新年あけましておめでとうございます。2017年は皆様にとってどのような年だったでしょうか。今日から2018年が始まりますが、早速どのような年になるのかについて考えていきたいと思います。今回はテクノロジーアナリストの泉田良輔氏に話を聞きました。

過去の変化が未来にも続いていく

――2018年に注目しておくべき変化について教えてください。

泉田良輔(以下、泉田):まずは、2017年に起きた変化から振り返りたいと思います。なぜならば、2017年に起きたことが今後も続き、それが2018年以降も大きな流れになると考えているからです。産業構造は急に分断されないので、歴史を追っていく必要があります。そのなかでアナリストとして注目すべきポイントは大きく2つあります。

1つは、ネットショッピングであるEコマース(EC)が普及し、物流機能がパンクしたことです。ECの普及は今後も進むでしょうが、それに対して物流サービスの品質と物流コストのバランス、そして物流会社における人員の確保というところが引き続き課題となってくるのは間違いありません。

こう言うと「商品の受け取りにはコンビニなどを活用すればよいのではないか」という意見が必ず出てきます。確かにコンビニでそうした需要を引き受けることも一部では可能ですが、2017年7月に発表されたセブン&アイホールディングスとアスクルの業務提携内容を見ると、消費者目線からは自宅に届けてほしいという需要が強いようにも見えます。消費者にとって、一度便利な体験をしたものを元に戻すのは難しいのではないでしょうか。

2つ目は、人手不足と「働き方改革」に代表される仕事の仕方の変化があります。給与が増えるかどうかという話はさておき、労働者、特にホワイトカラーの仕事の仕方における選択肢が増えてきています。家で仕事ができる環境も整いつつあり、テレワークもこれまで以上に存在感が増してくるのではないでしょうか。

2018年はこう変わる!

――そうした変化から2018年をどう見ていますか。

泉田:まずはECの普及についてですが、これは今後様々な影響が出てくると考えています。これまでのような物流機能のタイト感は続くでしょう。また、EC化の進展は裏を返すと、消費者の購入額が大きく変わらないという前提に立てば、人がリアル店舗で買い物をする機会が減っていくことにつながるでしょう。

従来型の、良い立地に多数店舗を出店できるのが競争力のある小売だという認識は少なくとも変わってくると思います。もちろん立地の良い小売店は今後も集客には困らないでしょうが、ECでも買える商品やネットの方が価格が安い商品はいっそうネットで購入されていくことになります。

つまり、競争力のない店舗を多数出店しても不良店舗化していくだけで、必ずしも有利にはならないという認識が強まるでしょう。業態にもよるでしょうが、ネットでも購入でき、価格競争力のない商品を扱っている小売業で地方に展開するスタイルは厳しくなると思います。

ネットが強くない企業はリアルが強くても苦境に陥る?

――特に気になるネット専業の小売業はありますか。

泉田:アマゾンは言うまでもなく商品の品揃えと配達スピードには特筆すべきものがあります。ただ、日本のEC業界においてアマゾンだけでいいのかという議論もありますし、先述のように、セブン&アイホールディングスとアスクルの協業のように対抗する企業も出てきているので、消費者の選択肢は増えてくるでしょう。

ただ、アマゾンのICTや物流機能への投資のスピードや規模に日本企業連合が追いつけるかという議論も必要です。アマゾンはテクノロジーに強みを持たせている分、資金力だけの話ではなくなっています。これは日本企業から見ると得意でないケースもあるでしょうから厄介です。

2017年に面白いと思ったのはZOZOTOWNを運営するスタートトゥデイの動きです。ZOZOSUIT(ゾゾスーツ)という採寸するスーツを顧客に提供すると発表しました。これまでECでアパレルを購入する際には、サイズが合うのかという不安とサイズが合わない時の対応が面倒だというのが足かせだったと思います。そうした課題をテクノロジーを活用して事前に解決しようというのが今回の動きでしょう。

今回のZOZOSUITの発表とともにZOZO(ゾゾ)というプラべートブランド(PB)の発表も行っています。これまではショップのデジタルプラットフォームという建て付けだったものの上に、ユーザーからすればZOZOSUITを利用して自分のサイズにぴったりのPBも購入できるようになるわけです。ますますリアル店舗に出向く必要がなくなりますね。

