スキャルピング(超短期売買)はFX取引の手法の一つです。大きな特徴の一つはその名のとおり、ポジションを持つ時間がきわめて短いことです。1回のトレードあたりの収益は数pipsと小さいですが、これを、多いときには1日数十回も行います。トレードのテクニックだけでなく、メンタル的にもタフさが求められます。ここでは、スキャルピングで勝つために必要な知識と取引の方法のポイントについて解説しましょう。
目次
1 スキャルピング、デイトレード、スイングトレードの違い
2 スキャルピングのメリットとデメリット(リスク)
3 スキャルピングで使うのは主に「1分足」
4 スキャルピングはボラティリティの大きい時間帯で
5 スキャルピングにお勧めの通貨ペアは「ドル/円」「ユーロ/ドル」
6 「スリッページ」の防止のために、FX会社の約定力も重要
7 いざというときにも落ちない強固なシステムであること
8 スキャルピングで負け組になる人の考え方
9 スキャルピングで勝ち組になる人の考え方
10 スキャルピングのトレード手法
11 まとめ/スキャルピングならではのチャンスをつかんでほしい
1 スキャルピング、デイトレード、スイングトレードの違い
スキャルピングと、デイトレード、スイングトレードなどの違いはどこにあるのでしょうか。大きな特徴は、ポジションを保有している時間です。保有している時間に応じて、スキャルピング(超短期売買)、デイトレード(短期売買)、スイングトレード(短中期売買)、長期トレードなどと呼ばれます。
スキャルピング(scalping)のscalpとは「頭皮、頭皮をはぐ」といった意味があります。転じて、株式相場などで薄い利ざやをとることをscalpと呼ばれるようになりました。ちなみに、育毛シャンプーなどのことをスカルプ(頭皮)ケア商品と呼びます。そのまま「スカルプ」という名前の育毛商品もあります。ただし、日本の株式やFXのトレーダーは「スキャル」と略す人が多いようです。
スキャルピングの保有時間は長くても数分、短ければ数秒という場合もあります。この間で数pips~10pips程度の利幅を狙います。1回のトレードあたりの収益は小さいですが、このトレードを1日に多ければ数十回も行います。スキャルピングを得意とする専業トレーダーの中には、1日で数十万円も稼ぐ人もいます。
2 スキャルピングのメリットとデメリット(リスク)
スキャルピングの最大の特徴は超短期売買であることです。このため、それがそのままスキャルピングのメリットとデメリットになります。
メリット1:サラリーマンなど時間がない人でも売買できる
サラリーマンの人などで、帰宅後に1、2時間の時間でもトレードをすることができます。1日数十万円とまでは行かなくても、1時間で数万円分の利益を取るなど、短時間勝負で利益を得られるチャンスがあります。
メリット2:リスクが限定されている
スキャルピングでは1回のトレードあたり、数pips程度の値動きの中でエントリーし、決済を行います。ストップロス(逆指値注文)を入れておけば、いきなり数十pips動いて証拠金維持率が下がり強制ロスカットになったり、追加証拠金が発生したりといったことはありません。また、日をまたいでポジションを持ち越さないため、「寝ている間や週末のマーケットクローズの間に値段が動いて強制ロスカットになった」ということもありません。
メリット3:複利効果を生かせるため資金効率がいい
運用で得た収益を再び投資することで得られる効果を「複利効果」と言います。たとえば年利1%の金融商品に投資をする場合、「単利」だと、資金が2倍になるまで100年かかります(税金・手数料などを除く、以下同)。ところが、投資で得た金利も含めてすべて再投資をする「複利」なら、2倍になるまで約72年でいいのです。
複利効果には「72の法則」と呼ばれるものがあり、資金が2倍になるには72を利率で割ればわかります(概算)。たとえば年利が3%なら、2倍になるのにかかる期間は24年です。
FXのスキャルピングでは、1年と言わず、結果はその日のうちにすぐ出ます。たとえば、1日に資金(預け入れた証拠金)の1%儲けられるなら、72日間で資金は2倍になります。スキャルピングなら1時間で証拠金の1%相当の利益が得られることもあります。あくまでも皮算用ですが、そうなれば、のべ72時間で資金が2倍になる計算になります。
スキャルピングにはいくつかのメリットがある一方で、超短期売買がそのままデメリット(リスク)になります。
デメリット(リスク)1:エントリー、決済の判断が難しい
スキャルピングは超短期売買のため、エントリーにも決済にも素早い判断が求められます。デイトレードやスイングトレードであれば、エントリーで出遅れたとしても後で取り戻すこともできますが、スキャルピングでエントリータイミングを間違うと、あっという間に形勢は逆転してしまいます。5pipsを狙いにいったのに、エントリーしたとたんに逆に動いて-5pipsになってしまうことも珍しくありません。
