外国人への苦手意識は、英会話への義務感から

10代、20代は外国人と話すことに違和感のない人が増えているそうですが、総じて日本人は、外国人とのコミュニケーションに二の足を踏む傾向があるのは否めません。

外国人がきらいだからというわけではありません。英語が得意ではないという理由からです。ところで、この理由は的を射ているのでしょうか?

外国人と英語で話し、通じたときの感激を語る人は多いようです。海外旅行をする目的に、英語力を試したいからと言う人もよくいます。だとしたら日本に来た外国人だって、日本人に、日本語が通じたら感激しないはずはありません。

それなのに外国人とは英語で話さないといけないと思い込んでいる面があります。外国人への苦手意識の背景には、英語で話さないといけないという強迫観念があるのではないでしょうか。

ところが「やさしい日本語ツーリズム研究会」は、日本に来た外国人にはむしろ日本語で話すほうが、おもてなしになるのだと言います。

日本語で話していいんだ! 苦痛だった外国人とのコミュニケーションが、急に身近になった気がします。

日本に来る外国人は、日本語で話したがっているかも

訪日外国人数は2016年に2400万人を超え、今年も9月までの推計値で約2120万人と、これまでで最も早いペースで2000万人を超えたと発表されています(日本政府観光局)。東京オリンピック・パラリンピックが近づくにつれてさらに増えるのではないでしょうか。

そのうちの多くが、さわり程度でも日本語を身につけていると考えられます。日本語は英語のようにメジャーな言語ではありませんが、日本人だってケニアを訪れることになれば、同じようにメジャーではないスワヒリ語であいさつ程度はできるようにしているからです。

そしてケニア人に、スワヒリ語が通じたら感激するはずです。日本に来た外国人は、日本人と日本語で話したいから、日本語を身につけてくるのではないでしょうか。

もちろん全く日本語を話そうとしていない外国人に対し、英語が話せるのに、何が何でも日本語で話そうとするのは論外です。また、ビジネスなど、誤解から取り返しのつかない事態を招くおそれがある場合も別です。

そうでない場合、道案内など地図やジェスチャーを駆使して何とかなる場面をはじめ、日本語でコミュニケーションをとったほうが喜ばれそうです。

日本語を話そうとする外国人が感じる、3つの不愉快

前述の研究会で座長を務めたこともある東京外国語大学教授の荒川洋平氏の著作『もしも...あなたが外国人と「日本語で話す」としたら』には、訪日した外国人が日本語を話したときに感じる不愉快を3つ記しています。

まず「『日本語が上手ですね!』と過度に賞賛される例があります。ところが……上手だと褒められたはずなのに妙にゆっくり話されたり、『おはし、大丈夫?』などとお決まりの心配をされたり」するのでは、外国人として上手だということになり、つまり子ども扱いをしているのと同じになるようです。

次に、「わずかな助詞の使い分けの間違いや敬語の誤用も許さず、厳しく直されてしまった」と、やけに厳しい見方をされるのも、日本語を話す意欲を減退させてしまうようです。日本人が英語を話したとき、発音やアクセントを細かく注意された場合を考えてみればよくわかります。

さらに、「買い物の際に自分がせっかく日本語で話しかけているのに、店員が普通に反応してくれず、なぜか英語担当要員がやって来て英語で答える」ことも、せっかく日本語を話そうとしている外国人にしてみれば、よけいなお世話になりかねません。

外国人とコミュニケートするには、まず日本語力の向上が不可欠

『もしも…あなたが外国人に「日本語を教える」としたら』の中には、外国人に不愉快な思いをさせてしまう、つまり外国人とのコミュケーションが上手にできないのは、外国人との「日本語でのコミュニケーションに不慣れであるため」という記述もあります。大事なのは、流暢でない、間違った日本語でも、我慢強く鷹揚に受け入れていくことだそうです。

とはいえ、間違った日本語を受け入れ、世界じゅうに間違った日本語が広まってしまうのは困りものです。日本人としては、いい気持ちではありません。一方で、外国人と日本語でコミュニケートすることの魅力も捨てがたいものがあります。

外国人だって間違った日本語だと気づけば、正しい日本語を身につけたくなるのではないでしょうか。その日のため、日本人は日ごろから日本語力を高めておく必要がありそうです。いつ、「日本人の使う日本語は、これでいいのですか」と尋ねられてもいいように。

注:本記事は荒川洋平氏への取材によるものではなく、同氏の著作『もしも...あなたが外国人と「日本語で話す」としたら』をもとにまとめたものです。

間宮 書子