中国の開発途上地区における経済状況
中国南西部、広西省チワン族自治区の南寧と防城港という街で、不動産視察をしてきました。
ここはとてもユニークな場所です。中国の南西端、ベトナム国境まで目と鼻の先という立地。中国とベトナムはかつて戦火を交えた国同士、当時は国境近くが軍事的緊張状態にありましたが、現在はこの地にも平和が訪れ盛んに通商が行われています。
中国から見て、ベトナムの先にはタイ、マレーシア、インドネシアと、前途有望なASEANの国々が続きます。中国政府はこの地に日本とは比較にならない巨額の資金を投入し、ASEANの経済開発、インフラ整備を戦略的に進めています。
その前線基地になる場所が、広西省チワン族自治区の省都・南寧と、その外港である防城港です。近年、李克強首相はじめ中国のリーダーがASEANとの経済関係強化の文脈で南寧や防城港を何度も訪れるなど、かつての南西辺境の地は重要な経済拠点として注目度が高まりつつあります。
日本から行くと、南寧までは遠く感じます。直行便がなく、たいてい上海乗り継ぎになりますが、東京〜上海間より上海〜南寧間の方が時間がかかるのです。上海からの航路上の各省内には数億人が生活しており、中国の国土がいかに広大であるかを実感します。
国土のスケールが大きいので、地域によって経済状態、暮らしぶりも様々です。たとえば以下のように、同じ国内で賃金・物価格差が2〜3倍にもなります。
- 上海市のタクシー初乗りは14元(238円)だが、広西省防城港市のタクシー初乗りは5元(85円)
- 上海市内の食堂で張り出される厨房要員の月給は4000元(6万8000円)前後だが、広西省内の食堂だと1800〜2000元(3万600〜3万4000円)
経済統計を見ると、それが数字で裏付けられています。
1人あたりGDP(米ドル、2015年)
上海市:16,665ドル(32省·自治区·直轄市中第3位)
広西省:5,805ドル(同27位)
上海市民は広西省民の2.8倍も富裕で、先進国(たとえば台湾、ポルトガル)に近い所得水準。一方、後者はタイに相当する新興国水準です(下図参照)。
経済成長率が高い南西部地域
これを「国内貧富格差の拡大」と問題視する人もいますが、私の肌感覚は違います。両方の地域に行くと、所得水準の低い広西省の方が人々の表情も明るく、「我が地域は、これから大きく発展する」期待に満ち満ちています。
逆に上海や北京には、先進国にみられるような「発展疲れ」や「競争ストレス」を感じたりします。すでに高度成長期が終わり、経済成長が落ちついてきた成熟感が漂っていると言ってもいいかもしれません。
実際、ここ数年の中国は比較的所得水準の低い内陸地域(特に南西部)の経済成長率が高くなっています。
2015年の経済成長率トップ3は全て南西部の発展途上地域で(重慶市:11.0%、西蔵チベット自治区:11.0%、貴州省:10.7%)、広西省も8.1%成長でした。一方、北京と上海はいずれも6.9%。
つまり、今の中国には「成熟した先進地域」(沿岸部大都市)と、「高度成長期にある発展途上地域」(内陸部各省)の両方があり、「上海北京など大都市だけを見ていても中国は分からない」と言えるでしょう。
不動産バブル崩壊は本当に起きるのか?
そういえば数年前から、「中国不動産バブル崩壊論」が日本のマスコミを賑わせてきましたが、現実にはそれは起こりませんでした。バブル崩壊どころか、中国の不動産価格はますます上がり、経済規模は拡大、ITやハイテク分野でもどんどん台頭しています。
私に言わせれば、なぜ不動産バブル崩壊論を言う人がいるのか不思議です。「中国内陸部の数億人が猛烈に高度成長している今のタイミングで、不動産バブル崩壊は起こらない」と思うからです。
内陸部では物価も、不動産価格も、まだ安いのです。住宅の平均㎡単価では、北京市は58,249元に対し、広西省の防城港市は4,332元。その差は13倍を超え、もはや同じ国とは思えません。
両者の所得格差が2〜3倍なのに不動産価格が13倍も違うということは、安い方にまだ伸びしろが十分あるということです。また、外部からのビジネスや投資マネーが入れば、中国の場合、不動産は瞬く間に急騰します。
中国の各地で、ビジネスや不動産で富裕になった人々が増えると、彼らは憧れの都市である上海や北京で、大金をはたいて不動産を保有しようとします。中国トップの教育文化水準を求めたい、首都で手堅く資産保有したい等、その動機はさまざま。
上海や北京の不動産価格は、地元の勤労者にとっては高すぎるけれど、中国じゅうの富裕層の分厚い実需に支えられています。それに加え、地方で数億人規模の経済成長が続く限り、多少の調整局面はあっても、中国全土でバブル崩壊、暴落というシナリオは当分起こりそうにありません。
鈴木 学