東京に住むA子さん(40代)は、最近実家の母親から「田舎のお墓が壊れかけているという連絡があって、直してもらった」という連絡を受けました。A子さんの実家は大阪市近郊のベッドタウンにありますが、お墓は実家から車で3時間以上かかる田舎にあり、滅多にお墓参りにも行きません。お墓は遠い親戚が見てくれていますが、年々親戚づきあいも減っており、このままでいいのかと不安に思っています。
こうした悩みはA子さんばかりに限りません。今、お墓を持てない、維持できないなど、お墓の問題に直面する人が増えているのだといいます。
継承者問題や経済事情から葬送やお墓のあり方が多様化
「お墓は守る人がいないと継続的に持てない。結局は継承者問題が一番です」と話してくれたのは、全国石製品協同組合(以下、全石協)で事務局長を務める筒井哲郎氏です。
高齢になるにしたがってお墓の管理が難しくなってきた人や、地方から大都市圏に出てきて生活の拠点を構えており、田舎のお墓をどうするかという問題に直面している人が今、増えているのです。
全石協では「お墓の引越しドットコム」というサイトを運営し、お墓の引っ越しである「改葬」をメインに扱っていますが、40代以上の問い合わせが多いといいます。その内容は、現在のお墓の状況に始まり、家族や親族の構成、場所、離檀の問題、予算など全般に及び、なかには「墓じまい」の相談などもあるそうです。
一方、近年では葬送やお墓の形も多様化しています。お墓を持たず、海洋葬や樹木葬を望んだり選んだりする人が増えているほか、東京などの都心部にはビルの中などにある「室内墓」が次々に開設され、アクセスの良さやメンテナンス不要の点が注目されています。
このような背景には、故人の生前の意向を反映する手段を増やすということに加え、個々の考えの多様化、経済事情などの側面もあるといえそうです。
平面墓地のお墓を希望する人はどのくらい? 室内墓の認知度は低いという結果も
全石協が2017年に公表した2つのアンケートから、最近のお墓に関する考え方や認知度も見ておきましょう。
まず、お墓について相談したいことがある40代以上の男女266人を対象に行った「お墓に関するアンケート調査」(2017年5月公表)で希望するお墓の形態をたずねたところ、平面墓地(一般的な墓地)が59.8%、次いで永代供養墓(寺院などが管理)が22.9%、散骨が7.1%、お墓はいらないと答えた人は5.3%という結果になりました。このうち「お墓の継承者がいる」と答えた人では、平面墓地が81.1%、永代供養墓が13.5%、お墓はいらない、散骨を希望すると答えた人はそれぞれ2.7%でした。また「継承者がいない」という人でも、平面墓地を希望する人は44.5%にのぼりました。ただし、散骨を希望する人も10.3%と、前年の調査に比べると増加傾向にあります。
一方、30代以上の男女3,309人を対象に調査を行った「室内墓に関するアンケート調査」(2017年8月公表)では、回答者の76.4%が室内墓を知らず、その認知度の低さゆえか、回答者の80.5%が室内墓に入ることを希望しないという結果になっています。
もし東京23区内でお墓を建てるとしたら、その費用は?
実際にお墓を建てようとすると、どのくらいかかるのでしょうか。筒井氏によれば、平面墓地の区画(1.2㎡)にお墓を建てる場合、東京23区内では260万円~520万円、神奈川県なら120万円~360万円。墓石の種類、墓地の場所などによって費用は大きく変わるといえます。ちなみに関西は東京に比べると2割ほど安くなる傾向ということです。
一方、墓石を建てず、樹木や花を墓標にする樹木葬は10万円台からプランがあるようです。また、室内墓の場合は50万円~200万円、改葬なら50~300万円かかるといいます。室内墓の費用の幅が大きいのは設備の違いであり、改葬の費用の幅が大きいのは、墓石の扱いによる違いだと筒井氏は説明します。
「改葬で最も費用がかかるのは、新規で墓石を購入すること。永代供養塔などに合祀する場合、個別の墓石は必要ないため、新しい墓石の用意も以前使っていた墓石の運搬も必要ありません」(筒井氏)。
若年層ほど「絆」を意識する傾向。求めているのは「寄り添える場所」?
子供に負担を強いたくない、面倒なことをさせたくないと考えた結果、墓じまいや散骨などを検討することもありそうですが、残される者がそれを望むとは限りません。
実際に、全石協がとったアンケートでは、永代供養墓や樹木葬などにしたものの何らかの後悔があるという人の割合は一般の墓地にお墓を建てた場合に比べて圧倒的に多いという結果が出たそうです。筒井氏は「本人が散骨などを希望していても、周囲は手を合わせる場所や家族が寄り添える場所がないと不安だと考えていることもあります」と話します。また、東日本大震災以降には特に若年層を中心に「絆」への意識が顕在化しているともいいます。
「『日本人の良さ』ということを口にするお客様も増えました。もしかするとグローバル化によって、改めて自分たちの足元を見つめ直しているのかもしれません」(筒井氏)。
これからのお墓事情はどう変わるのか
筒井氏は、昨今の多様化の根底には「供養心」があるのではないかと分析します。つまり、偲ぶ気持ち、供養したいという思いがあるからこそ、それぞれの経済事情に合わせた方法が選べるようなってきたのだというわけです。実際に、葬儀の方法だけでなく、供養の方法も多様化しており、お墓参り、仏壇に手を合わせるといった従来からの方法はもちろん、最近では小さな容器やペンダントに少量の遺骨や遺灰を入れ、身近に置いて供養する「手元供養」も登場しています。
筒井氏は「多様化はしつつもお墓を建ててお参りする、供養するという形は続いていくのではないか」と話します。「とはいえ、都内でも朽ち果てているお墓が多いのは事実です。霊園を増やし続けるわけにもいきません。たとえばヨーロッパでは、埋葬後何年かたって継承者いない場合は合祀墓に移し、(従来の区画には)新しい人が入る『再販』が増えているようです。日本でも今以上にこうした仕組みを考えていく必要が出てくるでしょう」。
まとめ
葬送の方法やお墓のあり方などの選択肢は今後ますます多様化していきそうですが、たとえ家族であっても考え方は違うものです。「もしかすると相談もせずに思い込みで決めていることがあるのでは」と筒井氏も話していました。「終活」に限らず、一度家族で話し合う機会を持つのも良いかもしれません。
LIMO編集部