皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。
米税制改革法案は12月20日に米下院において賛成多数で可決され(上院は可決済み)、22日のトランプ大統領の署名により成立しました。今回の税制改革法案は、10年間で1.5兆ドルという巨額な減税であり、レーガン政権時代以来、 約30年ぶりとなる税制の抜本的な改革です。
ついこの前まで、税制改革法案の成立は、2018年初頭になると考えていました。このため、今回の成立は予想外に早いものであったと素直に評価すべきと考えます(アラバマ州上院議員補欠選挙で共和党が敗北したことが影響したとの見方があります。民主党候補が来年1月に就任すると、共和と民主の上院議席数は51対49と更に拮抗します)。
減税は、「米国株式の上昇」および「米国債券の価格低下(金利上昇)」の要因として働くという考え方が自然であると思われます。しかしながら、このニュースは、米国株式市場には大きな影響を与えなかった一方で、米国債券市場では債券安(金利上昇)が起こりました。
そこで、今回のコラムでは、減税の与える影響について、私の考え方をご説明できればと思います。
少なくとも短中期的には、減税は経済・投資環境にプラスの効果を与えると私は考えています。しかし、冷静に考えた場合、減税は国(政府部門)から個人(家計)や企業へのお金の移転に過ぎないはずです。単なるお金の移転が経済にプラスの効果を生む理由を、どのように考えれば良いのでしょうか。
まず、移転を受ける主体の活動が、短中期的に活発化すると考えることにあまり反論はないと思われます。あえて反対意見を述べるとすると、現在の減税は将来の増税によって賄われる可能性があるため、将来の増税に備えて個人や企業は容易にはお金を使わないとの議論が成り立つ余地はあります。
しかしながら、現在の米国経済は、実質GDPが3%を超える好調な状況の中で(2017年7~9月期、前期比年率)、さらに景気刺激的な政策が採られるわけですから、(不景気下での減税の場合と比較して)将来に備えようとする程度は低いと考えます。
雇用環境が良好なことも相俟って、減税によって給与などの手取額が増えた個人は、財布の紐が緩む可能性が高いと考えます(企業においてもほぼ同様です)。
一方で、お金を移転する主体である国の状況はどうなるのでしょうか?
国は収入が減少するわけですから、普通はこれまでと同様にお金を使うことができません。しかし、国、特に米国は信用力の高さから、容易に借金ができる(国債の増発)ため、従来と同じようにお金を使うことが可能です(トランプ氏はインフラ投資にも力を入れると選挙前に発言していました)。
そうはいっても、たくさん供給されるモノの価格は安くなることが経済の一般原則であるため、(借金は可能なものの)国債価格の下落(金利の上昇)要因となり、金利上昇を通じて景気に悪影響を与えると考えることもできます。
トランプ氏が選挙前に発言していた「①環太平洋経済連携協定(TPP)からの離脱」、「②地球温暖化に関する協定(いわゆるパリ協定)の破棄」、「③米イスラエル大使館のエルサレム移転手続き開始問題」に加え、税制改革も、就任から1年以内に現実化しました(政治的な意見表明をするものではありません)。
そして、好調な景気の中で、今回の減税に加え、2018年にはトランプ政権が大規模なインフラ投資に踏み切る可能性もあります。
2018年は政策の効果により景気が加速し、物価の上昇基調も強まると考えることが素直ですが、この場合、「①本格的なディスインフレ脱却のシグナルになること、企業利益の増加などを理由として、株価の上昇要因になるか」、「②長期金利の上昇や米連邦準備制度理事会(FRB)の政策金利の引き上げペースが速まることへの懸念などを理由として、株価の下落要因になるか」は議論の分かれるところです。
私自身は、(短期的な波乱は想定されるものの)「米国株価の上昇要因」となると考えますが、米10年国債利回りの推移には従来以上に注意が必要と考えます(図表1ご参照)。
本号をもって、私のコラムは年内最後のお届けとさせていただきます。1年間お世話になりました。
皆さま、良い年をお迎えください。
(2017年12月22日 9:00執筆)
柏原 延行