米国では着々と金融政策の正常化が進められていますが、その一方で円安の動きが鈍っています。12月には米利上げが確実視されているにもかかわらず、何が円安の進行を妨げているのか、円安見通しに潜むリスクを点検してみました。
円安を阻んでいるのは米通貨政策?
9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でバランスシートの縮小が決定され、米国では日欧に先駆けて金融政策正常化の動きが進んでいます。また、今年の3月と6月には利上げを実施し、来月の追加利上げも確実視されており、日米金融政策の方向性の違いから円安を予想する声も少なくありませんが、期待通りには進んでいないようです。
ドル円レートは昨年12月には1ドル=118円台まで上昇していましたが、足もとでは113円台を推移しており、日米の金利差が拡大しているにもかかわらず、年初来ではむしろ円高となっています。
円安を阻んでいる要因としてまず考えられるのがトランプ政権の通貨政策です。
米財務省が10月に公表した半期に一度の為替報告書では、注目された中国の「為替操作国」認定は見送られましたが、中国やドイツ、韓国、スイスと並んで日本も引き続き「監視リスト」入りしています。
同報告書での認定基準は、対米貿易黒字が200億ドル以上、経常黒字が国内総生産(GDP)比3%以上、12カ月間の為替介入総額がGDP比2%以上の3項目となり、2つ以上の項目に該当すると「監視リスト」に入ります。日本の場合、対米貿易黒字と経常黒字で基準を超えています。
トランプ大統領は今月のアジア歴訪で中国を訪れた際に、「米国の巨額の対中貿易赤字を許したのは歴代の米大統領の責任であって、中国を責めるつもりはない」と述べ、直接的な批判を避けましたが、「米中の貿易関係は極めて偏った、不公正なものだ」と是正を求めることも忘れませんでした。
また、「自国市民のために他国を利用する国を責めない」と述べ、中国を称賛していますが、この発言は裏を返すと自らが掲げる“米国第一主義”を肯定しているとも受け取れます。
8月には中国に対して通商法301条下で調査を開始し、10月には公聴会を開いていることを踏まえると、歴代の大統領は見逃したかもしれないが、自身は“自国市民を守る”ために“貿易赤字”には断固とした態度を取ることを匂わせています。貿易不均衡の是正に向けて、ドル安政策が採られる可能性があることは想像に難くないでしょう。
2国間交渉では円高圧力を強める公算
トランプ大統領は6日、「日本に対する貿易赤字を減らしていかなければならない」と強調しており、中国と同様に、日本に対しても貿易黒字の是正を働きかけています。
また、10日には世界貿易機関(WTO)が米国の経済的利益を損なっていると批判しているほか、既に環太平洋パートナーシップ(TPP)からも離脱していますので、トランプ政権の軸足が多国間協議から2国間での交渉へと移っていることは明らかでしょう。
協議中の北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉が決着すれば、「次の目標は日本」と考えられています。NAFTAは協議が難航していることから、年内の妥結が見送られ、来年1-3月期を目処に交渉の終了を目指しています。
こうした中、ロス米商務長官は13日、「日本やアジア諸国は、常に自由貿易を支持すると言うが、実際には米国よりも保護主義だ」と述べ、農産物に高関税を設ける日本をけん制しています。
日米自由貿易協定(FTA)の交渉では、農産物や自動車を中心に議論が進展していくことが予想されますが、交渉の過程では対日貿易赤字の解消を狙って、円高圧力をかけてくることも想定されます。
国際通貨基金(IMF)によると、円の購買力平価は2017年が1ドル=100.67円、2018年が99.61円と推計されていますので、この辺りが落としどころの目処となるのかもしれません。
債務上限問題も隠れたリスク?
米国では現在、税制改革法案の審議が佳境を迎え、その影にすっかり隠れてはいますが債務上限の適用停止期限が12月8日に迫っています。ただし、特別措置をとることで実際に期限を迎えるのは来年2月から3月になりそうです。
債務上限の引き上げに関しては、共和党内での意見対立の可能性も指摘されており、民主党の協力が必要となった場合には、妥協点を見つけるために協議が難航することが見込まれます。
タイムリミットが迫り、デフォルトリスクが意識された場合には、過去の例を参考にすると、ドル安・株安・債券安のトリプル安、もしくはドルと株が下落して債券が上昇することになりそうで、いずれにしても円高要因となりそうです。
税制改革の失敗も円高リスクとして意識されていますが、首尾よく税制改革法案を通過させたとしても、その先にも新たな円高リスクが待ち構えているようです。
LIMO編集部