厚生労働省の発表した調査データによると、2021年度の育児休業取得率は女性が約8割、男性が約1割という結果となりました。

育児休業の取得率はまだまだ女性のほうが多いですが、政府の政策により男性の育児休暇取得率は年々増加傾向にあります。

近年、女性の社会進出が進んでいることから「女性だけでなく男性も育休を取得する」という取り組みが進んでいます。

「育児休業」のテーマが働く人のなかで大きくなってきていますが、実際の働く人々にどのような影響をもたらしているのでしょうか。

本記事では、2023年5月9日に公表された調査データをもとに、育児休業に関する実態について、キャリアアップの観点から解説していきます。

「育児休業の制度」政府の推進で何が変わった?

女性の社会進出の促進や少子高齢化問題を受けて、政府は育児休業に関する改正を進めています。

近年においては、2022年4月と10月、2023年4月に、育児休業に関する新たな法改正が施行されました。

出所:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」を参考に筆者作成

上記を段階的に施行することで、女性だけでなく男性の育児休業がより取得しやすいように政策を進めています。

とくに今回の法改正によって、男性の育児休業がよりしやすくなりました。

具体的には、育児休業の分割して取得できるようになったため、長期的に仕事を離れる必要がなくなり、パートナーの育児負担が大きいタイミングで分割して育児休業を申請できます。

また、「産後パパ育休」という制度も新設されており、育児休業とは別で休業申請が可能です。

上記のような取り組みが進められていることから、徐々に男性の育児休業取得率が増加傾向にあります。

実際、厚生労働省の「育児・介護休業法の改正について」によると、女性の育児休業取得率は8割台を推移している一方で、男性の取得率は数年で急速に増加していることがわかります。

出所:厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」

10年前のデータと比較すると、男性の育児休業取得率は数倍以上となっており、最新では13.97%。

まだ課題は多いものの、徐々に男性も育児休業が取得しやすくなっている環境になりつつあるといえます。

育児休業「収入の減少」不安から取得しにくいのが現状

前章では、法改正により女性だけでなく男性も育児休業が取得しやすくなってきていることを解説しました。

とはいえ、まだ女性と比較すると男性の育児休業取得率は依然として低い数値となっています。

社会的な動きとしては、育児休業の取得を推進しているのにも関わらず、なぜ取得率が10%台にとどまっているのでしょうか。

株式会社マイナビは、小学生未満の子供を持つ正社員800名を対象に「育休に対する男女の意識差と実態調査」を実施しました。その調査から課題を紐解いてみましょう。

調査概要は下記のとおりです。

  • 調査期間:2023年3月3日(金)~3月5日(日)
  • 調査方法:小学生未満の子供を持つ20代から40代の男女会社員(正社員)・公務員
  • 有効回答数:800名
  • リリース公開日:2023年5月9日

上記調査の結果、男性が育休を取らなかった理由として「収入減少」が最も多く挙げられました。

出所:株式会社マイナビ「マイナビ転職、育休に対する男女の意識差と実態調査を発表」

子どもができると家族が増えるため、収入面を不安視する人が多いと考えられます。

また、次いで多かった内容として「人手が足りていないなど、職場に取得してはいけない空気があった」「職場に前例がない」などが挙げられています。

育児休業を取得しなかった理由のどれもが女性より高い結果となっていることから、男性の育児休業取得のハードルの高さがうかがえます。

男性の育児休業の促進はここ数年から本格的に取り組みが始まっているため、前例がないことで周りに理解してもらえないという課題があるのが現状です。

しかし、男性の育児休業取得の向上は、女性の育児や家事の負担を均等化させられるだけでなく、女性のキャリア継続の促進にもつながります。

生涯の世帯年収にも影響を与えるでしょう。

政府や企業の今後の取り組みにおいて、「職場での前例作り」や「人手不足の解消」、「育児休業を取得しやすい雰囲気作り」などが、育児休業の取得率を上げる打開策として今後求められる部分になります。

女性の5人に1人が「育休によるキャリアへの影響」を不安視

株式会社マイナビの調査によると、育児休業取得によるキャリアの影響は男性女性ともに「分からない」が1位となりました。

しかし、20.5%の女性は「育児休業取得により昇進にネガティブな影響」がありそうと回答しており、約5人に1人がキャリアへの影響を不安視していることがわかります。

出所:株式会社マイナビ「マイナビ転職、育休に対する男女の意識差と実態調査を発表」

育児休業から職場に復帰した後も、子どもを保育園に預けられる時間が限定されるために時短勤務を余儀なくされたり、子どもの体調不良で休みを取らざるを得なくなったりすることから、キャリアへのネガティブな影響を不安視しているようです。

一方で、男性の半数以上が「分からない」「影響はなさそう」と回答しています。

これは、女性よりも育児休業の取得日数が少ないことが理由のひとつとして挙げられます。

実際に厚生労働省の発表した「育児・介護休業法の改正について」によると、女性の9割以上が6ヶ月以上の育児休業を取得しているのに対して、男性の多くが取得していない、または取得しても2週間未満であることがわかります。

育児休業の日数

出所:厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」

男性の育児休業の前例の少なさから影響が予測しづらかったり、現状の育児休業の取得日数が数日であったりすることから、女性よりも「キャリアへの影響が少ない」と感じている男性が多いのでしょう。

育児休業が周知されつつある現代では、今後さらに育児休業の取得率は男女ともに増加していくことが予想されます。

上記のデータを見る限り、育児休業の取得率増加に伴い、キャリアへのネガティブな影響を不安視する声も多くなることから、育児休業後の社会復帰の支援にも今後力を入れていくことが重要になるといえます。

育児休業取得率の増加のための今後の課題

本記事では、実際の調査データをもとに、育児休業に関する実態について、キャリアアップの観点から解説していきました。

2022年4月から育児休業の法改正が進み、男性の育児休業取得率は増加傾向をたどっています。

しかし、依然として「前例がないこと」や「育児休業を取得できる雰囲気ではないこと」から、育児休業にの取得に抵抗がある男性が多いことがうかがえます。

また、キャリアに関する調査では、女性の5人に1人が「育児休業によるキャリアへの影響」を不安視していることがわかりました。

今後、育児休業取得率を増加していくにあたって、育児休業を取得できる環境作りだけでなく、育児休業取得後のフォローアップや対策が、政府や企業に求められるようになるでしょう。

参考資料

太田 彩子