「景気が強い」は「株価が戻る」ではない!

市場が壊れても、狼狽売りは我慢しよう

「ファンダメンタルズは安泰」でも、株価はさらに下落するかも知れないから要注意だ、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は警鐘を鳴らします。

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ファンダメンタルズは強い

今次の株価急落でも、米国の景気は揺るぎません。むしろ、懸念材料が取り除かれて、米国経済は安定度が増した、と筆者は考えています。つまり、「米国株価のファンダメンタルズは安泰である」ということです。

長期金利が上昇して景気の過熱を抑える自動調節機能が健全に作用していること、株価については割高感が示唆するバブルの芽が早期に摘み取られたこと、などが安心材料となっているのです。これについては拙稿『株価下落でむしろ安定した米国経済』をご参照下さい。

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日本経済に関しては、株価の急落はそれほど景気に影響しないでしょう。日本の家計はそれほど株を持っているわけではありませんし、そもそも1年前より株価が高いわけですから、損失を抱えている個人投資家はそれほど多くないはずですから。

日本経済にとって、現状で最も重要なのは米国の景気です。国内要因だけ見れば、景気は上を向いているため、そのまま拡大を続ける力が働くでしょうし、日銀による引き締めはあり得ませんし、バブルの崩壊もなさそうです。つまり、米国の景気が安泰で輸出激減がないならば、日本の景気も安泰なのです。

「景気が拡大すれば株価が上がる」とは限らない

景気が拡大すれば、企業の利益も増えていきますが、その増加ペースは次第に緩やかになっていきます。増益率が下がる一方で、長期金利は上昇するので、「株より国債を持ちたい」という投資家が増えるかもしれません。

増益率と長期金利の上昇スピードの関係によっては、景気が拡大を続けると株価が下がる、といった可能性もあるわけです。増益率が下がる理由は以下のとおりです。

景気回復の初期は、「社内失業者」が大勢いるので、彼らの尻を叩けば追加の人件費なしで生産が増やせるわけです。設備稼働率も低いので、設備投資も不要です。加えて、前年同期の利益額が小さいので、増益率は非常に高くなる場合が少なくありません。

景気が回復してくると、増産するためには新しく労働者を雇ったり設備投資をする必要が出てきます。労働者を雇う際の賃金も上昇し、設備投資資金を借りる際の金利も上昇します。加えて、前年同期の利益額が比較的大きいので、増益率は下がります。

短期的な混乱の可能性は全く否定できず

ファンダメンタルズが安泰だからといって、株価が下落を続けないという保証は全くありません。長期的にはともかく、短期的な株価について考える際には、ファンダメンタルズは株価に影響する数多くの要因の一つに過ぎないからです。

一つには、株価が大幅に下落すると「売りたくない人が売りを強要される」ことで株価に一層の下落圧力がかかる場合があります。

たとえば「信用買いをしている個人投資家が『追証』を求められて、泣く泣く保有株を投げ売りする」「ファンドマネージャーが、社内ルールで損切りを強いられる」といったケースです。こうした可能性については、拙稿『値下がりが売り注文を増やすから、市場が暴走する』をご参照ください。

最近は、「株価のボラティリティーが大きくなったら株を売る」という投資家も多いようです。株価が乱高下すると、こうした投資家の売りが増えるので、いっそう株価のボラティリティーが高まる、といった悪循環が生じる可能性もあるでしょう。

人間が扱うにしろ、自動取引プログラムが扱うにしろ、決められたルールどおりに運用されれば株価暴落が暴落を呼ぶ可能性は高まるでしょう。

以上のような売り注文は、投資家の相場観からの売り注文と比べて他人が予想しやすい、という特徴があります。そうなると、投機家たちが「売りたくない売り、ボラティリティー拡大を反映した売りが出てきそうだ。先回りして売っておこう」と考えるかもしれません。

初心者は慌てず騒がず冷静に

上記のような「売りが売りを呼ぶ」展開になると、株価が「適正水準」を大きく下回ってもまだ売られ続ける、といったことが起きるかもしれません。「市場が壊れてしまった」状態ですね。

壊れてしまった相場を初めて見た、という初心者は、冷静になってください。「株価は明らかに適正価格を下回っているから、買うしかない」と考えて「落ちてくるナイフを掴んで怪我をしてしまう」可能性がありますから、気をつけましょう。もっとも、この場合は長期間持ち続ければ、いつかは戻る可能性も大きいので、怪我は小さいかもしれません。

さらに危険なのは、「この世の終わりが来る」ような気がして、最も安いところで狼狽売りをしてしまうことです。初心者は上がると買いたくなり、下がると売りたくなり、結局高値で買って安値で売る人が多いので、気をつけましょう。

市場が壊れても実体経済は壊れない

理論的には、資産価格が暴落を続けるとファンダメンタルズに悪影響が及び、下落した資産価格が正当化されるまで実体経済が落ち込む、といった可能性は皆無ではありません。

たとえば、平成バブルが崩壊した時には、株価下落により消費が落ち込み、銀行の自己資本が減り、自己資本比率の低下による貸し渋りが景気を悪化させました。

しかし、バブル崩壊後の景気悪化の主因は地価の下落であり、株価の下落は「おまけ」でした。今回は、日米ともに地価の大幅下落は見込まれておらず、株価の下落だけであれば、実体経済への影響は限定的でしょう。

そもそも株価が下落したと言っても、1年前の水準よりはだいぶ高いので、今後さらに暴落が続いたとしても、損失を抱えている投資家がそれほど多くなるとは思われません。個人消費への影響は、限定的でしょう。

銀行の自己資本比率規制が気にならないことも重要です。米国の銀行はそもそも株を持っていないので、株価下落が自己資本比率規制を通じて貸し渋りに繋がることは考えにくいでしょう。日本の銀行も、バブル崩壊当時と比べれば保有株式は大幅に少なくなっていますし、なによりも資金需要が少ないので「貸し渋り」をする必要は毛頭ありません。

そうであれば、実体経済が壊れてしまうことは考えにくく、したがって「この世の終わり」は来そうもありません。狼狽売りは避けておいた方が無難でしょう。「売りたくない人が、いやいや売らされている」時ですから、売る必要がない人は傍観していれば良いのです。

もっとも、初心者であっても投資は自己責任ですから、筆者の予想が外れる可能性も考えた上で、最終判断はご自身でお願いしますね(笑)。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

参考記事

ニュースレター

塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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