また決済や損切りについても、「もう少し伸ばそう」と思っている間に利益がなくなり、「あと3pips下がったら損切り」と思っている間に、-10pipsまで下がってしまいます。
特にスキャルピングの損切りについては注意が必要です。せっかく5回のトレードで15pips取ったのに、次のトレードで損切りが遅れ、-20pipsになってしまっては意味がありません。
デメリット(リスク)2:いつでもトレードできることが「ポジポジ病」に
スキャルピングでは、極論すれば5分の時間があればトレードすることができます。このため、「今トレードすれば儲かるのではないか」と安易にエントリーしてしまいがちです。少し値が動いたのに飛びついたら、すでにトレンドは終わりで反転することもよくあります。また、もみ合っている中に突っ込んでいって、損切り貧乏になることもあります。
さらに、損切りになったことに熱くなってしまい、ドテン(それまでのポジションと逆にエントリー)すると、とたんに値が戻って、売りでも買いでも損をするという、いわゆる「往復ビンタ」になってしまいます。
1回に5pipsの損切りでも、5回繰り返してしまうと、25pipsになってしまいます。これを限られた時間で取り戻すのは容易ではありません。
デメリット(リスク)3:集中力と体力が要求される
スキャルピングは超短期売買とは言え、トレードしている間はパソコンのモニターに張り付き、小さなチャンスも見逃さないように集中し続ける必要があります。エントリー後も、利食い、損切りの判断を瞬時にしなければなりません。目、肩、腰などへの負担も軽くありません。このため、専業トレーダーの中には、若いころはスキャルピングが中心だったものの、中高年になってからはデイトレードやスイングトレードにスタイルを変える人もいます。
3 スキャルピングで使うのは主に「1分足」
株式やFXのチャートではローソク足を用いるものが一般的です。ローソク足には、時間軸ごとに1日分の値動きを表示する「日足(ひあし)」、1週間の「週足(しゅうあし)」、1か月の「月足(つきあし)」などがあります。さらに、1時間の「時間足(じかんあし:1時間足、60分足と呼ぶこともあります」、「30分足」、「15分足」、「10分足」のほか、5分単位の「5分足」、1分単位の「1分足」などもあります。
スキャルピングで取引をするトレーダーは「1分足」を使っている人が多いようです。1分足よりもさらに時間軸が短い「ティックチャート」と呼ばれるものもあります。これは、売買が成立するごとにチャート上に点を付けて動きを表すものです。敏感に市場の動きを表すことができる一方で、価格が上下にはねるように動くのでトレンドが読みづらいという欠点もあります。
専業トレーダーと呼ばれるような人でも、ティックチャートを使っている人はあまり多くありません。FX初心者の人には使いこなすのが難しいでしょう。短い足でも1分足以上のものを使うことをお勧めします。
4 スキャルピングはボラティリティの大きい時間帯で
為替市場は24時間365日動いています。ただし、相場が活況な時間帯とそうでない時間帯があります。
活況な時間帯とはもちろん、市場に参加する人が多い時間帯です。俗に3大市場と呼ばれるのが、「東京外国為替市場」「ロンドン外国為替市場」「ニューヨーク外国為替市場」です。おすすめはロンドン時間です。なぜなら、ロンドン外国為替市場は世界で最大の市場で、取引高のシェアは世界の35%を占めると言われています。まさに世界の金融センターです。
ニューヨーク外国為替市場はロンドンに次いで約20%のシェア。東京外国為替市場のシェアは6~8%程度にすぎません。そういう点では、東京時間は取引参加者も少なく、「相場があまり動かない時間」です。香港やシンガポールの市場と合わせた「アジア時間」全体として見ても、大きなトレンドになるよりは、レンジでもみ合うことが少なくありません。ロンドン時間に入ると、多くの投資家が参加することから方向感も出て、判断もしやすくなります。
「スキャルピングであれば、大きなトレンドが出ていなくても取れるのではないか」と思うかもしれませんが、10pips幅でもみ合っているところで5pipsを狙うよりは、30~40pipsのトレンドの中の一部を狙う方が優しいでしょう。また、一つのトレンドの中で押し目買いや戻り売りも狙えるため、チャンスも多くなります。
5 スキャルピングにお勧めの通貨ペアは「ドル/円」「ユーロ/ドル」
スキャルピングでは、取引をする通貨ペアにも注意が必要です。お勧めは「米ドル/円」と「ユーロ/ドル」です。理由は大きく2つ。コストと流動性です。
