4. 住民税非課税世帯は羨ましい?
住民税非課税世帯には、上記のような優遇措置があるため、医療や介護のお世話になる機会が多くなる年金受給者にとっては、思った以上にメリットを感じるかもしれません。
だからといって、年金は少なくていいと思ってしまうのは間違いです。
総務省「家計調査」の単身者の生活費を参考にすると、住民税が非課税となる上限である年収155万円で暮らすと、毎月約2万6000円不足します。
これでは暮らしていけないので、なんとか暮らしていけるようにするための優遇措置なのです。
年金がたくさんあれば、できること、やれることが多くなり、老後の暮らしを彩ってくれます。
そのために、厚生年金に加入したり、企業年金やiDeCoなどで年金額を増やしたりするわけです。
そこは踏まえた上で、単身者は155万円、夫婦世帯は211万円の「年金の壁」をギリギリ超えるくらいの人には、「年金収入を下げる」という方法を取ることもありだと思います。
5. 年金収入を下げる方法
ここでは、少しだけ「年金の壁」をオーバーしてしまった人が年金収入を下げる方法をお伝えします。
5.1 繰上げ受給をする
60歳から65歳になるまでの間に繰上げ受給の請求をすると、その時点に応じて年金が減額されます。
1ヵ月繰上げるごとに0.4%減額され、最大で24%の減額率となります。
たとえば、夫婦世帯(夫が妻を扶養している)の夫の本来の年金収入が215万円だった場合に、1年繰上げて64歳から受給を始めると、4.8%減額され204万6800円になるので、65歳から住民税非課税世帯に該当します。
ただし、一度減額された年金額は一生変わらないので、慎重に判断する必要があります。
5.2 iDeCoの受け取りを一時金にする
年金収入には公的年金以外にも、企業年金やiDeCoなども含みます。
iDeCoは年金として受け取る方法と一時金として受け取る方法、さらに年金と一時金を組み合わせて受け取る方法の3つの方法があり、年金で受け取る場合は雑所得となり、公的年金と合算されます。
そのため、公的年金のみでは住民税は非課税であったのに、iDeCoを年金で受け取ったことで非課税限度額を超えてしまい、住民税が課税されてしまうケースもあります。
この場合、iDeCoの受け取りを一時金か、一時金と年金の組み合わせで受け取り額を下げることで対応するといいでしょう。
iDeCoを一時金で受け取る場合は退職所得となります。
6. まとめにかえて
住民税非課税世帯には、税金や社会保険料の減免、給付金の支給など、さまざまな優遇措置があるため、収入を増やさないようにして住民税非課税世帯に留まる選択をする人は珍しくありません。
それだけメリットが多いことと、それを少しでも超えると急に負担が重くなることも関係しています。
物価が上昇し、中所得者の医療費の自己負担が増えるなど、年金生活は徐々に厳しくなってきています。
所得のある人から徴収し、低所得者に分配することは正しいことですが、徴収される側も余裕がなくなってきているのが今の日本です。
働いて収入を得ることのモチベーションを下げない制度設計も必要ではないでしょうか。
参考資料
- 厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査・表番号147」
- 厚生労働省「級地区分(平成30年10月1日現在)」
- 東京都主税局「個人住民税」
- 北海道安平町「収入は年金だけなのですが、住民税を払うのでしょうか?」
- 金沢市「年金収入に対する市・県民税が非課税となる目安はいくらですか。」
- 八王子市「年間保険税の決め方(令和5年度(2023年度))」
- 八王子市「軽減措置」
- 八王子市「令和3年度(2021年度)から令和5年度(2023年度)の介護保険料(所得段階)」
- 八王子市「市・都民税(住民税)の税額試算、申告書作成」
- 全国健康保険協会「高額な医療費を支払ったとき」
- 厚生労働省「高額介護サービス費」
- 厚生労働省「介護保険施設における負担限度額が変わります」
- 総務省「家計調査報告(家計収支編)2022年平均結果の概要」
石倉 博子