皆さま こんにちは。アセットマネジメントOneで、チーフ・グローバル・ストラテジストを務めます柏原延行です。

このコラムは、『ドイツの政局混乱はインフレ要因となるのか?(2)』の続きです。(1)では、「①ドイツの政局混乱や米トランプ大統領勝利、英EU離脱決定は、1980年前半以降採用された新自由主義的な経済政策に対する反発」であり、かつ「②この政治勢力は、これからも拡大する可能性があり」、「③この政治勢力の拡大は経済・投資環境に対してインフレ要因として働く」との私の見方をご紹介しました。そして、(2)では、上記①、②と考える理由をご説明しました。

今回のコラムでは、 「③この政治勢力の拡大は経済・投資環境に対してインフレ要因として働く」と私が考える理由をご説明します。

新自由主義を代表する政治家は、1980年台前半頃に活躍した英マーガレット・サッチャー首相や米ロナルド・レーガン大統領、我が国の中曽根康弘首相と考えていることは(2)でお伝えしました。

それでは、なぜ1980年台前半頃から新自由主義が盛んになったのでしょうか?

図表1を見ると、米10年国債金利は、1970年代後半頃に急上昇し、その後は1980年代前半頃から現在まで、35年以上も趨勢的に低下していることが分かります。

図表1:米10年国債金利の推移
1969年12月31日~2017年9月29日:四半期

出所:ブルームバーグのデータを基にアセットマネジメントOneが作成。

米10年国債金利が何によって決まるかには、国債の需給、国の信用リスクなど色々な考え方があり得ますが、私は期待インフレにより決定される部分が大きいと考えています。

なぜなら、10年国債に投資すると元本は10年後にしかお金として戻ってきませんが、10年間にモノ(財)やサービスの値段が大きく上昇すると予想していると(=期待インフレが高い状態)、お金の価値が下がるため、これを補填するため高い金利をもらう必要があります。逆に、値段が大きく上昇しないと考えると(=期待インフレが低い状態)、お金の価値は下がらないため、低い金利でも投資家は満足すると思われます。

1970年代後半頃の金利急上昇は、その時代において、「モノやサービスが値上がりするという将来予測」が強まった時期であったことを示します。

要するに、この時代は、(不景気であるにもかかわらず)高いインフレに困っていた時期でした(スタグフレーションと呼ばれます)。

そして、これに対する処方箋として、新自由主義が採用されたわけです。新自由主義の競争促進、グローバル化などは、「モノやサービス」の価格を下げるために有効な政策です。

たとえば、規制などで、タクシーが100台しか稼働していない町で、規制緩和により自由なタクシーの稼働が認められ、タクシーが200台になると、タクシーというサービスの価格は下落すると思われます(競争促進)。同様に、海外のお酒の輸入に高い関税を課していた場合、関税を撤廃して、自由な輸入を認めればお酒というモノの価格は下落します(自由なモノの移動、グローバル化)。

このように、新自由主義は、原則としてモノやサービスの値段の上昇を抑える圧力(デフレ圧力?)になってきたと私は考えています。

事実、新自由主義の政治家が活躍した1980年代前半頃から今日まで、なんと35年の長きにわたり、米10年国債金利は趨勢的には低下を続けています(図表1、期待インフレが低下、デフレ懸念?)。

(2)でご説明した通り、新自由主義に反発する勢力は、拡大する可能性がありそうです。

もちろん、長期金利の低下傾向は市場参加者の中に強くすり込まれている上、主要先進国の長期金利やインフレ率は低位に留まり、また新自由主義は政治的に強い勢力であると私は考えています。

しかし、一人勝ちとも評価できそうなドイツにおいてすら、新自由主義に反発するグループの力が増していることを考えると、「35年以上続いた米長期金利の低下傾向に歯止めが掛かること(or反転すること)」や「インフレ懸念が発生する可能性」を、経済・投資環境の分析においては、頭の片隅に入れておく必要があると考えます。

(2017年11月28日 9:00執筆)

柏原 延行