「米ドル/円」「ユーロ/ドル」はスプレッドが比較的に狭い
FX会社の多くで、売買手数料は無料です。このため、FXの主要なコストはスプレッドです。スプレッドとは、通貨の売価と買値の「差」のことです。スプレッドの幅はFX会社によって異なります。さらに、通貨の組み合わせによってもスプレッドは異なります。
あるFX会社では、米ドル/円のスプレッドは0.3銭、ユーロ/米ドルのスプレッドは0.5pipsです。ニュージーランドドル/円は1.4銭、トルコリラ/円は2.9銭となっています。スキャルピングでは数pips程度の利益を狙いますので。スプレッドが2.9銭となると、コスト抜けをするためにはまず2.9銭動いてからようやく収益になりますから、かなり不利です。その点では、スキャルピングはできるだけスプレッドが狭い通貨で取引をするのが基本です。米ドル/円、ユーロ/ドルなどが中心になるでしょう。
「米ドル/円」「ユーロ/ドル」は流動性が高い
さまざまな通貨ペアの中で、「米ドル/円」「ユーロ/ドル」は流動性が高い通貨ペアです。流動性が高い通貨ペアは、トレードに参加しているプレーヤーが多いため、トレンドの方向感をつかみやすいという特徴があります。逆に、トルコリラ、ノルウェークローネ、スウェーデンクローナなど、流動性が低い通貨ペアは、価格が動かないと思っていたら、突然上下に振れて、ストップロスに引っかかってしまうなど、なかなか読みづらいところがあります。
6 「スリッページ」の防止のために、FX会社の約定力も重要
スプレッドに加えて重要なのがFX会社の「約定力」です。約定力とはその名のとおり、注文をしたらちゃんと約定することです。指値注文はもちろん、その価格で約定することが当然ですが、さらに大切なのは、成行注文のときに約定拒否されたり、価格がすべって約定したりする「スリッページ」が起こらないことです。
「スリッページ」が起こるとそのままコストに跳ね返ります。特にスキャルピングでは、数pipsの利益を追うため、約定するまで結果がわからないのでは勝負になりません。たとえ見かけのスプレッドが狭くても、注文のたびにそれ以上すべってしまうのでは意味がないのです。FX会社の中には「約定率100%、スリッページなし(=完全約定)」を明言しているFX会社もありますので、利用してみるのも一つの方法です。
7 いざというときにも落ちない強固なシステムであること
約定力に加え、FX会社の取引システムの安定性にも注目すべきでしょう。スキャルピング、に限りませんが、大きなリスクになるのが、ボラティリティが大きいときなどに、FX会社のサーバーがダウンすることです。
取引ツールに「ログインできない」というだけなら、売買のチャンスを逃す程度ですみます。しかし、「決済できない」「ストップロスの注文が入れられない」さらには「レートがフリーズしたように動かない」といったことになると、予想に反して相場が動いたときに大きな損失を被ることになりかねません。
8 スキャルピングで負け組になる人の考え方
さて、ここからは具体的に、スキャルピングで勝つためにどのような手法があるか解説していきましょう。その前に、スキャルピングで負けやすいタイプとはどのような人なのか紹介します。
スキャルピングで負けるタイプ1:価格の動きに振り回される
スキャルピングでは主に1分足を使います。チャートの縦軸は価格になりますが、30分足や1時間足を虫眼鏡で拡大したようになり、少しの動きでもローソク足が長く伸びます。このため、上に伸びると、「ぐんぐんあがっていくのではないか」、下に伸びると「このまま急落するのではないか」と感じて、この動きに飛び乗ってしまいがちです。
しかし、実際には上下幅10pipsぐらいで小刻みにもみ合っているだけということも多く、上に伸びたらすぐに上値抵抗線あたりにぶつかって反落するということになります。このようなもみ合い状態に突っ込んでいくと、上がったと思えば下がり、下がったと思えば上がるということになります。慌ててエントリーしてしまうと「買えば下がり、売れば上がる」という現象が続き、損が重なるだけでなく、メンタル的にもきつくなります。
スキャルピングで負けるタイプ2:自分のトレードルールが定まっていない
前述したように、価格の急な動きに飛びついてしまう人の特徴は、自分のトレードルールが定まっていないことです。このため、なんとなく「上がりそう」「下がりそう」と判断してエントリーしてしまうのです。特に失敗して損切りした瞬間にかっとなってドテンをするような人は注意が必要です。
スキャルピングで負けるタイプ3:損切りや利食いのルール、目標がない
スキャルピングでは、上下に振れる値動きの中で、ある特定の瞬間の上昇や下落を取っていくというのが基本的な手法です。チャートで言えば、1分足の波の谷から山までを買うか、山から谷までを売るかです。谷→山→谷→山と様子を見るような動きはありません。
