2023年5月18日に発表された、日本証券金融株式会社2023年3月期決算説明の内容を書き起こしでお伝えします。
スピーカー:日本証券金融株式会社 代表執行役社長 櫛田誠希 氏
日本証券金融株式会社 執行役常務 関口将 氏
1.エグゼクティブ・サマリー(連結)
関口将氏:経理・財務を担当している執行役常務の関口です。本日は、2023年3月期決算についてご説明いたします。
スライド3ページはエグゼクティブ・サマリーで、2023年3月期連結決算の概要を掲載しています。当社連結の業績は、営業利益が63億5,400万円、経常利益が76億100万円、当期純利益は59億6,600万円となりました。
営業利益は、債券レポ・現先取引や株券レポ取引を中心に、セキュリティ・ファイナンス業務が堅調に推移した一方で、海外金利の上昇を受け、外貨建て債券の売却損を計上したことにより、前期比では若干の増益となりました。
また、当期純利益には、退職金制度の変更に伴う退職給付債務の減少額を特別利益に計上した影響も反映されています。
2.2023年3月期 通期 決算サマリー(連結・個別)
日証金グループの連結業績と、グループ個社の単体業績のサマリーを掲載しています。貸借取引業務において、品貸料は同額を品借料として借入先に支払い、営業費用として計上します。したがって、品貸料の増減は営業収益の増減に影響しますが、これらは差引されるため、利益には影響しません。
品貸料と品借料を除いたベースでは、グループ連結の営業収益は前期比38.5パーセント増の378億600万円、営業費用は前期比75.2パーセント増の240億5,300万円となりました。なお、特別損益として6億7,100万円の利益を計上しています。これは先ほどお伝えした退職金制度の変更によるものです。
3.2023年3月期 通期 日証金(単体)決算サマリー
日証金単体の業績について、主なポイントをご説明します。こちらも貸借取引の品貸料、品借料を除いたベースで資料を作成しています。まず、営業収益は前期比101億6,600万円の増収で339億1,900万円となり、業務粗利を示す営業総利益は前期比1億1,100万円の増益で103億6,300万円となりました。
営業総利益について業務別に振り返ると、セキュリティ・ファイナンス業務が大幅な増益となった一方で、その他に分類している有価証券運用は、今後のポートフォリオ運営を見据えた保有有価証券の入替売買を実施し、外貨建て債券の売却損を計上したことにより、減益となっています。各業務別の状況については、後ほど決算のポイントの中で詳しくご説明します。
経常利益および当期純利益については、連結子会社2社から配当金を受領したことにより、単体決算としては大幅増益となりましたが、連結消去により連結決算への影響はありません。
4.決算のポイント ①貸借取引残高の状況
日証金単体の決算の主なポイントについてご説明します。はじめに貸借取引の状況についてです。スライド下段のグラフでは、2021年度および2022年度における融資残高および貸株残高の月ごとの平均残高の推移を示しています。左下の青色のグラフが融資残高、右下の赤色のグラフが貸株残高です。それぞれ薄い色が2021年度、濃い色が2022年度を表しています。
2022年度の融資残高は2,500億円前後で推移し、通期の平均残高は2,547億円と前期比で284億円の減少となりました。一方、貸株残高については、前期を上回る水準で底堅く推移し、株価上昇局面となった第4四半期では、平均残高が2,000億円台に回復しました。通期の平均残高は1,889億円と前期比で133億円の増加となりました。
5.決算のポイント ②セキュリティ・ファイナンス業務の状況
セキュリティ・ファイナンス業務についてご説明します。第6次中期経営計画では、一般信用ファイナンス、金融商品取引業者向け貸付、リテール向け貸付、一般貸株、債券レポ・現先取引の5つの業務をセキュリティ・ファイナンス業務と総称することとしています。当社がこれまで培ってきた資金取引や有価証券取引に関するノウハウを有効活用して、収益機会の拡大に取り組んでいます。
業務別の利益の状況について、セキュリティ・ファイナンス業務全体としては前期比で55.4パーセント増の大幅増益となりました。個別に見ると、スライド表の一番下に記載している債券レポ・現先取引が国債需給のひっ迫による取引ニーズの高まりから、前期比91.2パーセント増の大幅増益となりました。
表の上から2番目に記載している金融商品取引業者向け貸付も引き続き好調です。また、一般信用ファイナンスは、前期より若干下回る水準でしたがリテール向けと一般貸株については増益となっています。
6.決算のポイント ③有価証券運用の状況(日証金単体)
有価証券運用の状況についてご説明します。当社単体での有価証券等の運用収支は、海外金利の上昇などの環境変化を受けて、今後のポートフォリオ運営を見据えた入替を実施し、国内債券の売却益と外貨建て債券の売却損を計上したことから、前期を下回る結果となりました。
7.2023年3月期 通期 日証金信託銀行 決算サマリー
当社の100パーセント子会社である日証金信託銀行の決算概況についてご説明します。日証金信託銀行では、顧客分別金信託などの管理型信託サービスに注力しています。中でも、アセットバックローン信託が牽引して、2023年3月期の信託報酬は過去最高を更新しました。