テレワーク普及で起きる変化とは

――テレワークの普及はどういった影響を及ぼすようになるのでしょうか。

泉田:これまでは、100人が出社するために100人分のデスクと椅子を用意していましたが、それが必要なくなります。それならば借りているスペースを減らそうという議論にもなります。賃料は固定費なので、経営者は誰しもそう思うのではないでしょうか。もっとも、成長企業でスペースが常に不足しているという企業は例外でしょうが。

また、オフィスに出社しないで作業を効率的に進めるためにはどうしたらよいかと多くの人が考えるようになるでしょう。これまでは、出社して仕事相手と直接やりとりして仕事を進めるスタイルが主流でしたが、今後はネットワーク上での作業の進め方に注目が集まると思います。グループウェアはこれまでもありましたが、その使い方や導入の議論はさらに進むのではないでしょうか。

私も仕事の中でSlackを使うことが多くなってきていますが、社内だけではなく外部とのプロジェクトも管理でき、スムーズにコミュニケーションがとれるので便利です。今後フリーランスのプロフェッショナルが増えてくる環境では、こうしたツールは欠かせないものとなっていくのではないでしょうか。

こうしたことが進むとメールの使い方も変わってくるでしょうし、ドキュメントやスプレッドシートの使い方も変わらざるを得なくなるでしょう。そのためのソフトウェアを提供してきた企業のビジネスモデルも変化していくことになるかと思います。

人の移動に伴う心理的コストが上昇する

――話を伺っていると人が移動する機会が減っていくようなイメージがあるのですが。

泉田:実際に外出する機会が少なくなるかは分かりませんが、人それぞれが抱えていた「移動する理由」は少なくなっていくのかもしれません。

ネットショッピングで家に商品を届けてくれるなら、電車賃やガソリン代を支払ってリアル店舗にも行こうと考えるのはよほどのことでしょうし、家で仕事ができるのなら満員電車に乗る必要もなくなります。出社しないのであれば、帰宅途中で買い物をするという機会も減りかねません。こうしてみると、これまで以上に人を移動させるためのインセンティブが必要になるかと思います。

2018年に注目したい企業とは

――2018年の予測ではどのような企業や産業がのし上がってきそうでしょうか。

泉田:まず小売業では、リアル店舗を持つ業態でもネットでの集客や品揃え、価格競争力のない企業はこれまで以上に競争環境は厳しくなるのではないでしょうか。

その一方で、ネットでは購入しにくい商品を取り扱う小売業はこれまで通り店舗数を拡大させながら消費者との接点を増やすという戦略は機能すると言えるでしょう。たとえば、家具は家電などと比べてサイズが大きい上に、使い心地などをイメージしにくいので実際に店舗に出向かなければならないかと思います。

とはいえ、生鮮食品のようにこれまでネットでは購入できなかった商材もネットを通じて購入できるようになりつつありますので、テクノロジーの変化と物流機能の改善には注意を払う必要があります。

また、仕事の仕方の変化で必要とされるツールやソフトウェアは大きく変わってくると思います。その中で、そうした変化をうまく捕え、効率的なアプリケーションを提供できる企業は長期にわたって恩恵を受けるのではないでしょうか。

正社員がいいのか、またフリーランスがいいのかという点は様々な議論があるでしょうが、フリーランスが増えてくるのだとすれば、彼らをサポートするサービス業は今後事業領域が拡大すると期待してもよさそうです。正社員向けオフィスが減少してもフリーランス向けのシェアオフィスは増えるという考え方もあります。テレワークが認められている企業の社員でも、自宅では仕事がしにくいので外で仕事ができる環境を探しているという人もいますから。

まとめにかえて

このように、2018年は人の移動がどうなるかということに注目しておくと大きな変化を見逃さずに済みそうです。ECの普及やテレワークなどは、今後ますます皆さんにとって身近になっていくテーマかもしれません。皆さんは2018年はどのような変化が起きるとお考えでしょうか。

LIMO編集部