厚生労働省の最新版「簡易生命表(令和4年)」によると、2022年の日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳でした。「人生100年時代」「超高齢化社会」などの足音が聞こえる日本。長生きに備えるために、少しでも年金は増やしたいと思うものです。
そんな中、有力な方法として「年金の繰下げ受給」を検討する方もいるでしょう。
繰下げ受給を利用すれば、例えば年金月額が10万円という人の場合、最大で月額18万4000円に増やすことができます。
それだけ増えるならぜひ取り入れたいものですが、実際に利用する人は多くありません。なぜなのでしょうか。
今回は繰下げ受給の概要とデメリットについて解説します。
1. 年金の繰下げ受給とは
繰下げ受給とは、年金の支給開始を遅らせることによって受給額を引き上げる方法です。
これにより、年金額は1ヶ月あたり0.7%増額されます。
繰下げ受給は1ヶ月単位で可能で、最大75歳まで繰下げることができます。
※昭和16年4月1日以前生まれの方の老齢基礎年金については年単位の増額率となります
※昭和27年4月1日以前生まれの方(または平成29年3月31日以前に老齢基礎(厚生)年金を受け取る権利が発生している方)は、繰下げの上限年齢が70歳(権利が発生してから5年後)までとなり、増額率は最大で42%です
1.1 繰下げ受給の増額率の一覧表
- 66歳:8.4%
- 67歳:16.8%
- 68歳:25.2%
- 69歳:33.6%
- 70歳:42.0%
- 71歳:50.4%
- 72歳:58.8%
- 73歳:67.2%
- 74歳:75.6%
- 75歳:84.0%
75歳まで繰下げると年金額は84%増額されますので、もし10万円の支給額なのであれば18万4000円まで増えることになります。
また繰下げ受給は厚生年金と国民年金でそれぞれ選択することができるので、厚生年金のみ繰下げることや、国民年金のみ繰下げることも可能です。
2. 厚生年金と国民年金「繰上げ・繰下げ受給」を選択する割合はどれくらい?
では、実際に繰下げ受給を利用する人はどれほどいるのでしょうか。
繰上げ受給※の割合とともにみていきましょう。
※繰下げ受給の反対で、65歳より前に受給することで年金額が減額になる制度
2.1 厚生年金の繰上げ・繰下げ受給状況
厚生労働省年金局の「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」より、老齢厚生年金受給権者のうち、特別支給の老齢厚生年金の受給権者を含まない受給権者の繰上げ・繰下げ受給状況をみていきます。
2022度末現在において、繰下げ率は1.3%、繰上げ率は0.7%です。どちらも前年度より0.1%増となりました。
2022年度末時点での70歳の厚生年金の繰上げ・繰下げの受給状況も見ておきましょう。
※2022年4月以降に繰下げ年齢の上限が70歳から75歳(65 歳に達した日後に受給権を取得した者は繰下げの上限が5年から10 年)に引き上げ。下表は年度末時点で 70歳の老齢厚生年金受給権者の繰上げ・繰下げ状況。
70歳の繰下げ率は2.1%でした。1.2%だった2018年以降、少し上昇しているようです。とはいえ、繰下げ受給を利用する人は多くないようです。
続いて国民年金の繰上げ・繰下げ受給も確認しましょう。
2.2 国民年金の繰上げ・繰下げ受給状況
国民年金(5年年金を除く)の受給権者の繰上げ・繰下げ受給状況をみると、繰上げ率は2018年以降、年々低下しています。一方、繰下げ率は上昇傾向にあるようです。
2022年末現在の基礎のみ・旧国年の受給権者の繰上げ率は25.7%、繰下げ率は2.0%となりました。
2022年度末時点で70歳の老齢基礎年金の繰上げ・繰下げの受給状況も見ておきましょう。
2022年度末現在で70歳の基礎年金のみの受給権者の繰上げ率は14.2%、繰下げ率は3.3%でした。
2018年時点では繰上げ率18.8%、繰下げ率1.7%でしたので、こちらも繰上げは減少傾向、繰下げは上昇傾向となっているようです。
「10万円の年金が18万4000円になる」と聞くととてもいい制度に聞こえますが、実際には利用者が多いとはいえません。繰下げ受給のデメリットも知っておきましょう。