原発融資に貿易保険を適用
2017年9月2日の日本経済新聞は、日立製作所(6501)が英国に建設する原子力発電所(ホライゾンプロジェクト)について、日本の大手銀行が融資する建設資金を日本政府が日本貿易保険(Nippon Export and Investment Insurance、NEXI)を通じて全額補償すると報じています。
日立は運営主体であるホライズン・ニュークリア・パワーを2012年に買収しました。その後、英国の規制当局から改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)と呼ばれる原子炉の型式認証やサイト許認可を取得するための取り組みを進め(2017年中に完了予定)、さらに現在100%の出資比率を50%以下に引き下げ、オフバランス化するために新たな投資家を探す活動も行っています。
また、EPC(設計、調達、建設)を円滑に推進するために、米べクテル社(原発のEPCの経験を持つEPCコントラクター)や日揮(1963)とともにEPCコンソーシアムも設立しています。
日立は原発の建設実績はあるものの発電事業運営の経験はないため、カナダで原子力を含む発電事業のトップを務めた経験を持つダンカン・ホーソーン氏を社長兼CEOに招聘。加えて、日本原子力発電と米エクセロン社との合弁会社から建設費評価、許認可策定、運転保守などのサポートを受けられるスキームを作り上げています。
そもそも日本貿易保険(NEXI)とはどんな会社か
ここで普段、あまり馴染みのないNEXIという組織と貿易保険の仕組みについて簡単に解説します。
同社は「対外取引において生じる、通常の保険によって救済することができない危険を保険する事業を、効率的かつ効果的に行うこと」を目的に、2001年に独立行政法人日本貿易保険として設立されました。
2017年4月にはガバナンスの改善などを目的に株式会社に改められていますが、資本金の1,693億円は政府による全額出資となっています。
株式会社化後は国による再保険の仕組みは廃止されましたが、非常時にも保険金の確実な支払を担保するため、引き続きNEXIの資金調達が困難な場合には政府が財政上必要な措置を講ずることが決まっています。
また、NEXIが保険引受に際して従うべき引受基準を国が定め、一定の重要案件については国がNEXIに対し意見を述べることができるとされています。
なお、2017年3月期の売上高にあたる経常収益は173億円、経常利益は76億円、年度末の総資産は5,740億円、自己資本比率87%でした。
日立にとってのメリット、デメリットとは
ホライゾンプロジェクトの総事業費は2兆円超とされ、日英政府、日本政策投資銀行、国際協力銀行(JBIC)などが当初は投融資を実施する見込みです。また、大手邦銀からの融資も募る予定です。
今回の報道通りにNEXIからの全額補償を受けることできれば、大手邦銀から融資が受けやすくなります。また、日立は、将来にわたって電力事業者になる考えはなく、いずれ株式の売却を目指しているため、新たな投資家を見つけやすくなることも期待されます。
このようなメリットがある一方で、「国に近寄りすぎる」ことが、将来のデメリットとなる可能性も考えられます。
政情が不安な新興国への輸出に使われることが一般的であった貿易保険を、英国という先進国向けのプロジェクトに使えるようになったのは、「インフラ輸出」と「原子力人材の確保」を進めたい国の意向が働いたと考えられます。国にそこまでしてもらうと、引くに引けなくなる可能性が懸念されます。
『日立の英原発プロジェクト、東芝問題を「他山の石」とできるのか?(投信1)』にあるように、今年6月に行われたIRデーにおいて、日立は民間企業、営利追求企業としてこのプロジェクトを進めるという趣旨の発言を行っています。
また、他の出資社が見つからずオフバランス化の見通しが立たない場合や、電力の買い取り価格がリターンを期待できる水準でなければ、「撤退」という判断もありうると示唆されていました。今後、こうした考えに変化がないかを注視していきたいと思います。
LIMO編集部