S&P500株価指数は2年以上も調整(10%以上の下落)が起きておらず、ウォール街では調整は「すぐそこだ」と警戒感が強まっている模様です。何を警戒すればよいのか、具体例をまじえながら、傾向と対策を紹介したいと思います。
株価は数カ以内に10%以上下落へ
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)は19日、顧客向けのリポートで数カ月以内に株価は10%以上下落すると予想し、活況に沸く投資家に警告を発しています。
BAMLは「景気後退が起きないと仮定した場合、調整のきっかけとなりそうなのは賃金が上昇し、インフレ見通しが高まることでFRBの金融引き締めに対する警戒感が強まることだ」と述べ、「調整が起きるためには、金利とボラティリティの上昇が必要だ」との見方を示しました。
また、調整が起こるタイミングとその規模を見極める上で、投資家が注目すべきは米税制改革の行方だとも指摘しています。税制改革による景気刺激はインフレと賃金の上昇を誘発し、金利とボラティリティの上昇リスクを高める恐れがあるからです。
トランプ政権は税制改革により減税と賃上げの実現を望んでいますが、皮肉なことにこの望みが叶うと金利が急速に上昇することになりそうです。
具体的には賃金の上昇率が3.5%、インフレ率が2.5%になったときにボラティリティの上昇が始まるだろうとしています。
税制改革に関しては、相場の格言である“うわさで買って、事実で売る”にも言及しています。税制改革が成立してしまうと、もう相場を押し上げる材料はなくなり、残されるのはFRBによる利上げのみとなりかねません。税制改革への期待がまだ残っているうちが華ということになりそうです。
また、税制改革が成立して設備投資が増加すると、過去8年間で3.5兆ドルと推計される株式の買い戻しが減少するのではないかと懸念しています。
このほかでは、中銀のバランスシートの動きにも注目。BAMLはG4のバランスシートは来年の3月に15.3兆ドルでピークを迎えると予想しており、調整はピークの前に始まるだろうと述べています。
さらに、ユーロ圏での債券利回り格差も調整のきっかけとなるかもしれないと指摘しています。具体的には、イタリアもしくはスペインとドイツの10年債利回り格差が200bpsを超えると(現在はそれぞれ165bpsと122bps)、株価の調整が始まる可能性があるとしています。
モルガン・スタンレーは年末までに5%の下落を予想
株高を懸念しているのはBAMLのみではありません。モルガン・スタンレー(MS)は17日、年末までに5%程度の調整があるとの見通しを公表しており、BAMLに先立って株価の調整リスクに言及しています。
MSの最大の懸念材料はFRBのバランスシート縮小にあります。FRBが始めたバランスシートの縮小には先例がないことから、「不透明感を嫌う投資家にとって、予想がしづらいことが最大の脅威だ」と指摘しています。
このほかでは、FRB議長の交代による市場の混乱、ここ数年での最安値圏にあるドルの反転などをリスクとして挙げています。税制改革については、「そもそも公約通りの内容で成立するのかどうかが怪しい」との立場です。
短期的な調整局面は押し目買いのチャンス?
BAMLは同行の“ブル・ベア指標”が短期(1カ月から3カ月)での“売り”シグナルに近づいており、11月23日の感謝祭から来年のバレンタインデーまでの間に、少なくとも10%以上の調整が起こると予想しています。
2001年以降、“売り”サインが出たのは11回で、その後のMSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)の騰落率の平均値は-5.9%(1カ月)、-8.5%(2カ月)、-12.0%(3カ月)だったと述べています。
また、MSも年末までに5%以上の調整局面が訪れると予想し、警戒を促しています。
ただし、両行ともに長期的な株価の上昇トレンドは維持されると見ており、MSは来年3月のS&P500株価指数を2700と予想しています。これは、10月23日現在の2564と比べ、5.3%高い水準です。
したがって、短期的な下落が予想されてはいますが、長期保有を前提にしている投資家であれば気にする必要がなさそうです。また、実際に調整局面が訪れた場合でも、押し目は絶好の買い場と見ることもできそうです。
相場の急落で平静を保つのは至難の技ではありますが、一時的な相場の変調に右往左往せず、チャンスを逃さない心の準備が必要となるのかもしれません。
LIMO編集部