米国の金融市場は混乱しましたが、おかげで米国経済はむしろ安定した、と久留米大学商学部の塚崎公義教授は説きます。

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株価の急落で損失を抱えておられる読者も多いでしょうが、そうした方々のお叱りを覚悟で、景気予想屋としての筆者の考えを記すことにします。結論としては、今回の金融市場の混乱は米国経済にとってプラスであった、ということです。

長期金利の自動調節機能が作用した

景気が拡大を続けると、インフレの懸念が出てきます。そうなると、人々は「将来は中央銀行が金利を上げるだろう」と考えるようになります。中央銀行が上げるのは短期金利です。

長期金利は、投資家たちの予想する将来の短期金利の平均になるのが普通ですから、そうなると直ちに長期金利が上がります。長期金利が上がると、企業が設備投資資金を借りるコストが上がり、設備投資が減り、景気の過熱が抑えられます。

長期金利が上がると、「株より国債を持ちたい」という投資家が増えて、株価に下落圧力がかかります。株価が下がれば個人消費が抑制され、景気の過熱が抑えられます。

このように、実際に中央銀行が金融を引き締める前に、自動調節機能が働いて景気の過熱を抑えるメカニズムが長期金利には内包されているのです。

最近まで、米国は順調な景気拡大にもかかわらず、長期金利が低位安定していました。もしかすると自動調節機能が働かないのか、とも思われましたが、今回の長期金利上昇で、無事に自動調節機能が働くことが確認でき、一安心です。

バブルの芽を摘むことができた

最近の米国株は割高だ、という人が増えてきて、今回の下落前には「米国株はバブルか」といった議論が始まっていました。すでにバブルと言える状態であったのか否かはわかりませんが、バブルの芽が生じていた可能性はあります。

ちなみに、ここで言うバブルとは、「皆がバブルだと知りながら、明日は今日より値上がりするだろうと考えて皆が買っている」といった古典的なバブルではありません。最近では、こうしたバブルは政府や中央銀行がバブル潰しをするため、問題になることはないからです。

本稿で論じるバブルは「米国経済は素晴らしいから、株価が高いのは当然だ」と思って買い上がっていくもので、筆者はこれを「惚れ込み型バブル」と呼んでいます。

筆者が懸念していたバブルの種というのは、「米国経済は素晴らしい。景気が拡大しても経済が成長してもインフレにならない。それなら今後も米国の景気や米国企業の収益は拡大を続けるだろう。それなら株は買いだ」と考える投資家が増えていくことです。

一方でインフレにならないので金融は緩和されたままとなり、バブルの拡大を押しとどめる力が働かず、バブルが拡大を続けてしまう可能性があったわけです。

米国経済は、しばらく順調な景気拡大を続ける見込み

長期金利が上昇し、株価が下落したことで、米国の景気拡大ペースが抑制されました。これにより、「景気過熱によるインフレ」が遠のき、したがって「インフレ対策のため、景気を犠牲にするのはやむを得ないから、金融を思い切り引き締めよう」と中央銀行が考える心配も当分の間はなさそうです。

バブルの芽が摘まれたことも、長期的な拡大が可能になるためには、必要なことでした。バブルが拡大して崩壊すると、景気の激しい後退に苦しむことになりますから、早めに芽を摘んでおくことは重要なのです。

ところで、「米国は、すでに景気拡大が8年以上も続いている。過去最長が10年であったことを考えると、そろそろ景気拡大も終わりだろう」などという人が散見されますが、景気は時計を持っていないので、「そろそろ10年だから後退しようか」などとは考えません(笑)。

景気は自分では方向を変えません。「景気が良くて物が売れるから企業が増産し、そのために失業者を雇う。雇われた元失業者が受け取った給料で物を買うので、いっそう物が売れるようになる」といった好循環が生じるからです。

景気が方向を変えて後退を始めるのは、「インフレ懸念で政府・中央銀行が故意に景気を悪化させる」「バブルが崩壊する」「諸外国の景気後退で輸出が激減する」といった場合ですが、いずれも近々起きるとは思われません。

インフレ懸念については、長期金利が自動調節機能を発揮しますし、バブルの芽は摘まれました。諸外国の景気も大丈夫そうですし、そもそも米国経済は輸出依存型ではないので、日本とは違い、海外経済の影響を受けにくいのです。

景気拡大が当分続き、過去最長の景気拡大となる可能性が高いと筆者は考えています。日本も、過去最長の景気拡大が視野にはいっていますから、ダブルで過去最高を更新するということになりそうですね。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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塚崎 公義