ところが、人間は欲が出るために、利益が出ているときは「もっと伸びるのではないか」、損失になっているときは「また戻るのではないか」と考えて様子を見がちです。たまたまそうなった経験が忘れられず、このようなトレードを繰り返すと、取れる利益が取れなくなるだけでなく、損切りも遅れます。
9 スキャルピングで勝ち組になる人の考え方
スキャルピングで勝ち組になる人は、前述した負け組の人の考え方の逆を行ける人です。
スキャルピングで勝つタイプ1:価格の動きに振り回されない
スキャルピングで勝ち組になる人は、急に価格が上昇したり下落したりしても、冷静にその動きの行方を見守っています。新たなトレンドが発生したのか、それともレンジのもみ合いの一部なのか。急に価格が動いたのは何か指標が発表になったから、あるいは外国政府の要人が発言したのか。原因を正確に把握することは容易ではありませんが、少なくとも、急な値動きに飛びつくことはありません。
スキャルピングで勝つタイプ2:自分のトレードルールが定まっている
スキャルピングに限らず、FXで勝てる人は、自分のトレードルールが定まっています。チャンスが到来すれば、迅速にエントリーしますが、そうでなければ静観しています。勝ち組のトレーダーの様子を見ていると、淡々と注文を出しているように見えます。慌てることもありません。
スキャルピングで勝つタイプ3:損切りのルール、利食いの目標が明確である
これもスキャルピングに限りませんが、FXで勝てる人は損切りのルールを明確に定め、それを守ります。たとえば、5pips逆行したら損切りと決めている場合、専業トレーダーの中には注文時にすでに、5pips下にストップロス注文を入れている人もいます。これなら、損切りが遅れることはありません。また、利食いについても「5pips以上取れれば即決済」という人もいます。スキャルピングの場合、価格が戻ってしまうともう「次」はないからです。
10 スキャルピングのトレード手法
具体的に、スキャルピングのトレード手法はどう考えるべきでしょうか。トレーダー一人ひとり、さまざまな手法があると思いますが、以下にその一例を紹介しましょう。
1:その日のおおまかなトレンドを予想する
スキャルピングは1分足のチャートを使ってトレードする人が多いようですが、それだけを見ていると「木を見て森を見ず」になってしまいます。1時間足や日足なども見ながら、今どのような状況なのか(上昇トレンドか、下降トレンドか)を見極めます。さらに、アジア時間とロンドン時間、ニューヨーク時間の動きなどから、これから数時間の値動きを予想します。
2:現在は「上昇」か「下降」か「もみ合いか」
1分足だけを見ていると、上下にランダムに価格が行ったり来たりしているように思えても、1時間足などの上位足を見ると、「上昇トレンドの一部」であったり「下降トレンドの一部」であったり、「レンジの一部」であったりするものです。
その中で、順張りするのか逆張りするのか。順張りであれば、押し目買いを狙います。逆張りであれば、上値抵抗線あたりから売りで入ります。
ここで大切になるのが、前述したその日の流れの予想です。上昇トレンドになると考えれば、「買い」は強気で行きます。
スキャルピングであれば、順張りも逆張りもできると考えるかもしれません。それができれば往復で儲けられることになりますが、なかなか難しいところです。専業トレーダーの人でも往復でエントリーするよりは、「今日は上昇と考えれば『買い』のみ、売りで入ることはない」とメリハリをつけて考える人が多いようです。
3:どこから入るか、どこで利食いをするか
エントリーや利食いのタイミングも、人によってさまざまです。買いで入る場合、価格帯をベースに「上値抵抗線を抜けたら買い」、「下値支持線で反発したら買い」など、エントリーのタイミングを決めておきます。
価格ではなく、ボリンジャーバンドのミドルバンド(25日移動平均線)や2σ、3σとの関係で決めている人もいます。利食いについても、「○pips取れたらすぐ決済」という人や、こちらもボリンジャーバンドで、「2σよりも内側に戻ってしまったら決済」という人もいます。いずれにしても大切なのは、ルールを決めたらそれを守ることです。そうでないとその手法で成果が出るかどうか検証できません。
11 まとめ/スキャルピングならではのチャンスをつかんでほしい
スキャルピングについてまとめました。スキャルピングはリスクも少なくなく、初心者が利用するには易しくはありませんが、手法などをマスターすることで、短期間に資産を増やすことができる大きなチャンスがあります。ぜひ、自分なりのスタイルを確立し、このチャンスを獲得してください。
上山 光一