2017年の流行語大賞となった「インスタ映え」

12月に入り、毎年恒例の「ユーキャン新語・流行語大賞」が発表され、第34回となる2017年の大賞には「インスタ映え」が選ばれました。

確かに、東京プリンスホテルのナイトプールのように、「インスタ映え」するという理由で人が集まるような場所も出てきました。自分で撮った写真を他人と共有するというアプリの機能を超え、多くの人の生活習慣や価値観に影響を及ぼしていることも、選ばれた理由の1つだと思います。

急速に存在感が増すインスタグラム

SNSのサービスの中でも、インスタグラムの存在感は急速に増しています。

ネットでの視聴行動を調査するニールセンデジタルが発表した資料によると、主要SNSにおける2016年8月から2017年8月までの1年間の国内利用者数は以下の通りとなっています。

  • Twitter(ツイッター) 2,236万人→2,656万人(伸び率+19%)
  • Facebook (フェイスブック)2,105万人→2,252万人(伸び率+7%)
  • Instagram(インスタグラム) 1,194万人→1,706万人(伸び率+43%)

直近1年間のインスタグラムの利用者数の伸び率は他の大手SNSに比べて高く、インスタグラムのフェイスブックに対する割合は、前年の57%から今年は76%まで上昇しています。

この背景には当然、スマートフォンの普及があるでしょうが、それだけではない何か他の要因があるようにも思えます。

過去にも似たような光景が・・・

「たくさんの写真を撮って人に見せる」という行為は、過去にもあったように思います。

たとえば、バブル期に海外を旅行する日本人観光客。海外の現地の人には、日本人観光客は「首からカメラをぶら下げて、家族の写真を撮りまくっているおじさん」というイメージを持たれていたようです。

当時はデジタルカメラですらない時代です。単に撮影するだけではだめで、フィルムを写真屋さんに持ち込み、現像をお願いする必要がありました。現像するための費用もばかにならなかったでしょうが、それでも多くの人が、せっせとシャッターを押し、現像に出して写真をプリントしていました。

「旅行に行ってきた」という話から、「写真あるけど見る?」という流れになり、写真をもとに会話が弾むというのがよく見られた光景です。写真はその後、きちんとアルバムにまとめられるか、束のまましまい込まれるかのどちらかです。後者だと、大体の場合、年末の大掃除の時になるまで再発見されないということになります。

このような光景を見るにつれ、写真そのものが必要なのではなく、人に見せるために写真を撮るという一連の行動にこそ価値があったように思えてなりませんでした。

人に見せるために写真を撮る心理

技術や手軽さは違えども、「スマホで写真を撮ってインスタグラムに投稿する」ことと「カメラで撮った写真を現像して人に見せる」ことは、本質的にはさほど変わりません。

今回、「インスタ映え」が流行語大賞に選ばれた理由の一文に、「SNSでの『いいね!』を獲得するために、誰もがビジュアルを競い合う」というくだりがありました。競い合いを支えているのは、今も昔も、「人とは少し違う経験をしている」というちょっとした優越感と、「人と少し違う経験ができる自分を認めてほしい」という承認欲求でしょうか。

その一方、流行のインスタグラムやカメラを使うことで、周りの人と同じであることに安心感を得たいと思っているようにも見えます。相反する心理が同居する行動とも言えそうです。

「モノ」消費から「コト」消費へ

消費は生活の中で大きなウェイトを占める活動ですから、人の心理に大きく左右されます。

今年の流行語大賞は、国内の若者を中心とした「インスタ映え」ですが、一昨年は海外からの旅行客による「爆買い」でした。消費の主体の違いはありますが、国内消費が「モノ」から「コト」へ移っている流れは確かなようです。

景気が拡大していると言われる中で、国内の消費の盛り上がりに欠ける印象が拭えないのは、この「モノ」から「コト」への流れが、予想以上に大きく影響しているからかもしれません。

かたや、こうした流れにうまく乗るサービス業の会社、または「コト」の要素を織り交ぜて「モノ」を上手に売る小売業や製造業の会社も出てくることが考えられます。個人投資家であるならば、来年の銘柄選別の際には、頭の片隅に置いておきたいものです。

藤野 敬太