加えて、有価証券売却益の計上により、経常収益は33億6,600万円と前期比で4億400万円の増益となりました。また、経常利益は14億1,500万円と増益となりましたが、当期純利益は貸倒引当金繰入や法人税等増加の影響から9億7,500万円と前期比で4,700万円の減益となりました。
8.2024年3月期 業績試算値
2024年3月期の業績試算値についてご説明します。まず、単体の試算値についてです。試算の前提とした貸借取引の平均残高は、最近の市場動向をもとに、融資残高2,600億円、貸株残高2,100億円と想定しています。
スライド右側の表に赤枠で記載しているとおり、日本証券金融単体の2024年3月期の試算値は、セキュリティ・ファイナンス業務の残高増勢が一服することを見込む一方で、有価証券運用収支が改善することを想定し、営業利益は55億2,300万円と増益を見込んでいます。経常利益は74億5,200万円、当期純利益は57億4,300万円と子会社2社からの減配を想定し、減益を見込んでいます。
日証金グループ連結の試算値については、日本証券金融単体の業績上振れを踏まえ、営業利益を75億円、経常利益を85億円、当期純利益を61億円としました。なお、試算値は四半期ごとに見直しを行い、決算発表の際に公表しています。私からのご説明は以上です。
1.資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取組み等
櫛田誠希氏:社長の櫛田です。私からは、資本コストや株価を意識した経営の実現等に向けた当社の取り組みについてご説明します。
ご承知のとおり、2023年3月31日付で東証より上場会社に対して要請があった事項について、取締役会で議論をし、2023年5月15日に公表したものの抜粋となります。
これまで当社は、このような東証の要請の趣旨を踏まえた経営を行ってきています。第6次中期経営計画の3年間が終了して、今年度から第7次中期経営計画に入っていますが、現状の立ち位置からご説明したいと思います。
まず、経営目標については、中期的な経営方針・第7次中期経営計画において、株主資本コスト(4パーセント台半ば)を上回るROE5パーセントを経営目標に設定して、経営努力を継続していきます。
株主還元についても、2021年度以降2025年度までの間、配当と機動的な自己株式取得により累計で総還元性向100パーセントを目指す方針です。
このような取り組みにより、当社の株価・PBRも上昇基調で推移しています。2020年度から2022年度の3ヶ年が第6次中期経営計画になります。その前年度の2019年度と比較し、スライド表の数字のとおり、この3年間でROE・PBRはそれぞれ着実に上昇基調で改善してきています。
当社の資本コストの考え方についてはこれまでも開示させていただいていますが、客観的なデータ・複数の方法により推計を行い、株主資本コストは4パーセント台半ばという認識です。当社は証券・金融市場のインフラを支える企業として、財務の健全性や業務範囲への制約が法令や証券・資金決済システムの参加基準等により課されているため、事業戦略リスクは低く、財務及び収益の安定性は高いと認識しています。
このような点も踏まえ、当社の株主資本コストは、一般的な水準と比べて相当低いと認識しています。
1.資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取組み等
当社の制約等を踏まえた時に、ROEをどのように引き上げていくかを考えた際、計算上は純資産を大幅に減らすことによって、ROEを急激に引き上げるということも考えられます。
しかし、これは当社の特質といいますか、業務運営において課されている制約等を踏まえると、業規制への抵触の可能性や資金調達コストの上昇等の副作用も懸念されるため、適切ではないと取締役会で判断しました。
そのため、2025年度までの時間軸の中で、ROE5パーセントを達成していく取組みをしているわけです。
また、今もお話ししたように、この3年間、ROEの水準が着実に上昇してきています。2025年度までの5パーセント目標達成も視野に入るかたちで進捗しているのが現時点での評価です。
一方、PBRについては、2022年度末は0.64倍と1倍を下回っていますが、2019年度末の0.35倍から見ると、水準は低いとはいえ、着実に上昇してきています。こうしたPBRの上昇等についても、総還元性向を100パーセントとしてきたことが寄与していると考えています。
1.資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取組み等
中期経営計画をお聞きになっている方にはご説明しましたが、第7次中期経営計画において、ROE5パーセントの達成を経営課題として認識して進める上で、その骨子の基本は、当社がこれまで進めてきた経営改革の取組みの加速と深化です。
なお、中長期的な当社のサステナビリティを意識した時に、今後も経営環境の変化に機動的かつ柔軟に対応するためには、人材育成、あるいは人材ポートフォリオの多様性の確保を通じて、企業活力と組織変革力の向上に努めることが必要で経営重要課題であると認識しています。
その中で、第7次中期経営計画においては、このような人材育成面での取組みを推進していきます。
一方、2026年度以降についてはどうかということですが、2026年度以降についても持続的成長と資本効率の改善が企業価値向上を実現するドライバーだと思っているため、持続的成長と資本効率の改善を引き続き実現できるよう経営努力を重ねていく考えです。
