厚生労働省の推計によると、2025年には65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症となることが見込まれています。
認知症の人とその家族が抱える困難さは、トイレや入浴、食事などの日常行為のほかにも、対人関係や金銭管理まで様々。認知症の家族を在宅介護する人の中には、「介護保険サービスと家族の協力で乗り切るつもり」という人もいるでしょう。
家族構成や住まいの環境によってはそれが可能かもしれません。住み慣れた我が家で家族と過ごす時間が、認知症の人の気持ちに安心感を与えることができているなら、それは理想的だと言えます。
しかし、認知症の症状には個人差があります。少しの手助けで在宅で暮らせる人もいれば、介護サービスをフル活用しても解決に繋がらない人も。
筆者は認知症の実母(80歳)の老人ホーム入所を決断したばかり。冷蔵庫から出した生肉をかじるなど、認知面の低下が著しい中でも在宅介護を続けるつもりだった筆者が、その方針を180度変えることになったできごととは?
「これが起きたら在宅介護を続けることは絶対にできない」と筆者が感じた実体験を交えながら、認知症の在宅介護の限界点について考えていきます。
※認知症の症状や進行具合には個人差があります。信頼できる医師の指示のもとで、適切な療養・介護を行ってください。
介護施設入所のきっかけ、トップは「認知症」
LIFULL seniorが2023年8月に公表した介護施設入居に関する実態調査 2023年度」によると、回答者2000人中の46%が、介護施設への入居を決めたきっかけとして「認知症」と回答。
認知症の症状には個人差がありますが、以下が入所のきっかけとなったものとして挙がっています。
【一覧表】介護施設入所のきっかけになった「認知症の症状」とは
- 排泄の失敗をする:32.3%
- お金の管理ができない:29.0%
- 怒りっぽくなる、暴力をふるう:18.2%
- 食事のトラブルを起こす:17.2%
- 外出して戻れなくなる、家を間違える:16.7%
- 被害妄想に囚われる:16.4%
- 不安を訴える:16.1%
- 幻視、幻聴:13.5%
- エアコン等が利用できない、気温に合わない服装:12.7%
- 睡眠障害:12.5%
- 火の始末ができない:12.3%
- うつ、無気力:11.0%
- 買い物トラブルを起こす:6.7%
- わからない:3.4%
トイレの介助が必要となった時点で、介護に費やす時間は大幅に増えます。また、自分でお金の管理ができなくなってきたら要注意。金融機関の口座が凍結されて、その後の介護費用を親の資金からまかなうことが難しくなる可能性もあります。暴力や暴言がひどい場合は、介護する家族のメンタルがじんわりと蝕まれていく可能性が。
筆者の母の場合「家族やヘルパーさんがお金や通帳を盗んだ(=物盗られ妄想)」「真夏でもフリースジャケットを着用(=見当識障害)」など、ありとあらゆる問題行動が見られました。
しかし、介護保険サービスをフル活用し、家族が頑張ればどうにかなるだろうと、先の見えないトンネルをさまよい続けた7年間でした。施設に預けることを幾度となく考えましたが、費用面での不安や、心情的な折り合いがつかずに足踏みをしていたのです。
でも、ある決定的な出来事により、筆者は在宅介護から施設介護へ舵を切ることを決めました。
「これが起きたら在宅介護を続けることは絶対にできない」と筆者が感じたこととは?