に記しておく。筆者が教えの通り実行したか否かは、個人情報だが(笑)。
「お前が1人で銀行を経営したら、誰も預金してくれないから、儲からないだろう。お前が集金に行くとお客様が預金を預けて下さるのは、お前が会社の名刺を持っているからだ。お前は会社の名刺で仕事をしているのだ」
「組織内は分業が行なわれている。預金を集め、集まった金を数え、送金をし、融資をし、給料や税金の計算をし、といった係がそれぞれ存在し、それぞれにプロとして活躍している。1人で全部やったら、到底習熟できないだろうから、効率がとても悪いだろう」
「銀行のノウハウは、組織にたまっている。どういう借り手に金を貸すと踏み倒されやすいか、どういう借り手が粉飾決算をしていそうか、といったノウハウは、歴代の担当者が痛い目に遭った結果として得られたものだ。お前が銀行を始めたら、当初は失敗だらけになるだろう」
「お前が1人で銀行業を営んでも儲からないだろうが、銀行は儲けていて、その儲けの中からお前は給料をもらっているのだ。組織は不合理で理不尽なことが多いが、それを補って余りあるメリットがあるから、皆が組織で働くのだ。それがわかったら、遠慮なく給料の半分は組織の不合理と理不尽の愚痴を言いながらヤケ酒を飲めば良い」。