1.資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取組み等
人材育成面についてひと言触れておきたいと思います。取締役会でも幾度も議論して、当社は人的資本ポリシーを制定しました。
企業価値創造の源である人材力の基盤強化を目的に、今後当社が人材育成をはじめとする人的資本形成に関する取組みを推進していく上での基本的な方針を取締役会で確認し、社員等を含めて周知することによって、人的資本基盤の強化に努めていきます。
人的資本ポリシーは、「ビジョン」「期待する人材像」「ビジョンに向けた取組み」という大きな項目からできています。
ビジョンはこちらのスライドに記載のとおりですが、1つ目は、まず社員が自ら業務遂行を通じて成長できる機会の提供と支援環境の整備に経営は努めるということです。働きがいを感じられる会社になるための基盤整備は、経営が責任を持って進めていきます。
2つ目として、社員が安心して業務に従事できるように、働きやすい職場環境づくりを今後も推進していきます。当社はコロナ禍において、常時50パーセント超のテレワークを実施しており、コロナ禍後も、テレワークを働き方の1つの形態としてしっかり位置づけていきます。
働きやすい職場環境づくりに今後もテレワークを活用していくことによって、社員にとっては働きがいがあり、かつ働きやすい職場環境を整備し、これを経営としてしっかり対処します。
そのようなことによって、社員エンゲージメントの向上を図り、企業活力と組織変革力、自らボトムアップで組織の環境変化に応じて柔軟に対応できる組織変革力を向上させることによって、生産性を高める働き方を実現することが、この人的資本ポリシーのビジョンです。
それとともに、あらためて社員に「期待する人材像」を示し、採用、育成、キャリアパス等、ビジョンを実現するための取組みに対する考え方を出し、順次具体化しています。
このように、第6次中期経営計画の中間地点まで一定の成果を見てきているわけですが、第7次中期経営計画において、さらに加速、強化を進めながら、併せて人的資本基盤の強化にも取り組み、PBR1倍超の実現を目指していくというのが当社の考え方です。
2.株主との対話の状況
東京証券取引所から要請を受けていた株主との対話の推進と開示についてもご説明したいと思います。
プライム上場企業としてコーポレートガバナンス・コードを踏まえ、株主との対話については、会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資するよう合理的な範囲で、どれくらいの頻度で、どんな項目について経営が株主と向き合って前向きに対応しているかを開示しました。
また、2022年度の株主との対話における主なテーマ・関心事項について、3つに整理して開示しています。
ここでは骨子について触れていますが、1つ目は企業価値向上、資本効率向上への取組みと成果です。多少繰り返しになりますが、当社からは第7次中期経営計画の期間中に株主資本コストを上回るROE5パーセントの達成を経営目標として、収益力・資本効率の向上に努めていること、第6次中期経営計画上の取組みの積み重ねによって、当社のROEは近年着実に上昇していること、また、2022年度目標のROE4パーセントの達成については第6次中期経営計画において実現できたことを説明しています。
第7次中期経営計画においてはROE5パーセントの達成に向けて努力するわけですが、それ以降についても継続的な取組みを期待するというご意見もいただいています。
それについては2026年度以降についても、より高いROEを実現できるよう経営努力を重ねていく方針を含めて、当社の考え方を5月15日にプレスリリースを出しています。より詳細な内容については、そちらを併せてご覧いただければと思います。
2つ目は、役員の指名プロセス等、ガバナンス上の取組みについてです。2022年度を通じて、当社からはこれまでのガバナンス面の取組みをご説明してきたわけですが、株主のみなさまからの意見も踏まえ、社外取締役が主導する指名、報酬委員会や取締役会の運用面、あるいは社外取締役から問題提起があったことなどにフォーカスして開示を行いました。
今年の3月から当社Webサイトにて「当社の経営陣の選任とこれを展望した内部人材育成の考え方」として掲載していますので、ぜひご覧ください。
3つ目が情報開示です。統合報告書発刊等の取組みをご説明しましたが、みなさまのご指摘を受け、情報開示に関する課題を取締役会で共有し、体制整備に向けて取り組んでいる状況です。
東証の要請を踏まえて、このような株主のみなさまとの対話の状況をとりまとめてプレスリリースを発表しています。みなさまからいただいたご意見は速やかに社内で共有し、取締役会や各委員会での議論につなげていけるよう、今後も努めていきます。
3.株主還元
2021年度以降、配当および自己株式取得の機動的な実施によって、累計で総還元性向100パーセントを目指す方針をとっています。
配当については、1株30円を下回らない範囲で積極的な配当を目指しています。2023年度の株主還元については、配当予想として前期比2円増配の年間34円、自己株式取得については330万株としました。これは対発行済み株式の3.8パーセントにあたりますが、金額としては33億円を上限に実施すると公表しています。
これに基づいて株主還元を実施すると、業績試算値をベースとすると2023年度の総還元性向は101.4パーセントとなる見込みです。私からのご説明は以上です。