都道府県別の「ふぐ調理師」資格
前回、『冬の味覚ふぐ〜「西郷どん」と「ふぐ食解禁」の不思議な縁』では、日本でのふぐ食解禁の話をしました。公許制でふぐ食が解禁された経緯もあって、現在でも、ふぐを調理するためには、「ふぐ調理師」の資格が必要とされています。
「ふぐ調理師」は都道府県ごとの資格ですから、呼称も都道府県によって異なります。また、資格も取得した都道府県にのみ適用されます。そのため、大阪府で資格を取得して営業していたふぐ調理師(ふぐ取扱登録者)が京都府で営業する場合、新たに京都府で資格を取得しなくてはなりません。
しかも、都道府県によって、資格取得の要件が異なります。最も難しいとされる東京都では、調理師の資格を持ち、かつ、2年以上の実務経験を有することが受験要件とされ、さらに筆記試験と実技試験に受からないといけません。一方、大阪府では受験要件は特になく、講習会形式で、実技試験はありません(模擬調理の見学のみ)。
そのため、大阪府のふぐ調理師は約10万人おり、2万人強の東京の約5倍となっています。
大阪は国内での一大消費地
私のまわりで聞く限りですが、東京では、「1年に1回は必ずふぐを食べる」という人はあまり見かけません。一方、大阪では、「1カ月に1回くらいのペースでふぐを食べる」という人は何人もいます。少なくとも、東京に比べれば、大阪ではふぐ食がよく定着しているようです。
実際、大阪府は全国のふぐ消費量の約60%を占める一大消費地となっています。その要因の1つに、ふぐ調理師の多さがあると言われています。
また、ふぐの生産地が西に多いことも要因になっているようです。「平成28年漁業・養殖業生産統計」によると、養殖のふぐの年間生産量は約3,300tで、県別には、首位が長崎県(1,600t)、2位が熊本県(500t)、その後に大分県、佐賀県、愛媛県、香川県、兵庫県が約200tの水準で並んでいます。
ふぐ市場を取り巻く環境の変化
これまで、大阪一辺倒で消費されてきたふぐの市場ですが、変化も見られています。
1つは規制緩和です。東京都では、2012年以降、ふぐの販売・調理の規制を緩め、身欠き(みがき)ふぐ(有毒部位を取り除いた後のふぐ)に限り、保健所に届け出ればふぐ調理師がいない料理店でも提供できるようになりました。インターネット通販に合わせた措置と言われています。
この東京都の動きに追随したわけではないとは思いますが、大阪府でも条例改正により、2018年4月から有毒部位を取り除いたふぐの切り身は、一般魚と同じように取り扱うことが可能になる予定です(今までは、有資格者を売場へ配置しなくてはなりませんでした)。
また、今まで有毒魚として流通が禁止されていた中国でも、2016年から、とらふぐなど2種類の養殖ふぐについて、中国国内での販売が解禁となりました。東アジアの視点で見ると、爆消費の中国が消費市場に参入してくることで、生産~流通~消費のバリューチェーンに大きな影響を及ぼすことが考えられます。
ふぐ料理チェーンの上場2社の動き
ふぐ料理のチェーン店を展開している企業が2社、上場しています。
1つは関東1都3県に47店(2017年9月末)の「とらふぐ亭」を展開する東京一番フーズ(3067)、もう1つは全国に91店の「玄品ふぐ」を展開する関門海(3372)です。これらの企業業績(特に店舗展開)を見ていれば、ふぐ食市場の動向もある程度把握できるかと思われます。
また、東京一番フーズはふぐの6次産業化への志向を前面に出していますが、関門海は経営立て直しを急いでおり、置かれた状況は異なっています。一方、両社とも共通して、海外展開を視野に入れた動きを活発化させています。
ふぐ食解禁から130周年を迎えた今、ふぐ食が日本発のコンテンツになれるかどうかの岐路に差し掛かっているように思えてなりません。今後の動向に注目したいところですが、まずは、ひれ酒とふぐちりで体を温めたいと思います。