株を買った瞬間に、買った値段は忘れるべし

「サンクコスト」を考える

今回は、「サンクコスト」(sunk cost)について、久留米大学の塚崎教授が解説します。

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高い金を払って買った株、本、毛皮のコートなどを見ると、買った値段を思い出してしまう人が多いと思いますが、買った時に払った代金は戻ってきませんから、死んだ子の歳を数えるようなことはせず、将来の幸せを考えましょう。既に支払って戻ってこない金のことを、「サンクコスト」と呼びます。今回は、サンクコストの話です。

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株を買った値段は忘れて、「今より値上がりするか否か」だけを考える

「1000円で買った株が800円に値下がりしたのですが、売るべきでしょうか?」と言った相談を受ける場合がありますが、筆者の答えは「買った時の値段は忘れましょう。今から貴方が株式投資を始めるとして、その株を800円で買いますか?」です。買った値段が500円であろうと1000円であろうと、関係ありません。重要なことは、「その株は、800円より高くなりそうか否か」だけなのです。

人間は、損をするのが嫌いな動物なのだそうです。100円儲けた嬉しさより100円損した悔しさの方が大きいのだそうです。したがって、買った株が下がると「今売ったら損が確定してしまう」と考えて売らずに持っていて、傷口を広げる人が多いのだそうです。これには、「こんな株を買った自分はバカだった」と思いたくない、という心理も働いているようです。これは合理的ではないですよね。

嬉しいか悲しいかは別として、投資家としては、常に頭の中では「値洗い」をすべきでしょう。「1000円で買った株が昨日、800円に値下がりしてしまった。200円の損は、過去のことだから忘れよう」「今朝、新しく800円で株を買ったぞ。儲かるかな。損しそうなら、早めに売っておいた方が良いのだが」と考えるのです。

買った本がつまらなかったら、読まずに捨てよう

買った本がつまらなかった時、「せっかく買ったのだから、最後まで読もう」とする人は多いでしょうが、やめましょう。すぐに捨てましょう(古本屋に売りましょう)。最後まで読んでも、支払った本の代金は戻ってきません。最後まで読むと、本の代金と読んだ時間の両方を損することになります。それなら、本の代金のことは忘れて、散歩でもしましょう。

食べ放題のレストランに入ったら、料理が口に合わなかったとします。食べずに帰宅して、お茶漬けでも食べましょう。口に合わない料理を、しかも「元が取れるまで大量に」我慢して食べたとしても、払った代金が戻るわけではありません。「過去は過去として切り離し、その時点で自分が一番しあわせになれること」をしましょう。

家の中に、昔買った洋服で、二度と着ないものが数多くあるかもしれません。「高かった洋服ほど、もったいなくて捨てられない」と考える人は多いでしょうが、着ないことが確実ならば、すぐに捨てましょう(古着屋に売りましょう)。収納スペースが無駄になるだけです。

イベント準備中にリーマンショックがきたら、イベントは中止しよう

費用1000万円のイベントを準備している時にリーマン・ショックがきたら、イベントは中止しますか? 続行しますか?「既に700万円かけて準備を進めているのに、中止したら700万円が無駄になってしまう」と考える人が多いでしょうが、既に払ってしまった700万円のことは忘れましょう。その上で「300万円でイベントが開催できるなら、開催すべきか」を検討しましょう。リーマンショック後でも、イベントを開催すれば、300万円くらいの収入は見込めるかも知れませんから。

もっとも、サラリーマンとしての処世術を考える必要がある点が、これまでの事例と異なることには留意が必要です。株や本の場合は、「こんな株や本を買った自分がバカだった」と思いたくない、という気持ちが非合理的な行動を誘発してしまうわけですが、会社のイベントの場合は、中止を主張することが「こんなイベントを企画した人がバカだった」という発言と受け止められかねないからです。特に、発案者が社内の実力者だった場合には、要注意です(笑)。

自分が合理的か否か、チェックしてみよう

(1)大好きなアーティストのコンサートがあります。チケットを1万円で買いましたが、当日遅刻しそうになっています。遅刻者は入場できません。タクシーで行けば間に合うのですが、タクシー代が何円までなら乗りますか?

(2)大好きなアーティストのコンサートがあります。仕事があるので、行けないと思っていたら、急に仕事がなくなりました。そこで、チケット屋に出向いたわけですが、チケット代が何円までなら買いますか?

上記の問いの答えは、一致しましたか? どちらも「そのコンサートは貴方にとって何円の価値がありますか?」という同じ質問なのですが・・・。

なお、本稿は、拙著『経済暴論』の内容の一部をご紹介したものです。厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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久留米大学商学部教授 塚崎 公義

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塚崎 公義

1981年 東京大学法学部卒業、日本興業銀行(現みずほ銀行)入行
おもに経済調査関連業務に従事した後、2005年に退職し、久留米大学へ
(近著)
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