ガソリン価格の上昇が続き、年末年始を前に消費者からはため息が漏れています。気をもみ始めた方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、ガソリン価格上昇の背景を探るとともに、今後の見通しとリスクと紹介したいと思います。

ガソリン価格が2年5カ月ぶりの高値、OPEC減産延長で

12月4日現在のレギュラーガソリン価格(全国平均)が1リットル当たり141.4円となり、12週連続で上昇したことが資源エネルギー庁の調べでわかりました。水準は2015年7月以来、2年5カ月ぶりの高値となっています。

昨年の2月から3月にかけては112円台でしたので、2年足らずで25%ほど上昇しており、徐々に家計を圧迫し始めています。

最近のガソリン価格の値上がりの背景には、石油輸出機構(OPEC)が11月30日に減産の延長を決定したことがあります。OPECとロシアなどの主要産油国は原油の供給過剰を解消するために協調減産に取り組んでおり、これまでは来年3月までとしていた減産期間を12月まで9カ月間延長したことが原油価格を押し上げました。

減産延期でも米増産で見通しは弱気

減産の延長が決定されたことで価格は下がりにくくなったことは確かですが、減産延長を見越して既に価格は上昇していますので、価格がさらに上昇する恐れは小さいと考えられてます。

むしろ価格が下がるリスクのほうが大きいかもしれません。まず、原油価格は2015年7月以来、2年5カ月ぶりの高値となっていることから、減産のインセンティブが低下していることが指摘できます。

協調減産に参加しているロシアからは減産の延長に対して疑問の声も上がっており、原油価格が現在の高値を維持した場合、減産の約束が守られない恐れもありそうです。

主要産油国が減産を実施している一方で、米国での原油生産量は着実に増加しています。米国で生産が増加中のシェールオイルの採算ラインは1バレル当たり50ドル前後と推定されていますので、現在の価格水準である50ドル台後半だと増産は加速する見通しです。

ロシアなどが減産延期に懐疑的となっている理由は、主要産油国が減産している間に米国で生産が増加し、マーケットのシェアを奪われると考えているからです。要するに、減産による原油価格の維持は米オイル企業を利するだけとなる恐れがあるわけです。

このように、米シェールオイルの増産が予想されること、また米シェール企業のみが恩恵を受けるような協調減産には不満の声があることから、原油価格の持続的な上昇には疑問の声も少なくないようです。

きな臭さを増す中東情勢が大きなリスク

需給要因からはガソリン価格の上昇が続くリスクは小さいようですが、中東情勢がきな臭くなっている点には警戒が必要となりそうです。

トランプ大統領は6日、エルサレムをイスラエルの首都と認め、アメリカ大使館をエルサレムへ移転する方針を示しました。国連の安全保障理事会は8日、この問題を巡って緊急会合を開き、米国の独断的な決定は中東和平の進展を阻むとして非難しています。

一見すると国際社会を敵に回す、突然の表明のようにも見えますが、最近の国際情勢を振り返ると不可避な流れのようにも見えます。

まず、トランプ政権が親イスラエル政権であることがすべての前提になります。トランプ大統領の娘婿であるクシュナー上級大統領顧問は敬虔なユダヤ教徒であり、クシュナー家とイスラエルのネタニヤフ首相は家族ぐるみの付き合いであることが知られています。

今回の首都認定や大使館の移転はトランプ大統領の選挙公約でもあるわけですが、当初からクシュナー氏の影響が指摘されていました。

トランプ政権がロシア疑惑で揺らいでいることは周知の事実ですが、最近ではトランプ政権の中枢部にまで捜査が進展しています。一方、イスラエルでもネタニヤフ首相が汚職疑惑で苦境に陥っており、両政権が国内問題から外交問題へと国民の関心をそらそうとしても不思議ではありません。

また、米国に対してはアラブ諸国から一斉に抗議の声が挙がっており、事実上の宣戦布告との見方もありますが、アラブ諸国も一枚岩ではないことも見逃せない事実です。

イエメンでは4日、サレハ前大統領が殺害されました。同国ではサウジアラビアが支援する政権側とイランの支援が指摘されている反体制派の間で内戦が続いていますが、実効支配しているのは反体制派でありサウジアラビアは劣勢に置かれています。

前大統領の殺害には反体制派が関与しており、内戦が激化することでサウジアラビアが窮地に追い込まれるリスクもありそうです。

シリアでは崩壊寸前だったアサド政権がイランとロシアの支援により勢力を回復しているほか、レバノンでもイランが支援するシーア派武装組織ヒズボラが勢力を拡大中で、中東地域でのイランの存在感が高まっています。

このように、中東地域ではサウジアラビアとイランとが覇権を争っていますが、イランの勢力拡大によりこれまでは均衡していたバランスが崩れつつあります。

イスラエルの隣国であるレバノン、サウジアラビアの隣国であるイエメンでそれぞれイランを後ろ盾とした勢力が台頭しており、両国にとっての共通の脅威となっています。こうした状況から、米国とイスラエル、サウジアラビアの利害関係が一致し、打倒イランに向けて共闘する機運が高まっているともいえるでしょう。

こうした中、8日にはディナ・パウエル大統領副補佐官(国家安全保障問題担当)の辞任が伝えられました。エジプト出身でアラビア語が堪能なパウエル副補佐官は、中東情勢を中心にトランプ政権の外交政策で主要な役割を担っていました。

エルサレムを首都と認定したトランプ政権の決定が決断に影響したかどうかは定かではありませんが、パウエル氏は国際協調を重視する「グローバリスト派」として知られており、同じくグローバリスト派のティラーソン国務長官も政権を去るとの観測が広がっています。

後任にはポンぺオCIA長官、CIA長官の後任にはコットン上院議員の名前が挙がっていますが、両氏ともイランとの核合意に反対しており、イランの体制転覆を米政府の目標として明確に設定すべきと述べています。

トランプ政権が親イスラエル政権であり、トランプ大統領とネタニヤフ首相がともに疑惑で苦境にあること、イランの勢力拡大で中東での勢力バランスが崩れかけていること、さらに最近の米政権人事を巡る報道を見ると、米国が外交手段ではなく、軍事力による解決を目指す機運が高まっている様子がうかがえますので、原油市場の波乱要因として注視が必要となりそうです。

LIMO編集部