資産形成の考え方を「額」から「率」に切り替える

前回に続いて英国における資産形成の制度の変化についてお伝えします。

英国企業年金の変更ポイントの2つ目は、最低拠出率の設定です。2018年までにすべての企業が企業年金を採用し従業員は自動加入で加入することになりますが、あわせて月収に対する企業年金への拠出率も最低8%と設定しています。本人がお給料のなかから5%(うち1%分が税金の戻り)を拠出し、企業は3%を負担するというものです。

こうした資産形成において、日本では定額で考えることが多く、年収に対する比率で考えることは少ないと思います。また企業年金に関連する最低拠出率もありませんから、自分でこの比率を管理するしかありません。英国や米国ではSavings rateと呼ぶこの「率」は、日本では「資産形成比率」です。

英国で最低8%であれば、我々は資産形成比率を何%と想定すればいいでしょうか。

フィデリティ退職・投資教育研究所では、30歳前後で年収300万円台から50代の後半には600万円台へと上昇するパターンを前提に、資産形成比率12%程度(30代月額4万円、40代月額5万円、50代月額6万円)を想定すると、30歳で資産0円でも、年率3%で運用を続ければ60歳で約2800万円の資産が創り出せることを紹介しています。

もちろんこれで十分かどうかは人それぞれですから、皆さんも自分の資産形成比率は何%くらいがいいか、計算してみるといいでしょう。

「目標代替率」と「資産形成比率」を使って資産形成の考え方を整理

そのためにもう一つの「率」、退職後の生活必要額である「退職後年収」の退職直前の年収に対する比率も重要です。海外ではTarget replacement rate などといわれますが、日本では「目標代替率」と呼びます。

退職しても人は現役時代の生活水準を簡単に変えられませんから、退職直前年収によって退職後の生活も変わるはずです。英国では現役時代の3分の2といわれていますが、日本ではフィデリティ退職・投資教育研究所が2009年の家計調査を利用してこれとほぼ同じ68%という数値を算出しています。

「目標代替率」は「資産形成比率」と密接に関連します。現在の「年収」をもとに、会社の賃金カーブなどから退職直前の「最終年収」を想定し、それに「目標代替率」をかければ「退職後年収」が推計できます。

さらに想定される「退職後生活年数」(わかりやすく言えば生存年数)をかけ合わせれば「退職後必要資金総額」が出てきます。ここから公的年金などの受給分を差し引けば、自分で用意しなければならない資産形成の総額が見えてきます。

これを達成するために、毎年いくら資産形成に回せばいいのかを示す「資産形成額」が推計でき、現在の「年収」に対する「資産形成比率」が見えてきます。

一連の流れを下のグラフにまとめていますが、「資産形成比率」と「目標代替率」という2つの「率」が「年収」を軸につながって、資産形成の全体像を整理してくれます。

「率」で考える退職準備の考え方

出所:フィデリティ退職・投資教育研究所作成

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合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史