皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。
1月23日の日経平均株価は、300円を超えて上昇し、終値は24,124円15銭となり、1991年11月以来(約26年ぶり)の水準に達しました。
各種メディアは、「①米政府機関の一部閉鎖が解除される見通しを好感し、米国株式が高値となったこと」、「②日銀が23日に開いた金融政策決定会合で金融政策の現状維持を決めたこと」などが、上昇要因であると報道しています。
(本当に破綻した国家ならいざしらず)米国において、政府機関の閉鎖がいつまでも続かないことは自明のことであると感じています。したがって、23日の300円を超える株価の上昇は、「日銀が金融政策の現状維持を決めたことの影響や、その前提として日本銀行の金融政策が変更される可能性を、市場は(一定程度)意識していたこと」を大きな要因としていると私は考えています。
このように感じる主な理由としては、以下の2点が挙げられます。
まず、第一に、日銀の長期国債の買入れ額実績です。日銀は、今回の決定会合においても、長期金利について、「10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、長期国債の買入れを行う。買入れ額については、概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営する」としています。
しかし、日銀の発表する営業毎旬報告によると、長期国債の保有額は2016年末の361兆円から2017年末に419兆円(いずれも兆円以下を四捨五入)と、58兆円しか増加しておらず、80兆円と比較すると約7割に留まっています。
日銀が明記しているように、現在の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)という金融政策の中では、上記の買入れペース年間80兆円はめどに過ぎませんが、これをサイレント・テーパリング(沈黙の先細り)と呼ぶ投資家もいます。
長短金利操作は、国債の買入れ(量的緩和政策と理解されています)よりも強力な金融政策であるかもしれませんが、少なくとも国債買入れ額のみに注目すると、テーパリング(先細り:買入れ額縮小)と呼ばれる金融政策の正常化に日銀が足を踏み入れているとの解釈も可能なように思います。したがって、買入れ額実績が少ないことを、金融政策変更の前兆と捉える投資家も存在したと思われます。
第二の理由は、2017年11月後半からの銀行株の堅調推移です。銀行は、「短期調達・長期運用(預金などにより比較的短期の資金を調達し、10年国債など長期で運用する)」という構造を持っているため、10年物国債金利がゼロ%程度になる長短金利操作は銀行の利益圧迫要因として働きます。
2017年の銀行株の値動きを見たものが、図表1です。
銀行株指数は、2017年11月20日までは、市場全体が堅調であるにもかかわらず、むしろ下落していました。しかし、11月21日以降の銀行株は約1割と、市場を超える上昇をみせており、私はこの上昇の背景には、日銀の金融政策正常化への思惑があったと考えています(加えて、2017年に上昇が大きかった電気機器株の上昇一服の影響もあったと思われます)。
2017年の国債買入れ額実績の少なさ、2017年11月21日以降の銀行株の値動きから、昨年11月頃から市場参加者の一部は、日銀による金融政策の変更を意識していたと私は考えています。
しかしながら、決定会合では現在の金融政策の維持が賛成多数で決定され、(反対意見を述べた)片岡審議委員は、むしろ金融緩和強化に繋がる主張をされています。加えて、決定会合後の記者会見において、黒田総裁は「(金融緩和の)出口を検討する局面に至っていない」と金融政策の変更への思惑を全面否定したと解釈できる発言をされました。
「日本経済の基礎的条件が変化しない中では、日銀は金融政策を変更しないことが明確になった」と私は解釈しており、これは株価のプラス材料と捉えるべきと考えます(なお、経済状況の好転が確認される中で、金融政策変更が検討されることは当たり前のことです)。
(2018年1月24日 9:00執筆)
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柏原 延行